タマシュ・ヴァリツキー

タマシュ・ヴァリツキーは、1959年に生まれ、画家、アニメーションフィルム、コンピュータ・アニメーション映画製作者として活動。アニメーションと漫画の制作(1968-74年)から始め、その後デッサンと絵画を独学で学び、1983年よりコンピュータによる制作を始める。1992年ZKMの視覚メディア研究所のアーティスト・イン・レジデンスとなり、引き続いて研究スタッフとなる(1993-97年)。1997年にはザールブリュッケンのザール芸術学校における客員教授。IAMAS(岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)の1998-99年のアーティスト・イン・レジデンスに選ばれる。ヴァリツキーの作品は、パリのジョルジュ・ポンピドゥー・センター、ボンのオッペンハイマー・コレクション、東京のビデオギャラリーSCAN等のコレクションに加えられている。

[フォーカス]

「フォーカス」は大きく分けて2つの部分から成る。1つは大きく投映される映像で、もう1つは観客が映像を操作するインターフェイス。スクリーンには写真が投映されていて、立ち並ぶ人々が、またその左右両側の街路には家が見える。この写真の小さいものがインターフェイスとして使われている。全体ははじめ焦点の合っていない写真のようにぼやけている。観客が小さな写真のどこかを指で触れると、焦点(フォーカス)を変えることができ、投影された映像上の、触れた部分にすぐ焦点が合う。ある人物や家に焦点を合わせるのは、多数の中からの誰か、あるいは何かを選び出すことの比喩でもある。作品の中の人々はすべて、さまざまな国の私の友人や知人、そして親戚である。ある要素に焦点があっているとき、手元の右側にあるボタンを押すと、別の大きな写真が投映され、左側のボタンを押すともとの写真に戻る。

「フォーカス」における2つめのインタラクションは、上に述べられたものとは逆に機能する。多数の中からどれかを選び出すのではなく、「絞り」を変えることで、作品の中の部分の間の関係性を発見することができる。手元のスライドするつまみで絞り値を大きくしていくと(F1.4、2.8、4など)、映像の被写界深度が拡がり、隣接する領域までがシャープになる。作品の中で人々と家、その友人や知人、または同じ家系の親戚は、互いに最も近い焦点深度におかれている。したがって、被写界深度を増すことによって観客は、作品の中で最初に選んだ人物と、その近くにいる人々との間の関係を発見することができる。また、絞り値を変えると、独立した大きな写真も違うものに変わることもある。
作品の中のある人物に焦点を合わせ、絞りをF1.4にして右側のボタンを押すと、その人1人が写った大きな写真が現われる。例えばそこで絞りをF2.8に変えると、大きな写真は、最初の人物がその親類あるいは友人と、2、3人で写った写真に変わることがある。また絞り値をF11にすると、最初に選んだ人物が知人たちに囲まれている十数人のグループ写真が現われるかもしれない。このシステムはこうしてコンピュータゲームのように機能し、観客は焦点距離と絞り値を適当に組み合わせることで、次々に別の写真を見ていくことができる。

クレジット
コンセプト:タマシュ・ヴァリツキー、アンナ・セペシ
プログラミング:タマシュ・ヴァリツキー、ヴォルフガング・ムンヒ
インターフェイス制作:山元史朗

「フォーカス」は、国際的なアーティスト10人をフィーチャーし、ヨーロッパの状況とその政治的、経済的、文化的動向に関する重要な問いかけを行なった一連の展覧会の一環として、「PHOTO 98:イギリス写真・電子イメージ年」により制作依嘱されたものを基にしている。

著作権:タマシュ・ヴァリツキー、アンナ・セペシ、1998-1999