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展覧会場は廃校となった小学校の体育館

鑑賞者が近づくとタイムラインが浮かび上がる

左右移動によって写真の年代を選ぶ

上下移動や前後移動によっても表示が変わる

鑑賞者が大きく動くと様々な写真が現れる

鑑賞者が注目する写真が拡大表示される

様々な年代の写真が出会っては消え行く

展覧会では写真パネル等も展示された

写真を背景にした即興パフォーマンス

ダンスと打楽器演奏と映像表現

ビデオカメラによる時間の再構成

概要

「邂逅録」は約1,000枚もの歴史的な写真の表示装置であり、鑑賞者は、自分自身の身体動作によって表示する年代や枚数を操りながら、暗闇から浮かび上がり、舞い散るような数々の写真を観ることになる。

この作品は第3回「私と町の物語」展覧会において、地域住民から提供された明治初期から現代に至るまでの多種多様な写真を用いている。人々は写真を通して過ぎ去った時代に出会い、時間を超えた様々な事象が織りなす光景に、都市化の進む地域における歴史とコミュニティが浮かび上がる。

なお、同展覧会では、これらの写真やビデオ・カメラを用いて、映像、ダンス、音楽による即興パフォーマンスも行われた。

写真

「邂逅録」で用いた写真は、赤坂、青山、新橋、麻布などの地域に古くから住む人々から提供され、そのほとんどは写真専門家ではなく、一般市民が撮影したスナップ写真や記念写真である。その数は約1,000枚に及び、撮影年が判別しているもので1877年(明治10年)から2003年(平成15年)までの127年間に渡っている。

これらの写真はスキャナーで取り込まれ、色調補正やトリミングを施した後、撮影年月日、撮影場所、撮影者(または所有者)とともに簡易な画像データベースが構築された。なお、展示では用いなかったが、このデータベースには所有者のコメントなども含まれている。

表示・動作

「邂逅録」の表示には、50型のプラズマ・ディスプレイを3台使用し、これらを横一列に並べている。このプラズマ・ディスプレイは横1,366ピクセル、縦768ピクセルの解像度を持つので、3台では横4,098ピクセル、縦縦768ピクセルもの広大な表示領域を持つことになる。

コンピュータは、ディスプレイ正面奥のカーテンに隠されたビデオ・カメラからの映像を通じて、鑑賞者の動作を解析する。そして、鑑賞者の動作によって、どの年代の写真を表示するか、そしてどのように写真を表示するかを決定し、画像データベースから取り出した写真を3次元空間に配置し、漸次的な変化を付けながら空間移動させる。

鑑賞者から見れば、デイスプレイに近づくと白いタイムラインが現れ、鑑賞者の左右位置に応じた位置から写真が浮かび上がる。写真は、ゆるやかに回転移動しながら鑑賞者に接近し、やがては周囲に飛び去る。また、鑑賞者の上下移動や前後移動によって、現れる写真の数や移動の仕方が変わる。従って、鑑賞者の動作によって、様々な写真を花吹雪のように浮かび上げることも、ひとつの写真をじっくりと鑑賞することもできるようになっている。

機材構成

  • コンピュータ Apple / PowerMac G5/2GHz Dual
  • 拡張ビデオカード ATI / Radeon 9200 PCI
  • プラズマ・ディスプレイ Panasonic / TH-50PX300(3台)
  • ビデオ・カメラ Panasonic / NV-GS100K-S
  • 開発環境 Cycling'74 / Max/MSP/Jitter
  • 設置台 特製

考察

「邂逅録」の制作にあたっては、最初に地域住民から提供された約1,000枚の古い写真があり、これらをどのように鑑賞者に見せるかという課題があった。1,000枚という数は、膨大とまでは言えないにせよ、ひとつひとつを見ていくには多大な労力が必要である。従って、この作品は、多数の写真を整理し、効率よく閲覧できる一種のブラウザを目指すことにした。

これは、近年、個人としても社会としても増大し続けている画像や音楽などの様々なデータを、どのように管理し、どのように利用者に提示するかという問題に通じている。ただし、この作品は、特定の目的のために集められた写真が対象であり、高度な検索といった機能面よりは、気軽に軽快に写真を閲覧できることが重要であった。

そこで、1,000枚の写真を撮影された年ごとに扱い、同じ撮影年である写真を等価に扱うようにした。これにより、鑑賞者は撮影年だけを意識して写真を閲覧することになり、操作が単純化されることになる。同時に、年代による人物や風景の違いが明確になり、歴史的な動向や社会的な変遷も直感的に捉えることができるわけである。

また、実際の操作は、ビデオ・カメラの画像解析によって鑑賞者の動きに基づいて行われる。つまり、作品に近づく、作品の前を歩く、立ち止まる、手を動かす、しゃがみ込む、といった振る舞いによって、鑑賞者は作品を操作することになる

画面上では、タイムラインとして横方向の直線が表示され、撮影年を示す数字と小さなインジケータが表示される。インジケータは鑑賞者の動きに応じて左右に移動し、その位置から撮影年に応じた写真が浮かび上がる。鑑賞者が上下や前後に大きく動けば、より多くの写真が現れる。従って、鑑賞者は望んだ年代の写真を見るだけでなく、素早く動くことで異なる年代の写真をいくつも見ることができる。

このような仕組みによって、鑑賞者は自然な感覚で作品を操作し、作品と一体感を持ちながら、時系列に添って様々な写真を呼び出すことが可能になった。そして、この作品が醸し出すのは、鑑賞者と写真との邂逅(出会い)であり、異なる時代と時代との邂逅である。様々な邂逅を通じて、鑑賞者は数多くの写真が織り成す光景に立ち会い、それらの背後に流れる物語を見い出すことになる。

展示・公演

第3回「私と町の物語」展覧会

 会期:2005年3月20日(日) 〜 3月27日(日) 10:00〜16:00
 
会場:旧・港区立赤坂小学校体育館(東京都港区赤坂4-1-26)

映像、ダンス、音楽による即興パフォーマンス

 日時:2005年3月24日(木) 19:00〜
 会場:旧・港区立赤坂小学校教室(東京都港区赤坂4-1-26)
 出演:赤松正行(映像)、山田うん(ダンス)、金野由之(音楽)

主催:Muse Company