IAMAS Graduate Interviews

INTERVIEW 005

INTERVIEWER 三輪眞弘 IAMAS学長・教授
#2018#DANCE#DSP COURCE#LIVE CORDING#MASAHIRO MIWA#MEDIA ART#PERFORMANCE#TECHNOLOGY

GRADUATE

真鍋大度

株式会社Rhizomatiks取締役

IAMASは、果てしなく自由な学校

リオ五輪の閉会式での「フラッグハンドオーバーセレモニー」やPerfumeやビョークなどのコンサート演出を手掛けるなど、国内外から注目を集めるクリエイティブ集団Rhizomatiks(ライゾマティクス)の真鍋大度さん。
アートとテクノロジーの融合を目指してきたIAMASを体現するひとりである真鍋さんと学長の三輪眞弘教授が、アートとビジネスを両立させるセンスや“IAMASスピリット”について語り合いました。

自分の興味だけに没頭できた貴重な2年間

三輪:真鍋君にとってIAMASはどのような学校でしたか。

真鍋:僕にとっては、スキルを身につけるというより、身につけたスキルをどうやって生かすかを学ぶ学校だった気がします。

僕は大学が数学科で、幾何学の研究をしていたバックグラウンドがあり、プログラミングもできた。音楽が好きで、バンドや打ち込みもしていました。IAMASに入る前からある程度ベースはできていて、それらをどう使ってオリジナルなことをやるかを学びましたね。

三輪:IAMASで過ごしたのはわずか2年ですが、その後に大きな影響がありましたか。

真鍋:当時(2002年4月 岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)DSPコース 入学)だったということも大きいと思います。インターネットは既にありましたが、今ほどオープンソースになっていなかった。メディアアートもそこまで認知されていなかったので、インターネットなどで展覧会などの情報を探しても情報量が全く足りていませんでした。そんな中でIAMASには自分が学びたいことや出会いたい人たちがすべて揃っていた。それが大きかったですね。

三輪:なるほど。

真鍋:今はSNSなど、興味の近い人が出会いやすい環境がありますが、当時は今ほどなかったので。メディアアートに興味を持っている人が集まって、議論したり一緒に考えたりする時間を持てたことは、僕の人生においてとても大きなことでした。

三輪:しかもローカルな大垣にいながら、いろんな国からすばらしいアーティストが来ることも普通だったしね。それはIAMASの良いところだよね。

真鍋:そうですね。“人生のサービスエリア”と言う人もいますけど(笑)、IAMASは果てしなく自由な学校だったというイメージが残っていますね。社会的な活動をせず、自分の興味だけに没頭できた貴重な時間でした。

いまだにIAMASの課題や習作で発表したアイデアの焼き直しだったり、当時考えていたことをもう一度やることがすごく多いのですが、それくらいIAMASにいる時に色々と考えていました。クライアントやアーティストと仕事をする時にも、「あ、これ、IAMASの課題であったな」と思うことが多くて。

三輪:今のお話とも関係あるのですが、今後のIAMASがどうであってほしいと思いますか。

真鍋:最近のIAMASを知らないので何とも言えないのですが、どれくらい進んだことをやっているのかは気になりますね。例えば脳波を解析して映像や音を生成するとか、15年くらい前のIAMASで普通に行なっていたことが、最近依頼を受けた広告の企画などで“最先端テクノロジー”と言われたりします。それくらいギャップがあるというか、当時のIAMASは相当進んでいたと実感しています。これからも、昔と変わらず尖っていてほしいなと思います。

三輪:一方で、実際に社会に出てから苦労してみて、夢ばかり見ていてはいけないと思うこともありますか。

真鍋:社会に出てから扱うような問題を学校でやってもあまり意味がないと僕は思います。すぐに回収できることではなく、ハイリターンを取ろうと思ったら時間をかけてハイリスクな方に行かないといけない。

