対談 三輪眞弘×水野勝仁「コンピュータがもたらした世界」

03. 《Thinking Machine》と《またりさま人形》のインターフェース

水野 いまそれを聞いて腑に落ちたというか、《Thinking Machine》は動きましたが《またりさま人形》は動きませんでした。《またりさま人形》は木の作品で水を動力にしたから、そこでやっぱり物質になったときに木が水を含んで膨張して乾燥して動かなくなるということがあったわけです。さきほど身体的ではないと言われていた部分で、コンピュータの論理を模倣する人間がいて、その人間を模倣する機械を作ったときに、人間だったら動いたものが、もう一回別の身体=機械に移して動かしたときに失敗してしまったこのことは、三輪さんにとって身体性というものが意識に上ってこないことの、ひとつの象徴だったのかなと思います。
三輪 おっしゃる通りで、《Thinking Machine》もそうですけれど、《またりさま人形》の場合には美術家の小笠原さんという方に作って頂きました。そんななかで、後から考えれば本当に無謀なことを僕はやっぱり言っていて、昔から作れたように、竹を組み合わせたり紐で縛ったり、そして水を動力にしたり、というような。というのは、なぜ水を動力にしたかというと、そうであればお話として、裏山の湧き水を使ってずっと動いていたという物語が成立するからなんですね。それだけの理由で絶対に水でやりたいというような事を言って、でも木材屋さんが「いやあ水ですか。これは天敵ですねえ」と予感させるようなことを言って。でやっぱりその通りで、僕自身がまずそういうものに精通していないし、経験が少なくて妄想ばっかり爆発して、それを小笠原さんに押し付けちゃって。とても悲しい思いをしたんですけれども(笑)。でも、学ぶ事は多かった。この地上で見えるものとして動く機械が成立しているというようなことの難しさとか、素晴らしさみたいなものを思い知らされたというような感じですね。
水野 そのあとマーティン・リッチズさんと共同で《Thinking Machine》という動く機械ができた時の感想というのは、どんなものでしたか?
三輪 いや、もうショックです。《Thinking Machine》の場合、あの構造はだいたいスケッチとかを見て知っていたのですが、僕はあの半分か3分の1くらいの大きさのものをイメージしていたんですね。あの重さのボールじゃなきゃないとあのレバーは動かないとか、そういうことも全部計算すると自ずとあの大きさになるんですね。そういうようなことを僕は全く予測できないから、実際に見た時は本当に動いてるんだと、それはそれは感激しましたね。
水野 コンピュータがもたらした世界というと、ひとつは三輪さんがやっているような論理演算というもので、世界が変わりつつあるというのもあると思うのですけれど、もうひとつ僕が興味あるのは、論理を人が見えるように触れられるようにする「インターフェース」というものです。インターフェースというモノがなければたぶんここにいる多くの人は、逆シミュレーション音楽のXOR演算とか蛇居拳算とかというものをテキストで読んだとしても、頭の中の理解は難しいのではないかと思うんですね。コンピュータが便利なものとして出てきた時にマウスなどが生まれてきて、モノとアイデア=論理が組み合わさって今の一つの世界ができあがっているのかなと思っているんですね。ハードだけでは成り立たないし、論理やソフトだけでも成り立たない、その両方の部分で音楽を作っているのかなという感じがするんですけれども。
三輪 芸術作品というのはすごく大雑把に言うとイデアというものを目に見えたり耳に聞こえたりするカタチにいかにするか、という側面がある。それが全てじゃないですよ。例えばバイオリニストがどれくらいまでだったら、どれくらいの早さだったら弾けるかというのは、さすがに経験的に知っているから、この曲はいくらなんでも無謀だということが分かるわけです。でも、そういう論理演算のシステム自体は極めて抽象的なものですから、光コンピュータでも同じ事ができるわけですよね。それくらいモノに依存しない抽象的なものだからこそ、いかようにもリアライゼーションが可能である。でもこれしかないという単なるデモンストレーションではないリアライゼーションが、どんなカタチであるのかっていうところが一番作る方としては悩むところで。《またりさま》なら《またりさま》で運良く二進数に対応して、人間の手が2本あるとか肩が2つあるとか。または人間の身体がもし標準的にこの4倍あるような地上だったら、また違うものになるだろうと思うんですけれど、ちょうど160センチから180センチくらいまでの大きさで、というような、そういうこの地上の制限みたいなもののなかで、目に見える耳に聞こえるものを考えていくっていう事に一番注意しますね。

© IAMAS ARTIST FILE #01 MASAHIRO MIWA