ジーベック、サウンドアーツより

三輪眞弘インタビュー
ネットワークの距離感
/前編

聞き手/構成:細馬宏通(滋賀県立大学講師)


現在、岐阜の国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)で音楽の教授を務めている作曲家の三輪眞弘さん。以前ケルンに住んでいた頃に、オンライン・スタジオ構築を目指しBBSコンミュ?:ぢテレプレゼンス?:ぢラボの設立を提案、その後日本に戻り、IAMASではファーストクラスサーバー「Public-Domain」を立ちあげました。また、並行してウェブ・ページ、そしてストリームワークスを使ったインターネット放送局「RadioPublic Domain」も進行中です。
今回は、コンミュのメンバーでもある細馬宏通さんによるインタビューで、三輪さんのネットワークについての思いを語っていただきました。

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■はじまりは極北一号?
以前ドイツにいたときにね、日本でイベントがあるたんびに、参加できない悔しさってのがあったんです。じゃあ、あたかも自分がそこにいるようなシステムを組んじゃおう、というので考えたのがこの「極北一号」(笑)(写真1)。
「極北一号」は、入ってきた音源がダミーヘッドを使って定位できるんですよ。で、こいつの後ろで誰かが「おい」って呼びかけたら「なあに?」って振り向くようにしてある。いや、ちゃんとかっこいいコンセプトもあるんですよ(写真2)。ただなんていうか、ネットワークということも絡めて学術的にもびしっとこのアイデアの意義の理解を求めれば実現はそう難しくないと思うんですが、ぼくにとっては「なあに?」って振り向いちゃう、ただその面白さばかりで頭が一杯でうまく説明にならず、なかなか他の人からマジメに取り合ってもらえませんね〜。

■つながる、という感覚
インターネットが発達してきたとはいえ、まだ音情報をどんどん双方向で通信するところまでは行ってませんね。もっと回線状況がよくなると、ずいぶん違った状況になると思うんですけどね。
ただ、速く伝わることだけがいいのかっていうと、そうではない。
たとえばストリームワークスで音や絵を流すと、クォリティもがさがさだし、まず、聞こえるか聞こえないかって次元でやってるんですよね(笑)。ちょうどぼくが小中学校のときにゲルマニウムラジオで聴いてたみたいな感じに近い。で、映像も4秒に1コマだったりする。
でも、そのおかげでかえって、いま何かとつながってるって感じがする。なんでもかんでもリアルタイムでやってくればいいっていうわけじゃない。欲しいと思うものをさっと引き出すだけがいいんじゃなくて、その引き出し方が問題なんでしょうね。


■リクエストの社会性
たとえばリクエストって、考えてみるとヘンな行為だと思うんですよ。いまは聴きたい音楽を聴くなんて、すぐできるわけじゃないですか。その辺にCDなんか山ほど売ってるわけですよ。それをわざわざラジオなんかにリクエストして、何日かたってそれがひじょうに低い確率で実現するのを楽しむ。たぶん、リクエストって、単に音を引き出す行為じゃなくて、人間と世界との関係なんだと思う。
ファーストクラスからリクエストして、インターネット放送から流れる音を変更するという試みを以前コンミュ(*)でやってたんです。すると、放送を聞いている最中に、いきなり音がぶちっと途切れて違う曲が鳴ることがあるわけ。そこで、あ、いま別の誰かがリクエストしたんだな、それで音が途切れたんだな、ってことがわかる。そういうのが大切だと思うんです。自分のリクエストが通るってことがおもしろいのもあるんだけど、人がアクセスしてる瞬間に立ち会う、その立ち会い方がおもしろいと思うんです。
たとえばジュークボックスもリクエスト装置ですけれども、あれはリクエストした人だけが音楽を聞くんじゃないんですよね。店にいる人はみんなその曲を強制的に聞かされるわけです。で、こいつはどんな曲をリクエストするんだろう、なんて観察してたりね。そこがとっても社会的だと思うんですよ。

■音のBBS
で、この試みをもっと進めて、将来はBBSみたいに誰もが好きなときに音を書き込めて、好きなファイルを呼び出せるようにしたいと思ってるんです。いわば、音の伝言板ですね。いままでの放送って公共性をまず重んじてきたでしょ。でも、インターネット上では、もっとプライベートなアナウンスがあってもいい。たとえば「CD好評発売中」みたいな音を書き込む人がいたっていいし、「いまの政治はけしからん」なんて声でも(笑)いいわけですよ。
ファックスとE-mailで、同じメッセージでも受け取る感じが違うでしょ。あるメディアでいままで伝えてたものを、違うメディアにのせることによって、メッセージをめぐる感覚が変容すると思うんです。
あと、リアルオーディオみたいな流しっぱなしもおもしろい。クラブでやってることを中継したり、会議を流したりってことを、ここで何度もやってきましたけれども、それをもっと先に進めたい。たとえば細馬さんの部屋でDJ大会やってもらって、それをこっちに送ってもらって流すとか。あるいは、「今日は大垣のカエルの声を一日お聞かせします」とかね。とにかく、もっと、いろんな場所に発信局の可能性が潜在的にあって、そこから発信してもらったものを中継する形になるといいと思います。これは今、ISDN回線一本で(写真3)実際に出来るようになりました。