三輪:つまりすぐに役に立つことを学ぶのではなく、2年という時間をかけてリスクを取れということですね。

真鍋:そうだと思います。平林(真実)さんの授業でPeer to Peerの環境を使って作曲するというような課題が出たのをよく覚えているのですが、当時の僕は全くピンときていませんでした。それが10年以上経った今になって、Peer to Peerやブロックチェーン技術を使ったサービスが社会に急激に普及している。IAMASで実験的な課題に取り組みセンスを培ってきたことで、新しいものが出てきた時にすぐに対応できるのだと思います。

アート表現とビジネスの絶妙なバランス

三輪:学生にはよく「しぶとく生きてくれ」という話をするのですが、真鍋君はその代表格というか、アート表現と実際にそれで生活するというバランスの取り方が非常に絶妙だと感じています。それゆえに、仕事を受けるのか受けないのかの葛藤もあるんじゃないかと想像もしますが、その辺りのお話を伺えますか。

真鍋:仕事を受けるか受けないかについては、かなり複雑な条件分けをしています。自分や会社の名前を出してやる以上は、自分の子どものようなもの。いくら金銭的な条件が良くても、品質を保てないと感じるものは受けないようにしています。

今の質問からは少しズレるかもしれないですが、自分たちが勝負する舞台は海外だと考えています。というのも、日本ではプロジェクションだけをやっている会社と、ハードウェアやソフトのアルゴリズムを一から作っている僕らが同等に見られているという現状がある。だから最近は、制作をしながら、論文を書いて公開するということにも取り組んでいます。正確に技術的な部分を伝えるためには、論文が一番良い手段だと思うので。

三輪:どの作品かは忘れましたが、真鍋君のリサーチ量に驚いたことがありました。「ここまで調べ抜いて、理解してやるんだ」と。それに加えて、ハードウェアやソフトウェアを開発する手間もある。端から見ていると、それらの労力に対して、割に合うのかなと思ったりするのですが…。

真鍋:そこは難しいところですね。Rhizomatiks(以下ライゾマ)は会社なので、パッケージ化して売り上げや利益率を上げた方がいいのではという意見もあります。現状では、僕か石橋(素)さんが行かないとできないものが多すぎて、全てが一点ものになってしまっているので。

三輪:すごく効率悪い…(笑)。

真鍋:そこは常に経営的には問題になっているんですが…(笑)、自分たちのモチベーションをキープするためには、チャレンジングなプロジェクトをやりたい。

一方で、パッケージ化したものを提供するには、スペシャリストだけが集まっている現状の体制では難しいという部分もありますね。

三輪:つまり尖った人しかいないということですね。今のライゾマはどれくらいの規模ですか。

真鍋:40人くらいです。僕と石橋さんのチーム(Rhizomatiks Reserch)が20人弱ですね。

三輪:それくらいの規模が一番幸せな感じですか。

真鍋:難しいですね。昔の方が楽だったと思うこともありますし、大規模なプロジェクトや、同時にいくつかの案件が入ってきた時は、今の人数でないと対応できない。

僕自身はマネジメントの業務が増えて、制作の時間がかなり減ってしまっています。制作する人間としては、本当はもう少し作ることに専念したいという気持ちもあるのですが、上手くバランスを取りながらやれています。

三輪:ライゾマは舞台芸術に関わることが多いし、真鍋君自身もDJをしたりしていますが、音楽や舞台芸術についてはどのように考えていますか。

真鍋:音楽については、最近またライブコーディングが流行ってきていて、三輪さんとか、僕やオウテカなどが昔からやっていて、「前からあったじゃん」って思ったりもするんですが、人に刺さるタイミングっていうのがあるんだなと。ライブコーディングでリズムがジェネレートされていくみたいなことがおもしろいなと思って、僕もやりたくなって、最近クラブでライブをしました。

