Toshio Iwai

イメージ オブ ストリングス

95年のドイツ滞在中に「映像装置としてのピアノ」という作品を発表した。これはコンピュータでコントロールできる特殊なグランドピアノに半透明のスクリーンを取り付け、そこに投影されるコンピュータ映像に合わせてピアノをコントロールし、誰でもが映像によってピアノを弾けるというものだった。(この作品は前回のインタラクション95のシンポジウムの際にパフォーマンスとして上演された。現在は名古屋市のナディアパーク7Fにも常設されている)この作品では、コンピュータグラフィックスとピアノを組み合わせることで、伝統的な楽器であるピアノを一種の新しい映像と音の体験装置として進化させようとしてみた。コンピュータで作られた単なる映像と音だけではなく、実際の三次元物体であるピアノがそこに存在することで、我々は現実と非現実とが混在した、新たな視聴覚体験をすることができるのである。

今回のインタラクション97では、このピアノに続く新作として、ヴァイオリンと映像とを組み合わせた作品を制作することにした。ハーフミラーを使って実際のヴァイオリンの上に、精緻なコンピュータ映像を重ね合わせ、それをシンセサイザーで合成されたヴァイオリンの音と組み合わせ、リアルとヴァーチュアルの境目をよりあいまいなものとして演出する。タッチセンサー等のインターフェースを使い、そのセンサーを指先でこすることで映像が生まれ、その映像があたかもヴァイオリンを鳴らしているかのようなイリュージョンを作り出す予定である。

かつてドイツ出身でアメリカに亡命した実験映画作家オスカー・フィッシンガーはディズニーの「ファンタジア(1940)」の冒頭シーンで、ヴァイオリンの弓のイメージを巧みにアニメートして弦の音を幻想的に美しく視覚化してみせた。この作品は、いわばそれをインタラクティブにし、「音と映像が同時に生み出される至福感」をデジタルに自分の指先でつむぎだしてみよう、という試みであるとも言える。

(この作品は岐阜県立国際情報科学芸術アカデミーのアーティストインレジデンス・プログラムの中で制作された)

http://www.iamas.ac.jp/~iwai/

1962年愛知県吉良町に生まれる。81年筑波大学芸術専門学群入学後にはじめた実験アニメーション制作から映像作家として目覚める。フィルム・ビデオでの作品制作と同時に、フリップブック・ゾートロープなどの映画前史の視覚玩具に新たな映像表現の可能性を見いだしたのち、まもなくコンピュータを駆使した作品へと移行、在学中に85年映像インスタレーション「時間層」シリーズにてハイテクノロジーアート展金賞、さらに第17回現代日本美術展大賞を史上最年少で受賞。87年同大学院芸術研究科総合造形を修了、以後、国内外の数多くの美術展に観客が参加できるインタラクティブな作品を発表、注目を浴びる。

特に92年スペイン・セビリア万博、93年ベルギー・アントワープECジャパンフェスト、95年フランス・リヨン現代美術ビエンナーレ、96年ニューヨーク・グッゲンハイム美術館メディアスケープ展、リヨンG7サミット展などでは日本代表として出品するなど、世界的に作品発表を続けている。

また作家活動とともにフジテレビ「アインシュタイン」、「ウゴウゴルーガ」などのTV番組のキャラクター、CGシステムデザインの中心人物としても知られ、他にもゲームソフトの制作など活動範囲は幅広い。昨年96年はアメリカにてWindows用CD-ROMソフト「SIMTUNES」を発表。近年は海外を拠点とした活動も多く、91-92年サンフランシスコ・エクスプロラトリアム、94-95年ドイツ・カールスルーエのZKMに客員芸術家として滞在、制作および大規模な個展を開催した。現在は岐阜県立国際情報科学芸術アカデミーに客員芸術家として在籍中。今年4月からは東京初台のオペラシティ内にオープンするICC(インターコミュニケーションセンター)にて、新しい形のワークショップをかねた回顧展を開催する。