Thecla Schiphorst

ボディー・マップ

「ボディー・マップ」は音とビデオによるインタラティブなインスタレーションである。これは従来のインタラティブ作品にありがちな、マウスによるクリックや、言語を打ち込むような、使い手の「所有者感覚」を満たすだけのインターフェイスを一切使わないのが特徴である。つまりこれは、だれもが潜在的にもっている知識に基づいた皮膚感覚や、触覚を通して音を聴いたり、音を通じて見たりする総合的な感覚体験によって味わえる作品なのである。

テーブルの表面には特殊なセンサーがあり、15個の電磁場センサーがちょうど15個のテルミンのように手の動きに反応し、8つの感圧センサーがどれだけの力で触ったかを判断する。

このセンサーが埋めこまれた白いベルベットの表面にはアーティストのイメージや彼女の息子のイメージが投影され、触れたりなでたりしたいという欲望を誘う。その根底で働いているものは複雑かつ微妙で説明はできないが、その効果はとまどうばかりで、エロティックで官能的であり、きわめて主観的なものである。

投影されるイメージはレーザーディスクに記録されている。アーティストの身体( とそれがデジタル的に処理された身体) のイメージは、テーブルに水平に投影される。表面の白いベルベットは思わず触れたくなる不思議な感触をもっていて、表面に手の痕跡を残す。自分の手を作品の表面に近づけたり、触れたりすると、手との距離や運動に反応して、微妙な、音による空間が作られる。イメージが静かに震動し、観客は触覚を介して参加する。客観的な視覚と主観的な感情のあいだにある「第三の空間」とでも呼ぶべき空間から、もはや逃れられない。

この作品が意図するものは、対象物と目、クリックとドラッグ、分析とそれが持つ力の間などの間にある視覚性と客観性の関係を覆すことである。それによって、所有と客観性のルールを覆し、体験と力と存在そのものに疑問を投げかけ、参加者とテクノロジーの新しい関係を想像しようとしている。

クレジット:

デザイン、ビデオ: Thecla Schiphorst
制作ディレクター、プログラマー: Grant Gregson
サウンド、プログラマー: Ken Gregory, Norm Jaffe
センサーシステム: Infusion Systems Ltd.
ハードウェアデザイン: Hanif Jan Mohamed
カメラ: Carla Elm


(digital eARTH)http://www.digearth.bcit.bc.ca/dedocs/thecla/a.htm

テクラ・シフォールストは、コンピュータ・メディア・アーティスト、システム・デザイナー、振付師、ダンサーと多くの肩書きをもつ。彼女は、コンピューターによる振付のためのプログラム「ライフ・フォームス」をデザインし、世界的に著名なニューヨークの振付師マース・カニングハムと一緒に制作をつづけている。大学ではダンスとコンピュータ・システムを学んだ後、サンフランシスコ大学院でコンピュータ作曲システムで学び、修士取得。現在はSFU のCGとマルチメディア研究所の客員芸術家として振付のコンサルタントをしており、そこではモーション・キャプチャーを使って身体の動きをインターフェイスとして使う研究をしている。

主な活動に、フューチャームーブフェスティバル(ロッテルダム)、「ビーイング・ヒューマン」心理分析、肉体、技術に関するレクチャーシリーズ(ニューヨークビジュアルアートスクール);「ボディマップス」は’96、4月、ウェスタンフロントギャラリー(バンクーバー)、同9月アルス・エレクトロニカ、97年4月「ビデオポジティブ」マンチェスター;そして新作「フェルトヒストリーズ:ファクト・オブ・ドアフレーム」はバンクーバーでプレミアの予定。

テクラはまた、「イマース」という、カニングハム・マルチメディアアーカイブズ・プロジェクトの美術監督も勤めている。これによってマース・カニングハムとジョン・ケージの作品を、動き、身体、制作プロセスなどの概念に沿ってインタラティブに選びながら体験するものである。この作品は国際デジタル・メディア・アワード・フェスティバルの三つの賞を獲得し、ロサンゼルスのARC アワードで発表された。


バンクーバーのサイモン・フレーザー大学のコンピュータ・アートの夏期集中講義とエミリー・カー・インスティチュート・オブ・アートアンドデザイン両校の専任スタッフである。1993年7月にサイモン・フレーサー大学で開催されたダンス・アンド・テクノロジー会議において議長も務めた。また、新しいノンプロフィット文化組織デジタル・アースの設立者のひとりであり、インターネット上でのプロジェクト、エコロジー・オブ・コミュニケーション・アンド・トランスバースワールドのキュレーターでもある。