David Zicarelliの音楽

David ZicarelliはMaxやMSPを始めとして様々な音楽ツールを作っている人だから、当然自分でも音楽を作る人なんだろうと思うわけだけど、でも実際に彼の音楽を耳にする機会は少ない。私が唯一持っているのは1989年に発表されたカセットテープで、それがこの「Dancing in the Freeway」。当時彼が制作していた音楽ツールを販売していたIntelligent Computer Music Systems社(通称Intelligent Music社)から発売されていた。その頃は申し込めば簡単に購入できたが、同社が解散した今となっては貴重品(?)であろう。

1989年と言えば、まだMaxも生まれていない頃で、Davidが開発したJamFactory、M、UpBeat、OvalTuneといった音楽ツールを使って制作されている。クレジットによれば、彼のホームスタジオにて、Yamaha TX816(FM音源)、Korg DDD-1(サンプラー音源)、Kurzweil 1000PX(PCM音源)、そしてLexicon PCM70(リバーブ)を用いて、ダイレクトに2トラックでデジタル録音したとなっている。つまりコンピュータで音源を制御して一発録りしたということだろう。ただし、一部の曲では彼自身がグランド・ピアノを弾き、コンガやドラムス、ボイス、アコースティック・ギター、バイオリンなどのゲストプレーヤも参加しているが、これらも同時録音されたのか否かは明確ではない。

(ポートレイトが随分若々しい。その下はDavidのサイン。オリジナルにはないのでご注意を)

収録されている楽曲は、以下のようにA面に4曲、B面に3曲となっている。

A-1 Disco Duro (5:15)

A-2 Dreaming and Driving (6:16)

A-3 Now Accepting Implications (4:58)

A-4 The Sound of America Screaming (6:15)

B-1 Dancing in the Freeway (3:57)

B-2 Without Within (3:36)

B-3 Fatal Vacation (9:19)

肝心の曲はと言えば、ずばりジャズである。もちろん、古臭くて汗ばんだジャズではない。デジタル音源ならではの色彩豊かな音色によって、アルゴリズミックな作曲・演奏が行われているわけだが、それでも全体の印象や曲の構造はジャズを連想させるのに充分である。MやUpBeatは、ミニマル音楽や、その延長線上にあるテクノなどに最適なツールという印象が強いが、作者個人としては、異なる志向性を持って開発していたようだ。そう言えば、JamFactoryはインプロビゼーション・ツールであったことに思い当たる。

余談ながら、タイトルと言い、カバーと言い、自動車がモチーフになっているのは興味深い。Davidの現在の愛車は黒のNew Beetle Turboだそうで、サイクリングが好きでも、車も相変わらず好きなのかも。やはりアメリカンな奴なのである。


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