IAMAS Graduate Interviews

INTERVIEW 001 【後編】

INTERVIEWER 前林明次 IAMAS教授
#2017#AKITSUGU MAEBAYASHI#DIGITAL FABRICATION#EDUCATION#HACK#MATERIAL#MEDIUM#WORKSHOP

GRADUATE

廣瀬周士

sketch on主宰

生まれ育った岐阜で始めた、長い挑戦

廣瀬周士さんがIAMASに入学した経緯やsketch on開設までをたどった前編に続き、後編ではsketch onという新たな環境が廣瀬さんのものづくりにどのような変化をもたらしたか、また今後の展開についても伺っていきます。
それでは、IAMAS在学時の担当教員である前林明次教授との対談の後編をゆっくりお楽しみください。

専門性を持った人が集う
リアルなもの作りの場を作りたい

前林:3月の終わりにsketch onがオープンして4ヶ月くらい経ちましたが、何か手応えはありましたか。

廣瀬:ないですね(笑)。こういうスタイルの場はあまり例がないからかもしれないんですが…。ここはいわゆるFab施設とは毛色が違う場所だと思っているんです。もっとリアルなもの作りの場というか。

前林:リアルと言うと?

廣瀬:専門家じゃない人がデジタルファブリケーションの力で分業を超えた何かを実現できる場というわけではなく、専門的な技術や知識を持った人同士が、お互いの技術や素材論なども共有できる、そういう場にすることが僕の理想ですね。
そのためにも、専門家の技術を何らかの形で生かしたワークショップを色々と企画していきたいと思っています。

前林:これまでにどんなワークショップを企画しましたか?

廣瀬:6月は4つのワークショップを開催しました。そのうちの2つは、それぞれ専門分野を持った作り手と一緒に企画したものです。
100均グッズをHackするワークショップ『100KING』では、今回IAMAS卒業生の篠田(幸雄)さんと市野(昌宏)さんにお願いして、100均グッズを使ってサウンドプレーヤーを作りました。このシリーズは、電子工作に限らず、今後も続けていく予定です。

100円グッズをHackするワークショップ

もうひとつは、フェルト作家のATSUKO SASAKIさんと一緒に考えた羊のミニチュアを作るワークショップです。彼女の羊毛で立体を作る技術を取り入れて、羊毛と革を使ってミニチュアを作りました。
どれもちっぽけな内容なんですけど、「誰がつくったか」よりも「ここから何が産み出されたか」ということがこれらの活動では大事だと考えています。

生まれ育った場所で活動する理由

廣瀬:岐阜では今、30~40代前半くらいの方たちが地域活性化の活動をかなり盛んにしている。それは見ていてとても気持ちがいいことだけど、どうしてもそういうところでピックアップされるのは、美濃和紙のような伝統工芸や木工などの岐阜の地域性を生かしたものが多い。一方で、例えばサンデービルヂングマーケットのようなハンドクラフトを出店する場も盛り上がっている。
でもその両方に当てはまらない、独自に実験を繰り返すようにもの作りをしている人もたくさんいる。そういう人がもっとつながりを持ってもいいのかなと思ったのがひとつですね。
それから、自分が関わってきた鋳物の世界は今元気がないんですよ。

前林:産業構造が変わったために?

廣瀬:そうですね。例えば鋳物の原型になる木型屋さんがどんどんなくなっている。というのは、デジタル工作機器がかなり一般化してきたので、職人さんがやらなくても機械で木型が作れてしまうんです。
もちろん機械化も大事なことですが、木型を作るという職人の技術は、もしかしたら今の時代にあった別の使い方があるかもしれない。そういうことを考えていけたらという思いも、この活動を始めた理由のひとつとしてあります。

前林:それを聞くと、sketch onでの色々なワークショップなどは、最終的には「手を経由する」ということに繋がっていて、それははっきりとコンセプトとして感じ取れられます。いわゆる「デジタル・ファブリケーション」というよりは、本来的な「ファブリケーション」ですね。

廣瀬:ありますね。例えば、このTシャツは「抜染(ばっせん)」という染色の技法で染めている。無地染めした布をあえて脱色して模様をつける技法で、めんどくさいし、あえてそんなことしなくてもいいんだけど、こういう技法があって、どうやるのかを知ることが、新しい何かを作るヒントになるのかもしれない。今売られているものがどのようにできあがっているのかと知るということも、ものの価値を知るということに繋がっていくのかもしれない。