三輪:やはり自分が直接やることとして、音楽というのが常に中心にあるわけですね。

真鍋:映像は仕事でできる機会が多くあるのですが、音楽は自主的にやらないとあまりやるチャンスがなかったこともあると思います。

Rhizomatiks Research x ELEVENPLAY “phosphere” photo: Albert Muñoz ©Sónar Festival ©Advanced Music

三輪:ダンスとのコラボレーションについてはいかがですか。

真鍋:ダンスに関しては、使っているシステム自体は昔のインタラクティブの延長なのですが、今までカメラをお客さん側に向けてたのを、今度はダンサー側に向けているようなイメージです。やはりダンサーがやるとより特殊な表現ができるというか、同じシステムでも全く違う絵ができるところにおもしろさを感じています。

今は、物理的に動くものとダンスの新しい作品を3月くらいに発表したいと考えているところです。ハードウェアでモーションを作る場合、今はモーショングラフィック的に作っているものはあるんですけど、それとは違うジェネレートや機械学習的なアプローチで実現してみたいなと思っています。それはこれだけハードウェアのスペシャリストがいるライゾマでしかできないことなので。

三輪:その作品はどこかから要請があって制作しているのですか?

真鍋:要請がない自主的なプロジェクトなので、これもまたマネタイズが難しいというか。常にそういう問題はありますね。

三輪:いや、でもアートとはそうあるべきだと思います。僕も委嘱があって作曲する場合がほとんどだけど、誰からも頼まれていないのにアイデアがあるから作るというのが本来の姿だと思います。

決められた内容をリアライズするのであれば、その道のプロにやっていただいた方がいい。僕たちがやりたいのは考えることだし、それを形にしてみせること。

真鍋:そうですね。依頼を受けて制作するものに関しても、以前は手を動かすプログラマーとしてしか使ってもらえてなかったのですが、5、6年前から少しずつ状況が変わってきました。最近は広告でもエンタメの案件でも、「誰もやっていないようなことをやりたいです」とお願いされることもかなり増えてきました。

三輪:すばらしい。それは実際に結果をみせているからだよね。そうでなければ、こちらが考える主体であることは分かってはもらえない。そこがアーティストの難しいところでもあると思うんだけど、厳しい現代社会の中で、やりたいことをいつも胸に抱きながら、一歩一歩やり続けて行くその姿勢こそ「IAMASスピリット」だと思います。

取材:20171017 Rhizomatiks

編集:山田智子 / 写真:中村土光

PROFILE

GRADUATE

真鍋大度

株式会社Rhizomatiks取締役

東京を拠点としたメディアアーティスト、インタラクションデザイナー、プログラマ、DJ。
2006年Rhizomatiks設立、2015年よりRhizomatiksの中でもR&D的要素の強いプロジェクトを行うRhizomatiks Researchを石橋素氏と共同主宰。慶応大学SFC特別招聘教授。
身近な現象や素材を異なる目線で捉え直し、組み合わせることで作品を制作。高解像度、高臨場感といったリッチな表現を目指すのでなく、注意深く観察することにより発見できる現象、身体、プログラミング、コンピュータそのものが持つ本質的な面白さや、アナログとデジタル、リアルとバーチャルの関係性、境界線に着目し、デザイン、アート、エンターテイメントの領域で活動。

https://research.rhizomatiks.com/

http://www.daito.ws/

INTERVIEWER

三輪眞弘

IAMAS学長・教授

作曲家。コンピュータを用いたアルゴリズミック・コンポジションと呼ばれる手法で数多くの作品を発表。第10回入野賞1位、第14回ルイジ・ルッソロ国際音楽コンクール1位、第14回芥川作曲賞、2010年度芸術選奨文部科学大臣賞(芸術振興部門)ほか受賞歴多数。2007年、「逆シミュレーション音楽」 がアルス・エレクトロニカのデジタルミュージック部門にてゴールデン・ニカ賞(グランプリ)を受賞。

http://www.iamas.ac.jp/~mmiwa/