フォルマント兄弟『NEO都々逸』シリーズ#2

せんだいドドンパ節

・・こんにちは! 高音キンです。新曲、せんだいドドンパ節、歌います!

ハァ〜、せんだいメディアの~、ヲどりだよ~~

ヲどり楽しや、ドドンパのリズム
アーキテクチャの蜃気楼だョ
イリュージョン

歌は悲しや、こわいろ自在に 
主(ぬし)を呼べども、返事(こたえ)は聞けぬ
フォルマント

ハァ〜、せんだいメディアの~、ヲどりだよ~~

からだ恋しや、コピーのたましい
機械に取り憑く、電子のアウラ
高音キン

いつかアナタに会いたいナ、
だけどワタシはメディアのからだ・・(どどんぱ・・・)

ハァ〜、せんだいメディアの~、ヲどりだよ~~

・・おしまい!


高音(たかね)キン
(interactive vocaloid)

「せんだいドドンパ節」について
 レコードやCDで音楽を楽しむことが日常のこととなっている現代において、音楽は聴くものだと考えられている。しかし、聴かれるためだけに音楽はあったのだろうか? おそらくそうではない。音楽はいつも踊りと共にあった。いや、踊りのためにあったと言ってもそれほど間違ってはいないだろう。もちろん、多くの宗教音楽、例えば聲明やコーランの朗唱、讃美歌など、踊りとは直接結びつかない「唱える音楽」をぼくたちは知っているが、そもそもそれらを本当に「音楽」と呼ぶべきなのだろうか? まさに西洋の教会音楽だけが「正式な」音楽を主張し、他を「世俗音楽」として峻別したのである。そうであるにもかかわらず、西洋音楽全体の歴史を見ればやはり、ヨハン・シュトラウスのワルツはもとより、「舞曲集」であるバロック以後の無数の組曲形式などの例を挙げるまでもなく、音楽は踊りのステップ、すなわちリズムと無関係ではあり得なかったのだ。その事情は20世紀以後になっても変わらない。現在でも社交ダンスをはじめとする様々なダンスのステップは踊りの名でもあり、同時に音楽の様式の名前でもある。
 リアルタイムの歌唱合成により日本の伝統音楽の作曲に挑み「NEO都々逸」を発表したF兄弟は、チャチャチャやルンバ、マンボなど、戦後日本で流行した無数の「ダンス音楽」の中でも特にドドンパに注目した。その理由はドドンパが「都々逸とルンバを足したものである」とWikipediaで解説されており、NEO都々逸シリーズの二作目を模索していた兄弟にとって格好の由来を持つものにみえたからだ。しかし、インターネットでさらに詳しいドドンパの起源を探していくうちに、おそらくそれは誤りであり、真実は、同じWikipediaの「アイ・ジョージ」の項にある・・
”フィリピン起源のオフ・ビート・チャチャチャを、比人バンドが持ち込み、それにジョージの仲間であるクラブアローのバンドマンが目を付け、計画的に流行させたものである。ただ、三拍目を三連音符に換え、ドドンパと命名したのはジョージである。このことを考慮すると、アイ・ジョージはドドンパの生みの親といっても過言ではない。”
ということらしい。ドドンパが都々逸とは無関係であるらしいことを知り、F兄弟は一度は落胆したものの、むしろ昭和日本で流行したダンスがすべて「輸入」に頼っていた中で、このドドンパは唯一の「和製ダンス音楽」として意図的に作られたものであったことを知って興奮したのである。この説に従えば、ドドンパを特徴付ける二拍目のアクセントという原型は既に与えられていたにしても、「三拍目を三連符にする」(音楽的には三拍目だけでなく、すべての拍が3分割されることになるので、むしろ全体を8分の12拍子として捉え直したと考えるべきだろう)という、他にはない強烈な個性を持ったこのリズムが日本で生まれたことは画期的なことだったに違いない。しかも、それは一時的な思いつきにとどまらず、「お座敷小唄」などドドンパの名を冠していない曲はもとより、最近の「きよしのドドンパ」に到るまで、時を隔てつつ幾度も回帰する、日本音楽史上におけるひとつの定番となったのである。

 F兄弟は、海外の流行を単に模倣・変奏することに終始する日本の音楽史上唯一の例外ともいえる独創的なダンス音楽としてこのドドンパのリズムを敬意を持って踏襲しつつも、平成の新しいドドンパを目指した。すなわち、二拍目のアクセント、各拍の三分割というドドンパの基本の上に、レゲエ風バッキング・ギターを組み合わせ、そこに仙台民謡「さんさ時雨」から引用した掛け声を周期的に挿入することによって、4分音符8+10拍という変拍子を繰り返すリズムを創り出したのである。本来、ダンス音楽に変拍子は踊りにくいと敬遠されるようだが、特に日本の盆踊りなどには何の違和感もなく変拍子が使われている事例が少なからずあることを踏まえ、あえてその常識に挑戦し、日本の作曲史上に偉大な足跡を残したアイ・ジョージ氏に続く独自の「和製ダンス音楽」の可能性を目指したのが、この「せんだいドドンパ節」なのである。

2010年8月7日 フォルマント兄弟(三輪眞弘+佐近田展康)

譜例:(抜粋「ハァ〜、せんだいメディアの~ ...」)