IAMAS Graduate Interviews

INTERVIEW 003

INTERVIEWER クワクボリョウタ IAMAS准教授
#2017#ANIMATION#BIOART#COMTEMPORARY ART#MEDIA ART#PARTICLE#RYOTA KUWAKUBO#SPECULATIVE DESIGN#TECHNOLOGY

GRADUATE

長谷川愛

アーティスト・デザイナー

今はImpossibleだが、将来的にpossibleになるかもしれない、同性カップルの子どもをシミュレートしたアート作品

『(Im)possible Baby, Case 01: Asako & Moriga』で第19回文化庁メディア芸術祭アート部門の優秀賞を受賞した長谷川愛さん。
IAMAS卒業後、RCAでスペキュラティブ・デザインを修習。MITメディアラボのデザイン・フィクション・グループの研究員を経て、現在は東京大学特任研究員を務める長谷川さんの元を、IAMASの1年後輩で、学生時代を共に過ごしたクワクボリョウタ准教授が訪れました。

“ペイン”を解決するためのファンタジーを、作品へと昇華

クワクボ:東京・六本木の森美術館で行なわれていた『六本木クロッシング2016展』を見ました。日本で公開されている最新作は『(Im)possible Baby』ですか?
長谷川:はい、そうです。
(※取材後の10月に、資生堂ギャラリーにて資生堂社員&研究員とのコラボ作品『Human x Shark』を発表)

クワクボ:アート作品が続いた中で、最後のエリアに『(Im)possible Baby』がカチッと展示されていて、そのコントラストがおもしろかったです。あの展覧会はアイデンティティを交換するような作品が多かったですよね。

長谷川:展覧会のテーマがアイデンティティに関するものだったので、『(Im)possible Baby』はぴったりでしたね。あの時は、部屋をすごく明るくしてもらって、これまでとは違う雰囲気で展示しました。

(Im)possible Baby, Case 01:Asako & Moriga

クワクボ:その前には色々な大学でトークをしたり、バイオについてのTV番組に出演したり。昨年は日本でのプレゼンスが上がった年でしたね。森美術館で展示をしていた頃はまだマサチューセッツ工科大学(MIT)にいたのですよね?

長谷川:そうですね。MITには『(Im)possible Baby』のプロジェクトを進めるために入ったので、MITに所属しながら、日本で成果を発表していました。


クワクボ:
MITに行くか迷っている頃に、東京で一度会ってると思うのですが、行ってよかったですね。

長谷川:本当に行ってよかったです。

クワクボ:その前にも、ロンドンで一度会っていますよね。その時はまだロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)に入る前ですか?

長谷川:はい、入学前ですね。IAMASを卒業した後は、しばらく東京のアニメーションの会社でFLASHアニメーションの仕事をしていて、22歳の時にロンドンに語学留学しました。それから数年間はロンドンのWEBの会社でアニメーターとして働いたり、Haque Design+ Researchでインタラクティブアート等の研究開発に携わりました。RCAに入ったのは2012年。IAMASを卒業して10年くらい経った頃ですね。

クワクボ:RCAに入る前から、今やっているようなバイオに関係することに興味を持っていたのですか?

長谷川:ロンドンに行った最初の年に、RCAの卒展でBCLの福原志保とゲオアグ・トレメルたちの作品を見ました。おもしろいなと感じて、それからずっとウォッチしてました。バイオには興味がなかったんですが、先輩たちの作品がすごくおもしろいなという勘だけで、入るならRCAのデザイン・インタラクションズしかないなと思っていました。
入試面接で、アンソニー(・ダン)とフィオナ(・レイビー)たちは、「これからはデジタルテクノロジーというよりは、ナノテクノロジーやバイオテクノロジーの方に行くつもりだ」と話していましたね。

クワクボ:IAMAS在学中に作っていたのは、主にアニメーション作品ですよね。

長谷川:パーティクルアニメーションを作っていました。1作目の『An Example 01』は、家族が信仰している宗教に対する反発の気持ちがあったので、「神様はいるのかいないのか」「もしいたとして、救ってくれないとしたらどういうことなのか」をテーマに、仏像をモデリングして、そこからパーティクルを発生させて作りました。
2作目は、ひとつ下の学年のコダック(児玉晋吾さん)が癌で亡くなって…。

