この講座は、ロボットを作るワークショップである。レゴマインドストームの登場によって、ロボットが私たちにも取り扱える「メディア」に進化した。ブロックの組み立て技術、簡単なプログラム技術を身につければ、あとは各自の「発想力」でオリジナルロボットを作ることができるのである。今回は、マルチメディアの表現手段の一つとしてロボットを取り上げ、ロボットとは何か、表現するメディアとは何か、立体造形物を作ることとは何か、を体験することとなる。



ロボットワークショップは、参加者にとって、苛酷な体験となった。その原因は、1週間という期間や、レゴマインドストームという道具にある。しかし、その苛酷さこそが、ワークショップで最も大切な要素だったといえるだろう。 1日目、参加者はロボットの歴史や定義について講議をうける。2日目、各自が作りたいロボットの計画をたて、全員の前で宣言する。以後、5日目の最終発表までに、ロボットを実現する作業に入る。マインドストームの操作は全員が初心者である。しかし、自分で英文のマニュアルを読み、実習する以外に具体的な指導は一切ない。ロボットの工学デザインも、ブロックを組みながら独力で考えるしかない。作業開始から間もなく、最初に思い描いたロボットはとてもできそうにない、ということに、みな漠然と気付き始める。
マインドストームには2つの大きな「壁」がある。レゴブロックで組んだ構造体がもろく、速い動きに耐えられないこと、そして正確な動きのプログラムに不可欠な、フィードバック機能がないことである。
自分で設計し、作った「自己の分身」であるはずのロボットが、思い通りに動かない。いつのまにか、ロボットは戦うべき「他者」となっていたのだ。ホールに広がる、焦り、怒り、無力感。皆の顔からはすでに笑いが消えている。しかし期限は刻々と迫ってくる。一体、これをどう「形」にすればいいのか?
そこで参加者のとった手段は様々だった。偶然みつけた面白い動きから、全く違うものを作り始める人。プログラムのバグをなだめすかしつつ、できる範囲で「完成形」に近づける人。最後まで、強硬に当初のプランをつらぬく人…。それは、違う論理に従って動く「他者」と対話する方法を、探りあてようとする作業だったのかもしれない。
誰もが徹夜あけで臨んだ、最終発表会。披露されたロボットたちは、なぜか、自分の作り手によく似ていた。(annual)


















参加者の発表から

相馬:感情をもつロボット。「うれしいセンサー」が壁に当たるとうれしそうな動き、「悲しいセンサー」が当たると悲しそうな動きをします。ロボットのアニミズム的なところを見せたいと思いました。

石橋:「だるまさんが転んだ」ロボット。箱の中など、暗い場所でだけ動き、箱をあけると止まります。動きは直接見えないけど、「何かいるぞ」という気配を感じてほしい。

坂本:バタフライ歩行ロボット。最初はクモのように細い足で歩くものを考えましたが、余りに不安定で。そこでバタフライのように、本体自体が接地しながら前進する方法を考えた。これですごくうまくいくと思ったんですが、こわれる。ある瞬間までは動いてるけど、じわじわとダメージが蓄積されていく。問題点はわかった、ということかな。

佐藤:熱いものから逃げるロボット。ライターの火を近付けると、いやがって逃げます。やっていると、だんだんいじめたくなっちゃう。もともと、ロボットに対する人間の感じ方に興味がありました。ロボットが人間らしい動きをするのを見て、不安になることがありますが、どんな時にその不安を感じるのか。「人間らしさ」はどこに見つかるのか、を知りたくて作ってみました。

西島:コンピュータとこれまでつきあってきて、一度も自分の思い通りになったことがないんです。そこで、言うことをきいてくれないコンピュータに、今回は反逆してやろうと思って、あえて不自由な格好のロボットを作りました。3つタイヤがあるけど、2つしか地面についてない。動きは一箇所を回転するだけ。こいつもいっぱいやりたいことはあるだろうし、すごい機能を積んでるんだろうけど、それをみんなには開陳させないよ、ということで。でも、ぎりぎりの体勢でがんばってるのを見ると、ちょっとじーんとくるところもある。感情が入ってくるな、という感じ。

南:往復運動をしている途中で、突然バラバラに壊れるロボット。毎日毎日おんなじ作業ばかりやらされている産業用ロボットが、ある時小さな自己主張をする、という物語です。ロボットが、自らの意志で壊れる、ということをしてみたかった。毎回、同じように壊れるように、強いところともろいところのバランスを考えました。


■ クリエイティブワーク
毎年前期に、学内外から様々な分野のスペシャリストを招き、1週間を通して行われるワークショップ。担当講師ならではの個性的なテーマを掲げ、通常の授業とは異なる体験を通して自由な発想や新しい知識に触れることが目的。(annual)

■ Lego Mindstorm
MITメディアラボで開発された、ロボットの組み立てとプログラミングの学習キット。レゴブロック製のロボット本体に、RCXコードというブロック状の言語を用いてプログラムを行う。Robotics Invention Systemと、PCなしで動くScout、Droidの3種類が発売されている。(annual)



大和田 龍夫
Tatsuo OWADA

招待講師

1992年よりICC勤務。ICC電子図書館の基本設計、構築の企画を担当。
四ッ谷連画(BBS 94)、ICCnet(BBS 95,96)を主宰する。Moppet連画ワークショップ(96)、ニュースクールパソコン倶楽部(95)なども担当する。
98年より、教育普及プログラムを担当。ICCニュースクール(98)、電子図書館(〜99)、カール・ストーンワークショップ(97)、RemotePiano Installation(97)、「共生する/進化するロボット」展(99)の企画を行う。

2000年 1月現在、NTTコミュニケーション科学基礎研究所 社会情報研究部 進化システム研究グループ 在籍中。