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情報学基礎

レポート:山田晃嗣(情報科学芸術大学院大学 准教授)


2017年5月2日(火)から5月19日(金)まで約2週間にわたり、1年生を対象にした「情報学基礎」を実施しました。今年の課題は、無線タグ付き加速度センサー(以降センサーと記す。)を用いて身体動作を取得し、幼稚園児を対象に複数人が参加できる遊びを提案することです。センサーをなんらかの道具に装着して利用するのか、体のどこかに装着して利用するのか、それらのデータをどう使い、どのようなメディアに何を出力させるかなど園児の遊びを考えます。
一つの遊びには複数の「あそび方」があります。この授業では「遊び」が本来持っている可塑性や柔軟性を意識することで園児の創造性や想像力ともつながる「遊び」を考えます。特に、園児自身が遊びを主体的に生み出すことができるような「すきま=あそび」を念頭に置きました。
学生は5つのグループに分かれ、遊びのワークショップを考えて、プログラム制作やセンサーの実装を行い、最終的に13人の園児を対象に2回のワークショップを行いました。
これらの活動を通して情報工学的な技術の習得と共に、「遊び」が生み出される場に着目することを目指しました。

センサー・プログラミング(5/2〜5/8)

テキストベースのプログラミングの基礎としてProcessingを扱いました。簡単な課題をもとに、学生全員がプログラムに関わりました。グループメンバー内で、プログラムを互いに教えあう環境にしました。授業ではセンサーの説明の後、予め準備したセンサーで動作するサンプルプログラムを実際に動作させ、プログラムの修正や追加を通して、学生各々が興味を持ったセンサーの特性やシステムの特性を踏まえてプログラムを組めるようにしました。最後に、個人プログラムの実装と発表を行いました。

幼稚園訪問(5/9)

既にセンサー・プログラムの概要を把握できていることを前提に、ワークショップを予定している大垣市立東幼稚園を実際に訪問しました。園内での日常の遊びの観察を通して、園児の興味や関心などを発見すると共に、園児とのコミュニケーションの取り方などを体感し、ワークショップの実施内容を探る機会としました。最後に園長さんの話を聞き「幼稚園での遊び」への理解を深めました。

遊びについて(5/9)

ワークショップを立案するにあたり、再度「遊び」について考える場を設けました。その中で、ルールのある遊びやゲームを前提として考えるのではなく、ルールを自ら生み出すことや身体活動とその反応の間に見られる試行錯誤や発見する活動にも遊びが含まれることに注目し、遊びの持つ広がりや柔軟性を確認しました。
特に、J・ピアジェの遊びの構造の三つの類型、①感覚運動的な遊び-練習の遊び[exercise play]、②シンボル(象徴)的な遊び[symbolic play] 、③規則の遊び[regulation play]を元に、それらが児童の発達段階に応じて獲得されていくことと同時に、三つの要素が様々な遊びの中に混在している様子を、ブリューゲルの絵画「子どもの遊び」を参考に概観しました。

グループアイデアの検討・学内発表(5/8〜5/15)

園児たちが何に興味を持ち、どの程度のルールを理解するのかという、幼稚園を訪問した際の体験をもとに、ゲームに参加させるというよりも、そこで起こっていることの面白さを園児らがどのように感じてもらえるかなどを考え、グループごとにワークショップを立案しました。まずそのプランを学内で発表し検討を加え、各グループで絞りこんだワークショップを実際に学内で実演する中で内容や進行を確認しました。

幼稚園でのワークショップ(1回目:5/16、2回目:5/18)

準備・撤収なども含めて1グループあたりのワークショップ持ち時間は約20分、全5グループのワークショップを5/16と5/18の2日間行いました。

Aグループ タイトル:「おどってぬりぬり」

園児の腕や足など体の一部にセンサーを取り付け、センサーの傾きによりプロジェクター画面の図形が動いたり、色が塗られたりするプログラム。園児の活動後に、体の動きの様子をKinectの深度情報やカメラで撮影した映像が再生され、園児は自分の体の思わぬ動きを発見します。自分の身体動作と画面図形を試行錯誤しながらマッチングさせることや、体の動きを再発見するなどの興味深い観点が含まれていました。

Bグループ タイトル:「パタパタばこ」

園児の体よりも大きい3つの六面体の箱にセンサーを取り付けることで、箱の接地面に応じて、3分割されたプロジェクター画面の色が変わったり、音が鳴ったりします。3つ全てが同じ色になった場合は画面が独特の変化をします。園児にとってはとても大きな箱を彼等自身が協力して倒したり引きずったりする場を生み出しました。また色を揃えるなどのルールや発想が園児たちから出てきたことも印象的な出来事でした。

Cグループ タイトル:「たまごさがし」

センサーが仕込まれた「特別な」3つの「たまご」(カプセル)と、何も入っていない「たまご」が混じったプールが用意されます。その中から特別な「たまご」を探し出すゲームです。特別な「たまご」は振ると音が鳴ります。プログラムの後半では、その特別な「たまご」を振るとプロジェクター画面に花の画像が次々と現れ、様々な色の花で埋め尽くされます。単純な「探す」という目的が設定されながら、それに至る行為は様々で、その中に考えたり工夫したりすることが含まれていることが見いだされました。

Dグループ タイトル:「くねくねくねね」

身体に取り付けたセンサーによって、特定のジェスチャーに反応して、「こんにちは」など園児に聞き慣れた言葉が発生されるようにプログラムされています。最初に体の一部にセンサーを取り付けた後、園児はファシリテータからの指示でジェスチャーをし、ジェスチャーとそれに対応した言葉遊びをします。日常のありふれた動作が、奇妙な意味を帯びてくる、園児自身がその中に楽しさや面白さを発見できたように思います。

Eグループ タイトル:「ぱかぱたたいそう」

それぞれ5人程度の2つのグループを作ります。グループそれぞれに渡された大きな布にセンサーが取り付けられています。それぞれの布に対応して、プロジェクター画面に正三角形と正方形が割り当てられ、園児らが布をパタパタと振るなどの動作をすることによって、二つの図形の位置や大きさが変化します。布を振ると画像が大きくなるという、とても単純な仕組みでありながら、園児達が考えたり協力しあったりなど、とてもダイナミックな動作が見られました。

活動報告(5/19)

最終日に学内で映像などを使った活動報告を行いました。
センサーを使ったワークショップであるため、子供たちがセンサーの付いた道具をどのように使いこなすのか、またそれらを使ってどのように園児達自らが考えるような場を生み出すことができるのか、など学生自身が考える要素は多くありました。今回はゲームのようなルールを持った遊びを前提とするのではなく、体を使って遊ぶという状況が自発的に生まれてくる場にすることが重要でした。ワークショップ初回の反省を生かして次のワークショップで改良するグループもあれば、学内でのこれまでの自分たちのアイデアを押し通してワークショップ構成してきたグループなど多様な発表がなされました。

担当教員:小林孝浩、安藤泰彦、山田晃嗣