虹の技法

由来:
 長い間南米には存在しないと思われてきた擦弦楽器が、南米大陸の古代ツダ(=トゥダ)文明に存在し、「虹の技法」と呼ばれる不思議な音楽に使われていたという発見があった。

 この「虹の技法」とは、バイオリン風の弦楽器において、特定の勘所(音高を決める指のポジション)を素早く押し離しながら、開放弦を含む二音をひと弓で交互に鳴らす演奏法のことである。興味深い点は、その勘所が、音階に対応したものではなく、開放弦の長さを正確に3〜9等分割した位置に定められていたことである。これは古代ツダ人達がこの「虹の技法」によって交互に鳴らされる二音から開放弦の自然倍音を引き出し、自在に演奏していた証拠だという。

 「鳥たちの羽ばたき」或いは単に「虹音」と古代ツダ人が形容した、高次倍音を奏でるこの技法は、雑多な倍音を含む開放弦のねいろ、即ちひとつの「混色」から純色の「虹」を浮かび上がらせる不思議な技術と考えられていたらしい。それに対し、単純に長く引き伸ばされた音は静止した、即ち「死んだ」響きとして極端に嫌われていたため、ツダ文明の音楽は常に、この「虹音」のように震えるような指の往復運動によって奏でられるものだったという。音楽として鳴り響くすべての音が飛翔する生命の息吹を象徴していなくてはならなかったからである。

 「虹の技法」によって実際にどのような音楽が奏でられていたのかはまったく不明だが、「・・祝祭で娘達は地音と虹音の間を軽やかに行き交いながら様々な楽器を用いて聖歌を幾度も輪唱しつづけた・・」という記述が碑文に残されている。なお、ここで言う「地音」とは「虹の技法」における繰り返される二つの実音のことだと考えて良いだろう。

 このような基音から派生する倍音を使う音楽として、中央アジアの喉歌「ホーメイ」が現在も知られており、そこに「虹の技法」との驚くべき共通点を指摘する説もあるが、アジア大陸との距離もさることながら、インカ帝国によって壊滅的な打撃を受け、 その後スペイン人の襲来によって完全に地上から姿を消した古代ツダ文明についてはその多くが謎に包まれたままである。

という夢をみた。

 「虹の技法」とは、弦楽器における開放弦のハーモニクス(フラジオレット)奏法のことである。通常と異なるのは、弦に触れる指をトレモロのように素早く、交互に触れ放す動作を繰り返しながら倍音を響かせる点である。即ち、弦に触れる指をしっかりと押さえれば(開放弦を伴う)通常のトレモロとなり、軽く触れれば、ハーモニクス音が響く「虹の奏法」となる。

その際、ハーモニクスを響かせる「勘所」は開放弦上に複数存在するが、「虹の技法」では常に以下の音程を使う。

・ 第3倍音(5度)、完全5度
・ 第4倍音(同音)、完全4度
・ 第5倍音(3度)、長6度(低め)
・ 第6倍音(5度)、短3度(高め)
・ 第7倍音(7度)、増4度(高め)
・ 第8倍音(同音)、短6度(高め)

(カッコ内の音程は、各開放弦の音高に対して実際に響く倍音の音程)

演奏家は弦楽器の各開放弦において、いつでもこれらの音程による通常のトレモロ及び、同じ「勘所」から生み出される倍音をどちらも自由に鳴らすことができるよう求められる。

6つの弦楽器開放弦の倍音による母音「あ」のフォルマント合成