Sender: aka@incubator.net (masayuki akamatsu)
Posted: Sun, 14 Mar 1999 14:24:20 +0900 (JST)
To: staff@incubator.net (incubator staff)
From: aka@incubator.net (masayuki akamatsu)
Subject: memo of incubator 0314
Cc: audience@incubator.net (incubator audience)
MIME-Version: 1.0
Date: Sun, 14 Mar 1999 14:24:45 +0900
Precedence: bulk
Reply-To: aka (a) iamas.ac.jp

赤松です。お疲れ様です。

インキュベータも最終日になりました。今日の作品について簡単にお伝えします。

タイトル「Type A, Type B, Type C and more」

・Type A
画面には人の目が表示され、目を閉じたまま、かすかに動いています。画面上部にある内蔵マイクが捕らえる音が一定以上の音量になると、目を見開き、しばらく後に目を閉じます。この時、まぶたの開閉に合わせてカメラのシャッター音が鳴ります。
ここでは、電子ネットワークは使っていません。個々のコンピュータがマイクが捕らえる音に従って個別に動くだけです。ただ、あるコンピュータが放った音を、他のコンピュータが捉えて、連鎖反応のように音が伝搬することもあります。つまり、この作品は電子テクノロジー以前のネットワークのアナロジーと考えることができます。

・Type B
画面には小さな青い光がまたたいています。コンピュータは時折、明るく白い光を放ち、チャイムを鳴らし、電子ネットワークを通じて他のコンピュータに呼び掛けます。呼び掛けられたコンピュータは、それを無視することもあれば、返事を返すこともあります。2つのコンピュータの間で交信が続けば、それは交互に点滅する音の連なりとなり、コンピュータ同士が会話しているように見えます。そして、このような音の繋がりが何箇所かで起こると、会場全体としての音響が形成されることになります。また、内蔵マイクが捕らえる音によって、コンピュータを鳴らすこともできますが、これはネットワークに外部から投げ込まれるノイズとしての役割を果たします。
この作品では、電子ネットワークを通じて、独立して動作するコンピュータ同士が明確なコミュニケーションを行います。つまり、これは自律分散型ネットワークであり、誰も正確には制御できない作品となります。

・Type C
画面上のオシロスコープには、コンピュータが鳴らしている音の波形が表示されます。コンピュータはいくつかのサンプリング音を加工して多種多様な音を生み出します。画面には小さく波形が表示されるだけですから、視覚的要素は最小限となる一方で、音響的には最も多彩な展開が繰り広げられます。
ただし、この作品には内蔵マイクが捕らえる音も、コンピュータ同士のコミュニケーションも影響を与えません。すべては、演奏者が操作するホストコンピュータからの指令に従って動作しているのです。つまり、これは集中管理型ネットワークであり、個々のコンピュータに与えられた自由度さえも、ホストコンピュータを操作する演奏者に支配されています。

このように、3つの小品によって作品を構成します。すなわち、非電子ネットワーク、自律分散型ネットワーク、集中管理型ネットワーク、の3タイプです。すべてのコンピュータが同じタイプを動作させることもあれば、それらが混在することもあります。

4時間の開場時間中は、パフォーマンス等の特別な区切りは設けずに、断続的に作品を変化させながら進行させます。おそらくは、後半から終盤にかけては、次第に盛り上がるような気もしますが、事前の構想はありません。ネットワークをアンチ・クライマックスと考えることは、極めて自然であると思うからです。

同様に、ハードウェア的に不安定なネットワーク環境を完璧な状態に仕立て上げることは困難なので、これもネットワークの特性として認容しています。コミュニケーションができなくなったり、動作不良を起こすことが予想されますが、現実のネットワークも同じなのですから、この作品だけに完全性を求めるのは無意味だと思うわけです。

つまるところ、この作品はネットワークそのものであり、この会場に現出するネットワークを通して、現実の社会の電子ネットワークがもたらすもの、そして電子テクノロジーによって我々がどこへ向うのかを考察する場になります。

最後になりましたが、作品実現に向けて多大なご協力をいただいたスタッフの皆様には、感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございます。

では、また後ほど。

赤松正行