クワクボ:僕、同期です。

長谷川:お葬式に行って、灰になった彼を見た時に、それまでの彼とのつながりが切れてしまった気がして。その悲しみを癒すためのファンタジー、死んだ後はその人は全てに遍在するというようなアニメーションを作りました。

クワクボ:テーマのある部分が、今の作品まで持続していますよね。

長谷川:そうですね。ドミニク・チェンさんが、プロダクトを作る際に、暮らしの中にある“ペイン”を解決するための“ペインキラー”を作るという話を本で読んだんですが、私は、自分の中のペインをファンタジー、SF(サイエンスフィクション)を作ることによって解決しているのだと思います。

例えば『私はイルカを産みたい…』は、当時の私にとってホットトピックだった子どもを産むという問題と、社会的な問題である人口過多による食料危機や自然破壊というジレンマ、つまりペインを、未来のテクノロジーを使うことによって解決できるのではないかというファンタジーが出発点になっています。合成生物学に基づいて、人間が絶滅危惧種の動物を産み、育て、もしくは放流して食べてもいいんですけど、そういうファンタジーを作品にしました。

私はイルカを産みたい…

クワクボ:おもしろいですね。『(Im)possible Baby』も同じですか。

長谷川:『(Im)possible Baby』は私のペインでもあるし、友だちのペインでもあります。ロンドンにはゲイカップルがたくさんいます。同性同士で子どもを作ることは現時点ではできないですが、将来的にはおそらく技術的には可能になる。『(Im)possible Baby』の場合は、よりファンタジーのレベルを現実に近づけて、制作しました。

クワクボ:どちらの作品もどうすべきかを提案をしているのではなく、可能性を色々と広げてみせて、見る人に考えさせるという点がおもしろいですね。
『(Im)possible Baby』は、例えば言語だけで作ることも可能だと思うのですが、具体的なビジュアルを制作して、見る人のセンスを働かせるものが介在することがポイントなんですよね?

長谷川:本にしてもよかったと思うのですが、本を読むことはなかなかハードルが高いことだと思うんですよ。瞬間的に分かってもらうことが重要なので、そのためにはビジュアルを作る必要があると考えました。

クワクボ:確かに、言語だけでは、多くの人が脱落していくと思います。

長谷川:でも、『コンビニ人間』を書いた村田沙耶香さんの小説を読むと、考え方が似ているなと思います。『消滅世界』とか『殺人出産』とか。彼女も生殖系や家族、死などのテーマが好きなので、おこがましいですが、私が小説家だったら、こんなかんじになるのかなと思いました。

「授業で学ぶスキルは5年単位で変わる
IAMASでおもしろかったのは、変な大人の変な話」

クワクボ: MITから帰国してからは、どのような活動をしていますか。

長谷川:去年の9月に帰国して、今年から東京大学の「ERATO川原万有情報網プロジェクト」に参加しています。未来のIoTに関する自分の研究、作品制作をすることと、このプロジェクトのコミュニケーション部分をサポートすることを求められています。

クワクボ:場所を変えることによって愛ちゃん自身が変わっていくというのもあるし、愛ちゃんが周りに与えている影響も少なくないと思うんですよね。

長谷川:その部分はできるだけ増やそうと思っています。週に1度行く本郷キャンパスには20人くらいの学生がいるのですが、彼らはビョーク(Björk)も知らなくて。結構衝撃を受けました。だから、毎週水曜日にスケジュールを発表するんですけど、「ビョークのVRがおもしろかったです」とか、「郡上八幡に踊りにいってきました」とかプロジェクトに関係ないこともどんどん話すようにしています。

クワクボ:なるほど、おもしろいですね。ちょっとIAMAS的なものを感じますね。

長谷川:そうなんですよ。結局、私がIAMASで一番おもしろかったのは、先生や学生のよく分からない話なんですよね。

クワクボ:よく分からない話…(笑)。

長谷川:入江(経一)さんのヨガの話だとか、人間のシステムっていうのは、真面目にがんばろうとすればするほど、戦争に向かっていくという話だとか。平野(治朗)さんの授業で宗教的な儀式を作るっていう課題もおもしろかったですね。私はアートの学校にも行ってなかったので、現代美術的なアプローチにおもしろさを感じたんだと思います。

