イレーヌ・ブレチン

イレーヌ・ブレチンは1996年、コンピュータ・デザインによる修士号を英国王立芸術大学(RCA)において取得。
1995年春に行われたブレチンの最初の大きな展覧会「Self-Storage」は、ブライアン・イーノとローリー・アンダーソンとのコラボレーションによるものであった。ブレチンとRCAの2人の仲間によって作られたインタラクティブ・インスタレーション「Aura」は、この展覧会で発表された。ブレチンはそれ以後も多様なインタラクティブなオブジェやインスタレーションを制作し、リアルとヴァーチャルとの緊張に満ちた関係を探究し続けている。
ブレチンの最近の作品は、サンフランシスコ近代美術館、シーグラフ98において、さらにイノベーション技術博物館(サンノゼ)の開館記念展でも展示されている。また「I.D.」誌のニューメディア・ベスト・オブ・カテゴリー賞を受賞したほか、国営公共ラジオでも作品がとりあげられている。
現在はインターバル・リサーチ社の研究スタッフの一員として、アートおよびデザインの感性をもって、さまざまな、フィジカル・コンピューティング(物理的な接触を伴うコンピュータ技術)の探究を行なっている。

[風にそよぐ草]

1994年にコンピュータを使い始めた時、通常の道具を使って、粘土や金属、木材、絵の具といった素材を操ることの豊かさが、コンピュータ技術の領域でいかに失われているかということにショックを受けた。キーボードやマウス、そして低解像度のモニタから得られるデータ量は少なく、われわれを物質世界から遠ざけ、日常生活での感性のパレットに較べて、その影のようなものに変質させてしまう。創作者と、素材や道具、そして観客との間で、多くの場合非人間的で、疎遠で、貧しい関係をわれわれは押しつけられているのである。
私のこれまでの作品は、人と機械との対話の中に、より親密で情動的な身体性を持ち込んで、物質性と仮想性との境界を見せることを目指してきた。
「風にそよぐ草」は人とコンピュータ、人と人、あるいは人と自然の間の関係での差異を探るインタラクティブ・インスタレーションである。作品では、作為的なコンピュータの使用と、自然な繊細さとを結び付けることによって、この差異を具体化する。人とコンピュータの間のインタラクションで通常使われるような素材のパレットを拡張し、視覚と聴覚以外の感覚を使ったインタラクションが行なえるようになっている。息をふきかけて作品に接することで、多くの場合冷たく、わかりにくい関係が、非常に親密で微妙な関係になる。
小さな電球が明滅しているため、観客はその光源がなんだろうと近づいてくる。優しく揺れ動く「風にそよぐ草」は、そのオブジェが生きており、人間的な手触りを求めていることを暗示する。
観客が光の表面に軽く息を吹きかけると、格子状に置かれた光源と共に埋め込まれたセンサーがそのデータを収集する。3つの別々のプロセッサがこのセンサーの集めたデータを解釈し、484個からなる微小な格子状に並んだ電球の上に、うねるような視覚的パターンを表示するよう指示を出す。
「風にそよぐ草」は、観客に対して呼吸のコントロールに注意を向けさせることによって、観客自身の身体的な存在を思い起こさせる。呼吸の調節に時間をかける人たちは十分に酬われるのである。

クレジット:
コンセプト、ディレクション:エレイン・ブレチン
エンジニアリング:ジョン・アナニー、エド・キャリアー、
ジェシー・ドロウスカー、リー・フェルセンシュタイン、
ロブ・ショウ、REMデザイン、スタン・アクセルロッド