Critical ThinkingはIAMASの学生有志が主催するアートと批評の自主勉強会である。毎週テーマにそって様々なアート作品を鑑賞し、それらについて批評的に考え、議論するのが目的である。講義とディスカッションを主体として、一部、手を動か すワークショップなども行った。また、卒業生やIAMAS教授陣による特別講議を催したり、外部からゲストを招いて受講者の作品をプレゼンテーションをする機会を設けた。



クリティカルシンキングは、メディアアートを題材にして、芸術や表現につい て勉強し、議論するワークショップです。毎週異なるテーマを設け、さまざま な角度からアプローチしました。具体的には、美術批評や認知科学の論文を 読んだり、著名なアーティストのビデオを見たり、各自の作品のアイデアを発 表したりしました。またときには、外部からゲストを呼んだりもしましたし、 手を動かすワークショップのようなこともやりました。

 イアマスでなぜ批評(クリティック)が必要なのかといえば、それはひとまず 自分や他人の作品を客観的に見るためといえるでしょう。批評を知らない表現 はひとりよがりになってしまうし、表現を知らない批評は的外れになってしま いまうからです。表現と批評は双子の兄弟のようなもので切り離すことができ ないのです。

 もともと、クリティックという言葉には、批判とか、批評という意味がありま す。しかし、対象をけなしたり、切り捨てたりするのは、本当のクリティック ではありません。そうではなく、むしろ、対象の本質が自分に直接自分に響い てくるように、耳を傾けていくことがクリティックなのです。心の中にある記 憶や体験としての作品と、目の前にある物としての作品の両方に対して、でき るかぎり素直にならなければなりません。クリティカルシンキングは、そうい う素直さを身につけるためのひとつの実験の場であったといえるかも知れません。



内容紹介

■スケジュール

第1回(5/10) 音と映像
第2回(5/17) 水平と垂直
第3回(5/24) 知覚と運動
第4回(5/31) 映すものと映されるもの
第5回(6/07) ゴダール(から)の解放(堀家敬嗣)
第6回(6/14) 美と政治
第7回(6/21) アルゴリズムと抽象化
第8回(6/28) エラーと創造(中間テスト)
第9回(7/05) 中間テスト講評とプレゼンテーションの打ち合せ
第10回(7/10) 受講者によるプレゼンテーション(森脇裕之)
第11回(7/12) メジャーとマイナー(平林真実、前田真二郎、高嶺格)
第12回(7/13) 作品相談(藤幡正樹)
第13回(7/19) 言葉と物
第14回(7/26) 可能性と潜在性

■第1回「音と映像」の回、ダイジェスト

 クリティカルシンキングでは、テーマの内容を包括的、網羅的に扱うのではな く、いくつかのトピック(それは、現代美術・音楽、メディアアートなどから 個別に選んだもの)を線で繋ぐようなスタイルを取りました。

 この回では、まず事前に配布したブーレーズ(フランスの指揮者、現代作曲家) の論文を一緒に読み、20世紀現代音楽における音と映像の関係について大枠 の話をしました。次に、現代CGの古典といえるジョン・ウィットニーのLDを見 て、みんなで議論をしました。そこから何を感じたのか、それはどういうシス テムなのかを中心に話しました。

 最後に、岩井俊雄が坂本龍一やIAMASの学生と一緒に実現したMPIXIMPというプ ロジェクトのビデオを見て、講義の内容をふまえた次週までの課題を出しまし た。全体的になるだけ実際の映像や音を参照したかったので、プロジェクター の他に、CDやカシオトーンも使いました。

「音と映像」参考作品


パブロ・ピカソ「アヴィニョンの娘」(1907)
ニューヨーク近代美術館蔵


ピエト・モンドリアン「コンポジション No.10」(1939-1942)
個人蔵


■ Critical Thinkingから得たもの:

批評、論評というのは、本で読むとどうもしっくりこない、と僕は感じます。しっくりこない、というのは、書き手の伝えたいことが伝わってこないということです。言葉でしゃべっている批評を聞くことはとても楽しいです。どちらかというと僕は論理的な批評よりも、一瞬のその場の反応で出てくる本質をえぐりとってしまうようなひとこと、「真実の瞬間」みたいなものが好きです。(参加者の感想から)

考えること、そして考えたことを発言すること、感じたことを正確に言葉にする作業をしないで発言してしまうことはとても悪いことだということ、逆に正確に言葉にできていれば、発言の権利はあるということ。(参加者の感想から)

視点の拡大。IAMASでは多いようで少ない、他人の考えに接する機会を得た。(参加者の感想から)



高橋 裕行
Hiroyuki TAKAHASHI

1975年東京に生れる
1998年慶応義塾大学環境情報学部卒業
1999年現在ラボ科2年在学中