スコット=ソーナ・スニッブ

スコット=ソーナ・スニッブは、人の動きや身振りによる表現を中心とした作品を制作している。インタラクティブな作品の他にもアニメーション・フィルムや商用・研究用のソフトウェアなども製作し、参加型3Dアニメーション、モーション・コントロールや画像処理、データの視覚化、相互作用や運動に関するシミュレーションや数理物理学、マシンビジョンなどの商業的プロジェクトを手がけている。 ブラウン大学のコンピュータグラフィックス・グループで大学院研究員、ロードアイランド造形大学でアニメーション講師、またアドビシステムズ社ではコンピュータ・サイエンティストとして勤め、現在はカリフォルニア、パロアルトのインターバル・リサーチ社で触覚学(コンピュータを用いた触覚に関する領域)やデジタル・ビデオ、インタラクティブ・グラフィックスなどを研究している。

スニッブ個人の作品、映画はこうした商業的な仕事が基になっている。インタラクティブな作品としては、抽象的な画像によるコミュニケーションのネットワーク上での実験である「モーション・フォン」、自身を中心とした個人的な空間を視覚化する「境界線」などの作品がよく知られている。アニメーション・フィルムは、動きや微妙な表意による、台詞のない物語を中心としたものである。これらの作品は、シーグラフ(米)やアルス・エレクトロニカ(オーストリア)などの展覧会、シュツットガルト(独)、広島、オタワ(加)でのアニメーション映画祭、サンフランシスコ(米)、シアトル(米)の映画祭などにおいて国際的に紹介されている。

[境界線]

「境界線」は、個の空間、個と社会の関係を探究する作品である。この作品では、頭上から床面に向けて投写される線が、おのおのの観客を分かつ境界線となる。作品の空間に1人で入っても何も起こらないが、2人で入るとその中央に1本の線が現われ、空間を2つに分ける。2人が動いても2人からの距離が同じになるように線も動いていく。さらにフロアに人が入ると空間は線によって細胞状に分割され、それぞれの観客を分ける。細胞状の領域のどの部分も、外側の人物より内側にいる人物に近いという数学的性質がある。
観客を囲むこの空間は、数学ではボロノイ図形あるいはディリクレ分割とよばれ、さまざまな分野で使われているほか、自然界においてもあらゆる場所で見られるものである。
投写される図形は、個々と、その間にある空間との見えない関係をダイナミックに視覚化し、個人的な空間、そして他者との間につねに存在する境界線という実体のない観念を具体化する。1人ではなにも起こらないこの作品は、他者との物理的関係が前提とされ、自身の孤独な反映であるようなバーチャルリアリティではなく、複数の人が参加することによって初めて成り立つバーチャルスペースなのである。
この作品のタイトルは、シオドア・カジンスキーのミシガン大学での1967年の博士論文にちなんだものである。「ユナボマー」として知られる爆破犯カジンスキーは、個と社会との葛藤−社会の中で生きる上での葛藤と妥協、他者の思考や存在に妥協できない個性や個人性−を表わすひとつの病的な例である。論文そのものは、一般の人々には不可解な言葉や図式で埋められている通常の科学論文の持つ反社会性を示す一例にすぎない。これとは逆に、このインスタレーションでは、ダイナミックな視覚的表現によって、数学的な抽象性を理解しやすいものにした。