ダニエル・ローズィン

ダニエル・ローズィンは現在ニューヨーク大学のインタラクティブ・テレコミュニケーション・プログラム(ITP)の研究員および教員であり、インターバル・リサーチ社から奨学金を受けている。1987年にエルサレム・ベザレル芸術大学にて工業デザインの学士号を、1996年にITPにて修士号を取得。ニューヨーク大学に勤める前には、サイテックス社のデザイン部門のチーフを務め、工業デザインおよびユーザーインタラクション・デザインなどの分野におけるフリーのコンサルタントでもあった。サイテックス社、アイリス・グラフィックス社、リーフ・システムズ社、サイテックス・デジタル・プリンティング社、インターバル・リサーチ社、ニューヨーク大学、USAネットワーク社などをクライアントとしていた。ローズィンのデザインによる製品は、工業製品に与えられる、イスラエルでもっとも栄誉あるロスチャイルド賞や、シーボルト・レポート1991年度最優秀プロダクト賞をはじめ、多くの賞を受けている。
ローズィンは1961年イスラエルのエルサレムに生まれ、1994年より妻タマーと共にニューヨークに在住。

[マジック・キャンバスの肖像]

「マジック・キャンバスの肖像」は、みた目には、まだ何も描かれていないキャンバスを置いた大きなイーゼルである。画家が描くように小さな絵筆を用いるが、絵筆が塗るのは絵の具ではなく、近くに置かれたカメラからのビデオ映像である。ひと筆ごとに「その時カメラが撮影している映像」が塗られていく。イーゼルに取り付けられたいくつかの「絵の具缶」に筆を浸すことで、ビデオ映像を選ぶこともできる。このプログラムを走らせているコンピュータは隠れていて、モニターもない。
キャンバスに描かれる内容は、あらかじめ定められたものではない。しかしビデオ素材をキャンバスに置いていくうちに、あなたを中心とする少しずつ大きくなる「環」(カメラの撮影範囲)が感じられるようになる。1つめの「環」は最も近く、自分に向けられていて、あなた自身の姿や、すぐそばのものを撮影する。2つめは部屋の中などの周囲の様子、そして3つめはテレビ放送、または窓の外に向けられた映像である。この3つの映像から、ある瞬間の、ある場所、あなたの心を反映した絵を描くことができる。
何も描かれていないキャンバスから描き始めるのではなく、前の人の描いた絵の上に重ねて描いていく。これは現実世界では当り前だが、コンピュータの世界ではあまり見られないことである。
キャンバスは素材を合成する道具となる。すべての素材を最初から作り出す必要はなく、すでに用意されている。だがその素材の自由度は大きく、その人なりの表現をすることができる。
この作品にはいわゆるコンピュータ的なインターフェイスはない。絵の具の缶で色を選び、筆で絵の具を塗り、キャンバスに作品を描く。操作に迷うということがなく、絵を描くことに集中でき、コンピュータは陰で計算を行なっている。この作品はすぐれた絵を描くための「絵の才能」を必要とせず、誰でも気楽に使うことができ、すばらしい結果が得られるのである。