■ DECODE

部屋の中央に机と2人分の席が用意されている。観客はヘッドフォンを装着し席に着く。
机上にセットされたダイヤルを操作するにつれヘッドフォンからは様々な音が聞こえてくる。どこかの街の雑踏。海外、日本。風のざわめき、波の音、解読しようがない誰かの呟き、足音…etc。そして様々なメディア固有の音。針飛びノイズ、ラジオノイズ。様々な電波。ただ、生きてることの証明でしかないような声、声。そしてそれらを断片化するかのようなたどたどしいタイプライターを打つ音も時折聞こえてくる。
それらの音を2人で、操作は共有された2つのダイヤルによってサーチし、時にお互いの存在を感じながら、相手の聞きたいものを察知しながら操作し、また時にテーブルにセットされたマイクが拾う2人の声を聞きながら会話する。
それらの音はリアルタイムであたかも心電図のような波形となり机上と奥の壁面のスクリーンに映写される。
またヘッドフォンから聞こえてくる音は、机にセットされた振動ユニットによりバイブレーションとなって伝わり、その効果によって、聞こえてくる音のなかに入り込み、2人と音風景がすべて一体となるかのような感覚を感じることができる。



私たちは解読し言語化しようとする

「真実を知りたいから?」「何か探すべきものがあるから?」 流れゆく時と、世界の中で我々は何を見つけようとしているのか?

刻々と過ぎゆく時間。データとなってしまう、もはやとりかえしのつかない過去。 加速されゆく記録術は日々の出来事を言語化し記録し、本当に残るべき記憶とは掛け離れたものへと変えていく。

存在が情報によって処理されていく。 耳を澄ます。 熱狂する。操れば操るほど、ひたすら操られているように感じる。時に私たちの探す行為は。
見つけたいのは、捕まえたいのは…たぶん、なにか夢のようなもの。 掴もうとすると、形にしようとすると消え去ってしまう。思い出せなくなってしまう。そんなものを。 そんな体験の、記憶の、存在のありかた。を現在に見つけるために。

冷酷に刻まれていくリアルタイムのなかにあって、記録となってしまう過去を探り、今、ここで、耳を澄まし、目を凝らし、指先に神経を集中し、話し…


■ 100 LIGHT YEARS radio version [DECODE] 展同時出品

1895年。ルミエール兄弟が初の映画上映をおこないマルコーニが無線術を開発してから、105年。人類が発した電波は現在地球から105光年の地点にまで到達している。それはまた我々の電波としての記録圏が地球を中心とする105光年にまで拡大していることでもある。その空間をラジオノイズの奥から聞こえる音に耳を傾け、遥かな場所に思いを馳せたように感じるために …
地球を中心とする半径105光年の宇宙空間に今も存在するであろう電波をシミュレートしたものが音ファイルとしてコンピューターにインプットされており、右のチューニングノブを回すことによって各年代の音を聞くことができる。「光の世紀」20世紀の記憶に半径100光年という、我々の日常的距離感覚にとっては広大で想像不可能な、しかしたったの半径100光年に過ぎない場所を与え、その空間を想像する試み。




■ Message from the Earth
私たちは日々メッセージを発信し、コミュニケートする。電波を電線を使用し話し … ここでそのメッセージを冷静に考えてみる、例えば地球で発信されている電波を地球外生命体が傍受したとする、コードを共有していないETたちにとって私たち人類が発信している電波はどのように感じられるだろうか?例えば昔懐かしのTVプログラムを見て首を傾げているだろうか?それとも次の放映を心待ちにしているだろうか?逆に私たちがETのTVプログラムをキャッチし解読することに成功したとする。それがたまたま地球でいうところつまらな〜いソープオペラだったりしたら、私たちはどう思うのだろう?「つまんね〜(怒)」それとも「いてよかった(泣)」 それとも…

■ 波形
人の存在が左右される状況において波形は重要な位置を占めることがある。肉親、友人が生死の境にあるとき、人はその人の脳波、心電図の波形を見つめそして祈る。またSETIプロジェクト等の地球外生命探査においてもその果無い存在証明のために波形は重要な役割を果たす。

■ 暗号解読
現在スーパーコンピューターの使用用途において目立って多いのは「暗号解読」であろう。NSA(ナショナル・セキュリティ・エージェンシー)における通信傍受、暗号解読。ヒトゲノムプロジェクトにおけるDNA解析。またインターネットに繋がれた複数のPCが協調し分散処理を行っているもっとも大きなプロジェクトもSETI@homeという名の暗号解読だ。



平野 治朗
Jiro HIRANO

講師

1963年石川県生まれ
1987年 松陰浩之氏と共にコンプレッソ・プラスティコ結成。
ベネツィア ・ビエンナーレほか多くの海外展国内展に出品。 1993年 ユニット「LSX」結成。「アナザーワールド展」(水戸芸術館)。
1993年「ロゴスのテーブル」ショーケース、スパイラル。 
1999年 ユニット「TPO」を結成「メディアセレクト展」に参加他多数。