図書館の機能がアーカイヴ(資料の保存・管理)にあると言われて久しいのですが、図書館はすでにそのような機能から超出しているはずです。また図書館が基 本的にもつ書物の貸出し業務というものも、利用者がやってくるのを待つという受動的な姿勢ではもはや立ち行かなくなっています。図書館が、時代の、地域 の、文化の中心としてどのように世界に打って出ることができるのか、それについて考えてみたいと思います。IAMASはすでに、出前教室やビエンナーレの ようなアートイベントにおいて、IAMAS文化と呼べるものを頻繁に発信してきました。ただ、それらは「発信地」としてのIAMASという主体が抽象的に 捉えられているばかりで、文化の発信源に直接触れることはできませんでした。平成26年度に、IAMASはソフトピア地区に移転しますが、それに伴い図書 館もさまざまな面でリフレッシュされます。そのときには、図書館こそがIAMAS文化の担い手となって外部へと発信するその中心となるような活動や機構が 必要とされるよになります。今回は「おいしい図書館」と題して、料理の世界のさまざまな表現を援用しつつ、書物とそれにまつわる文化が、IAMASにおい ていかに重要であり、かついかに発信させることができるかについて提案をしてゆきたいと考えます。ブリア・サヴァランの〈味覚の生理学〉の立場から、ある いはレヴィ=ストロースの〈料理の三角形〉の構造から、書物が、図書館が新たな様相で出現することになります。さまざまなレシピと調理法ともてなしを備え た、バランスのとれた栄養価の高い、しかも洒落たレストランとして開館される移転後のIAMAS図書館に立ち会いたいと思います。
小林昌廣(IAMAS教授、医療人類学、身体表現研究、芸術批評)
1959 年東京生まれ。植物生化学の研究ののち、大阪大学大学院医学研究科博士課程満期退学。大学院では医療人類学、医学史、医学哲学などを勉強し、中国 を中心にした東南アジア諸国での非西洋近代医学のフィールド調査を行なうと同時に、日本独特の医療文化である「肩こり」「持病」「血の道」などについての 広域的研究を行なう。著書に『病い論の現在形』(青弓社)、『臨床する芸術学』(昭和堂)、『「医の知」の対話』(人文書院)など。京都造形芸術大学芸術 学部芸術表現・アートプロデュース学科教授、同大学舞台芸術研究センター主任研究員を経て、現在、情報科学芸術大学院大学教授 。