授業もスキルにはなるのだけど、そういうスキルは5年単位で変わってしまう。結局何が残ったんだろうと考えたら、変な大人たちの変な話がおもしろかったなと。

クワクボ:IAMASに入学してくる学生は、美術系から来る人だけではないので、現代美術のことをストレートにやりましょうというよりは、現代美術や建築をやっている人が日頃興味を持っていることに触れるというのはいいかもしれないですね。

長谷川:特に私は田舎の普通の高校を卒業して、おもしろい大人に会うのが初めてだったので、とても衝撃だったんですよね。そういう意味で、この研究室の学生は20人中女性が1人しかいないような、視野が狭くなりがちな状況だと思うので、少し多様性を与えられたらいいなと思っています。

クワクボ:それはすばらしいですね。
長谷川:届いているのかは全く不明ですけど…。数年経って、彼らが社会に出て変な大人に出会ったときに、「そういえば、ああいう人がいたな」と役に立つことがあるかもしれない。種まきというか、畑を耕しているような感じですね。

クワクボ: RCAやMITで出会った人はいかがでした。別のインパクトがありましたか。

長谷川:RCAのフィオナは入江さんとすごく仲がいいんですよ。そういう意味では、あまり変わらないというか、同じ種類の人がいたという感じですね。MITや今の研究所ではエンジニアとのカルチャーとの違いに少し戸惑いました。論文を書くとか、学会の締め切りがいつとか、理系の文化を勉強中ですね。

「日本のアーティストはもっと論文を書いた方がいい」

クワクボ:日本と海外のアート教育に何か違いは感じましたか。

長谷川:一番違うなと感じたのは、 RCAでは作品を作る際に、先行事例や背景、問題点とその解決方法、評価軸、どんな点において自分の作品がユニークであるかなどをまとめたペーパーを書きます。私も昔はそうでしたが、日本のアーティストはペーパーを書かないですよね。だから似たような作品が多くなるのかなと感じています。日本のアーティストももっとペーパーを書いた方がいいと思います。

クワクボ:ペーパーを書くことで自分のやっていることが整理できるのはありますよね。
今後、新作を発表する予定はありますか。

長谷川:2018年1月から始まる「青森トリエンナーレ」に参加予定です。BCLや古館さんなどIAMAS勢も展示しますよ。そこで新作ができたらと思っていますが、間に合うかな…。

クワクボ:楽しみにしています。

取材:20170907 DMM.make AKIBA

編集:山田智子 / 写真:古澤龍

PROFILE

GRADUATE

長谷川愛

アーティスト・デザイナー

バイオアートやスペキュラティブ・デザイン、デザイン・フィクション等の手法によって、テクノロジーと人がかかわる問題にコンセプトを置いた作品が多い。岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)にてメディアアートとアニメーションを勉強した後ロンドンへ。数年間Haque Design+ Researchで公共スペースでのインタラクティブアート等の研究開発に関わる。2012年英国Royal College of Art, Design Interactions にてMA修士取得。2014年から2016年秋までMIT Media Lab,Design Fiction Groupにて研究員、2016年MS修士取得。2017年4月から東京大学 特任研究員。(Im)possible Baby, Case 01: Asako & Morigaが第19回文化庁メディア芸術祭アート部門にて優秀賞受賞。森美術館、アルスエレクトロニカ等、国内外で展示を行う。

WEBサイト
http://aihasegawa.info/

INTERVIEWER

クワクボリョウタ

IAMAS准教授

98年に明和電機との共作「ビットマン」を制作し、エレクトロニクスを使用した作品制作活動を開始。以来「デバイス・アート」とも呼ばれる独自のスタイルを生み出した。2010年発表のインスタレーション「10番目の感傷(点・線・面)」以降は、光と影によって観る人自身が内面で体験を紡ぎ出すような作品に着手している。その他の代表作に「ビデオバルブ」、「PLX」や「ニコダマ」などがある。