でも、デジタルを完全否定しているわけではないですよ。ここにはレーザーもあるし。

これは『プチ鋳』のワークショップに使う型なんですが、レーザーで作っています。こういう型や治具を作る時に使うなど、バックで支えるデジタルの活用もあるんじゃないかと考えています。それをまた共有できれば、いろんな手仕事をやっている人を支援することに繋がるかもしれない。そんな風にこの場所を使ってもらえたらと思いますね。

低融点金属による小さな鋳造ワークショップ

前林:色々取り組んできた中で、今どういう課題が見えてきていて、これから何をやっていこうと考えているのか、聞かせてください。

廣瀬:まず見えてきたことは、圧倒的に分母が少ないということ。興味をもってくれる人がいるということは何となく分かってはいるんだけど、まだその顔が見えてこない。さらにその中で、実際に足を運んでくれる人は本当にわずかだろうと。だから、ここから産み出されるものをどんどん発信して、共感を得られるまで地味にコツコツと積み重ねるしかないと思っています。

前林:この(sketch onの)環境を作ったことで、人々の交流が生まれて、それが自分のもの作りにフィードバックされたり、ヒントになったりしますか?あるいは具体的に、新しく作り始めたことはありますか?

廣瀬:もちろんあります。まだ実際に作る段階ではないんですが、こういうものをやってみたいというプランは徐々に具体化しつつあります。多様な人たちと接することで、僕自身もちょっと立ち止まるというか、鋳物も含めた様々な既存の手法が別の表現手段に置き換えられるんじゃないかと考えているところです。
それと、岐阜県では唯一ブロンズの鋳造をできるところが岐南町にあったのですが、十数年前に炉を閉じちゃったんです。そこの職人さんがもうすぐ70歳で、いよいよ引退するのかと思うと、最近それがすごく気になってしまって。
僕がIAMASに入る前に見ていた鋳造と、今見てる鋳造というものの捉え方は明らかに違ってきている。単純にブロンズで彫刻を作るということではなく、それ自体をうまく題材に取り入れた表現手段もあるのかななどと考えています。
前林:それはぜひ実現できるといいですね。

大仏の作り方に学ぶ
もの作りの驚きや面白さ

廣瀬:もうひとつ、ここの役割として、研究機関や教育機関とは全く別のレベルの学びの場というか、自由研究ができる受け皿になれればいいなと思っています。
実は『大仏の作り方』という自由研究をやっているんですよ。教科書などに載っている大仏の作り方はかなり簡略化されていて、よく考えたらおかしい点がたくさんある。そこにみんなでツッコミを入れていこうという企画です。たまたまテーマが大仏なんですけど、もの作りをしている人には分かるけど、見ているだけの人には分からない、驚きやおもしろさを共有できたら楽しいのかなと思っています。

大仏の作りかたを考える自由研究会

前林:一見いろんなことをしているけれど、やはり全体の活動がつながってますね。全体の活動が「編集」されているところがとても重要だと思いました。

廣瀬:トータルで何年後かに見た時に、全部ひとつの地平の上にあるぞという感じが伝わればいいかなと。僕はそれしか考えてないし、そうなるはずだと思ってやってはいるんですけど。

前林:長い挑戦になるとは思うけど。

廣瀬:そうですね。いつまで続くか、そこが問題ですね。これを継続させられるかが、僕にとっては重要なので。

前林:陰ながら応援しています。今日はありがとうございました。

取材:20170703 sketch on にて

編集:山田智子 / 写真:古澤龍

PROFILE

GRADUATE

廣瀬周士

sketch on主宰

美術作家。1967年岐阜県生まれ。東京藝術大学美術学部工芸科、情報科学芸術大学院大学卒業。主な作品に、《HAND ON HAND》、《lifework / roots》、《lIfework / transmit or reflect》などがある。シェア工房「sketch on(スケッチオン)」主宰。

https://www.sketch-on.net/

INTERVIEWER

前林明次

IAMAS教授

身体と環境のインターフェイスとして「聴覚」や「音」をとらえ、そこに技術的に介入することで知覚のあり方を問いなおす作品を発表してきた。現在は身体と場所との関わりへの想像力を喚起する装置として作品制作をおこなっている。主な作品に《AUDIBLE DISTANCE》、《Sonic Interface》、《ものと音、空間と身体のための4つの作品》、《Container for dreaming》、《103.1dB》、《OKINAWA NOISE MAP》、《場所をつくる旅》などがある。

http://www.iamas.ac.jp/faculty/akitsugu_maebayashi/