A-X-E-S

19 Basic Concept

我々が住む現実世界は多くの情報に満ちている。従来、これらの情報は図書館や学術機関等の特定の場所に集められ、保管されていた。そのため、我々が様々な情報を入手する際は、これらの保管場所へ行っていた。しかしながら、既に多くの人が指摘しているように、近年、この形態はメディアの電子化、そしてコンピュータネットワークの普及によって大きく崩れている。メディアの電子化は、情報の更新速度を飛躍的に高めた。コンピュータネットワークの普及は、情報への交信性を飛躍的に高めた。そして多くの情報は、集められ保管するものから、分散され更新するものへと変化した。これらの分散していた情報は、主としてWorld Wide Web(WWW)によって為される複雑に相互接続された巨大な一つのシステムとなった。既にある情報が、この巨大な情報システムの中でどのような位置を占めるのかという事を調べる事は難しい。個々の情報は独立した情報の生産者によってもたらされ、変化する。個々の変化は非常に小さいものであったとしても、それが集積された時、この巨大な情報システムは、あたかも自律システムのように機能することすらある。この情報システムは、様々な分野に大きな波及効果が及ぼすこともあるが、この情報システムの制御機構は存在しない。既に我々の生活を支える様々なシステムの中にこの情報システムは融合している。さらに、携帯端末や無線システムなどに関する急速な技術進歩、仮想現実研究の急速な発展からも明らかなように、この現実空間そのものが巨大な情報システムの中に融合しようとしている。すなわち、このような過程の中で、我々が様々な情報へ容易にアクセス出来るようにになる、というよりむしろ、我々が存在する空間、そして我々自身が情報システムになっていくのである。
このような新たな情報環境が我々の生活にどのような変化をもたらすのかという問題はまだ定かではない。しかし、この新たな情報環境が既存の環境を我々の意思とは関係なしに劇的に変化する可能性は高い。我々は、自分自身にとって快適な情報環境を維持するために、自律システムのように変動し続ける情報環境の中で、この情報システムの制御を行なう必要がある。この「情報環境における情報システムとの絶えまない闘い」こそ本作品のテーマである。我々はこのテーマのメタファとして本作品を構築したのである。
本作品では、情報環境に存在する目に見えぬ情報を、仮想3次元空間上に存在する音源として表現している。様々な音源は、AXESの中に独自の音楽空間を構築する。ユーザは自分の好む音源に近付くことでその音を大きくしたり、あるいは嫌いな音源から遠ざかることでその音を小さくすることによって自分の周囲の音環境を空間的な移動によって変化させることが可能である。また、ユーザはそれぞれの音源を含む事象(フレーズ)に触れることによって、その音源の状態を変化させることも可能である。これらの活動を通して、端末の前に存在するユーザは、自分にとって最適な音響空間を求め、あたかも自律しすてむのように変化し続ける音響空間の制御、すなわち自分の周囲の情報環境との終わりなき闘いを続けていく。

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