 
*コンミュ?:ぢテレプレゼンス?:ぢラボ:ここのことです。1993年より開設された音楽の話題を中心とするBBS。現在はIAMASが運営するファーストクラス環境で稼働中。


三輪眞弘インタビュー
ネットワークの距離感/後編

聞き手/構成:細馬宏通(滋賀県立大学講師)

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前編では、三輪さんの分身「極北一号」の構想に度胆を抜かれた方も多いのではないでしょうか。実際に自分が存在しない空間で活動したいという思いから、「つながる」ということ、そして更にコンピュータ・ネットワークの可能性を追及してきました。後編では、物理的距離を無視して広がるコンピュータ・ネットワークが「情報の通り道」として今後どのような成長をしていくか、またBBS「RadioPublic Domain」に何を期待するのかを語っていただきました。
引続き、細馬さんのインタビューでお楽しみください。

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■発信しながらハブになる

昨年、日本?:ぢオーストラリア?:ぢフランスをISDN回線でつなぐプロジェクトをここIAMASでやったんですが、そのとき、ここは発信地であると同時にハブ(*)でもあったんです。中心がいろんなところにあるのがインターネットの魅力だと、よく言われる。しかし、それらを中継するハブをどう作っていくかっていうことも大事なんですね。
IAMASにはいい設備がたくさんあるし、イベントやアトリエ用の大きな建物も建ちました。アーティストを呼ぶ施設はあるし、発信地としての可能性はある。
問題はどうやって客を集めるか。岐阜のIAMASに、東京と同じくらいの量の客を常に見込んでいくというのは、正直言ってつらい。でも、ネットワーク上ではそうした地理的条件をある程度クリアできるわけです。たとえば東京とここでやりとりしたり、神戸のジーベックとここでやりとりしたり、さらにここがそれらのハブになって情報を流したり。そんな風に地方が機能していくことで、都市のあり方ももっと変わってくると思います。
コンテンツを生みだす、とか「情報発信」とかよく言われますが、何もない所からは何も生まれない。人里離れて一人でこつこつと何かを生み出していく、というのはごく限られた場合にのみ言えることで、むしろ大切なのは「情報の通り道」になる事ではないかと思うんです。情報がひとたびそこに集まり、さらにそこから次のノードに送られていくとき、必ずそこには何かが残り、そして何かが生み出されていきます。つまり結果的にハブは必ず何かを発信しはじめるんです。それはネットワークに限った事ではなく、人類の歴史と文化に共通していえることのように思います。
 

■距離を越えるマニア道

ストリームワークスのような、リアルタイムで情報を流していくものと、WWWのようにいわば看板の役割を果たすものと、それからコンミュのようなBBS環境。この三本柱でネットワークを考えていこうと思ってます。
コンミュはアトリエ的なものだと考えてます。だからクローズドな会議室がプロジェクト向けにもっとがんがんできればいいと思う。それこそ地理的な壁を越えて。たくさんのプロジェクトの進行状態がメディアにのることによって、プロジェクトを進めることじたいがメディアによってどう変容するかも明らかになるんじゃないか。
コンミュの目的は、みんなの楽しいおしゃべりの場を提供する、ってだけじゃないんです。そういうのはどこにでもありますからね。どうせなら、普通ではできないことをやる場にしたい。となると、どうしても話題はマニアックにならざるをえない(笑)。
コンミュは、ぜんぜん広まってないわけでもなく、かといって、一般的にすごく広まってるわけでもない、ちょうどいいサイズだと思うんです。それは音楽とかMAXっていう共通項があったからだと思う。これが会員の桁がひとつあがったり下がったりすると、質が変わってくるんじゃないか。以前、巻上公一さんが「ネットの魅力って秘密結社だよね」っておっしゃってましたけど、そういう部分はありますね。
今のBBSホストを、そのような「秘密結社」が音楽に限らず、他の分野のそれとダイナミックに絡み合いながら何かが生まるネットワーク上のアドレスにしたいですね。そしてコンミュもある情報が集まる最終地点というのではなく、ひとつのハブとして機能すること、それはBBSのゲートウェイという技術ともある意味では重なりあうと思っているんです。