IAMAS OB/OG Interview

INTERVIEW 011 【前編】

INTERVIEWER 平林真実 IAMAS教授
#2019#AI#BIOLABO#DIGITAL FABRICATION#HIRABAYASHI MASAMI#SOUND#WORKSHOP

GUEST

YCAM インターラボ スタッフ

伊藤隆之(R&Dディレクター) 安藤充人(音響/ハードウェアエンジニア) 中上淳二(音響エンジニア)

やっていることは、学生の頃からほとんど変わらない

山口情報芸術センター(以下YCAM)は、2003年11月1日の開館以来、メディア・テクノロジーを用いた新しい表現の探求を軸に、展覧会や公演、子ども向けのワークショップなど、多彩なイベントを開催しているアートセンターです。
YCAMの内部には研究開発チーム「YCAMインターラボ(以下インターラボ)」が設置されており、市民や各分野の専門家たちと積極的にコラボレーションをしながら、調査や実験から、作品制作、ワークショップ開発などのアウトプットまで、総合的かつ長期的なプロジェクトを展開しています。
今回は、インターラボで働く、伊藤隆之さん、中上淳二さん、安藤充人さんを、平林真実教授が訪ねました。

「学生から学んだことも多い。色々な価値観を作られた」(伊藤)
「研究することと実践することに集中できる場所」(中上)

平林:まずは自己紹介も兼ねて、今やっているインターラボでの活動を教えてください。

伊藤隆之

伊藤:インターラボは、プロジェクトを企画する企画チームとテクニカルなことを担当するラボチームからなります。僕はラボのチームのチーフリーダーをしていて、今は企画チームのリーダーチーフも一時的に兼任しています。
僕はオープンからずっといるので、もう15年。
初期は、音響技術やサウンドエンジニア、ソフトウェアを書いたり、電子工作をしたりしていましたが、途中からディレクションの比率が大きくなって、今に至ります。

安藤:YCAMに初めて来たのは2014年で、IAMASを休学していて、自分の方向性とか色々考えたいと思っていた時期でした。ちょうどYCAMが10周年で、夏の子ども向けのワークショップ「YCAMサマースクール」をコミュニティースペースで開催していて、そのスタッフを1年半担当した後に2016年にラボに入りました。今は中上さんと一緒に音響のセクションで働いています。

中上:僕は2015年にYCAMに来て、そこからずっと音響の方を担当させてもらっています。

平林:音響のセクションは、具体的にどんなことをしているのですか。

安藤:ライブのプランとセットアップ、オペレーションも時々行います。

伊藤:音響の責任者として2人がアサインされているのですが、どのスタッフも責任を持っている分野とは別に専門分野を持っています。中上さんも安藤くんもソフトウェアを書いたりしますし、デジタルファブリケーションは安藤君が担当していますね。ラボのスタッフはほとんどみな、複数の専門分野を持っています。

安藤:伊藤さんだとバイオを担当していたりしますね。

安藤充人

平林:バイオだと、菅沼(聖)君もやっているし、色々混ざっているんですね。

伊藤:そうですね。

平林:公演を行うとか作品を作ることが決まった後、実際にどのように仕事を進めていくのですか。

伊藤:展示に関しても公演に関しても、既に作品が出来上がった状態でここに来るものに関しては、事前に打ち合わせをして、設計図をもらって、こちらで準備するもの、アーティストが持ってくるもので切り分け、指示通りに準備していきます。
YCAMで作るものに関しては、通常の場合だと、一年ぐらい前からミーティングが始まって、そこから半年ほどかけて徐々にアイデアを具現化していきます。
人によっては途中から一月に一回くらい来て、一緒に実験しながら進めていくことも多いです。

平林:以前遊びに来た時に、わりと時間的に自由に仕事をしているように感じたのですが、普段の働き方としては比較的自由な感じですか。もちろん、イベントや展示の直前は忙しいと思うのだけど。

伊藤:おっしゃる通り、直前は忙しいですが、それ以外は比較的ゆったりの時もあります。最近はみんなスキルがついてきて、展覧会前日に徹夜をするということはなくなりました。そう言う意味では前倒しできるようになって、逆にまんべんなく忙しくなった部分もあるかもしれません。

平林:勤務時間は決まっていないのですか?

伊藤:基本はフレックスタイム制です。今は22時までに帰らないといけないので、そこから逆算すると、遅くとも午後にはみんないる感じですね。

中上淳二

中上:IAMASのように24時間いられるわけではないので。

平林:次にIAMASでの経験がどのようにYCAMにつながっているかを聞かせてください。

伊藤:僕はIAMASに行ってなかったら、間違いなくアート業界には来てないですね。テクノロジーをアートとかそういう表現に応用するという価値観の部分で、IAMASの人はすんなりと言葉が通じるというか、コミュニケーションのロスが少ないという感覚があります。

中上:開館当初からIAMAS生が多かったのですか。

伊藤:開館当時は、僕と会田大也くん、山元史郎さんだけでしたけど、それからすごくたくさんのスタッフがIAMASからYCAMに来ていますね。

中上:YCAMにはIAMASの人がある程度いるという安心感がありましたね。

平林:今、外からIAMASを見てどう思いますか。

伊藤:学生でいた当時しか詳しくは知らないので、何とも言えないですね。逆に今のIAMASはどんな雰囲気ですか。

平林:伊藤さんがいた頃と、特に大学院だけになってからは雰囲気が変わったね。あの頃のDSP(Dynamic Sensory Programming Course)はちょっと特別だったね。

伊藤:DSPは学生として来る人が全員崖っぷちだなと感じていたことがありました(笑)。「みんなどうするんだろうなあ」って思っていたんですけど、今ではほとんどの人がある特定の分野で活躍していますよね。

平林:YCAMを経由したメンバーも多いしね。

伊藤:本当にそうですね。卒業してから関わる人は、割とDSP率が高くて、みんな活躍していてすごいなあと思う一方で、他に行くところがなかったのかなって(笑)。DSPでは、ある種、この業界でしか生きられないスキルというか、そこで活躍するためのスキルをまっすぐに教えてもらったという気がします。

中上:僕と安藤君はアカデミーがなくなって、大学院だけになってからの代ですが、もう少しシステム的になった印象はありますね。

平林:大学っぽくなったよね。真面目な人が多くなった。

伊藤:僕らの時はおかしかったですよね(笑)。でもお勉強的なことは、例えば本を読んだりして自分でもできるんですけど、それ以外の、自分では学べないところをめちゃくちゃ教えてもらった気がします。先生たちもそうですけど、特に学生から教えてもらったことが本当に多い。色々な価値観に影響を受けました。

平林:特に理系から来ると、そういう感じはあると思いますね。

伊藤:自分も含め、理系の学生は、少なくとも学部を卒業するまでは、自分の好きなものを作っていいよということはあまり言われてこないと思うんですよね。だからIAMASで入学早々モチーフワークで「じゃあ、何か作って」といわれても、芸術系の大学から来る人たちはすぐ作り始めるんですけど、理系の学生は何も出てこなかったり。それはすごく問題だなと感じたことを覚えてます。

平林:最近入学した2人はどうですか?

中上:研究することに集中できる場所という印象はありますね。我々は技術を使う立場にいるのですが、「その技術が何のためにあるか」とか「なぜそれを使わなければいけないのか」ということだけを真剣に考えさせられる場所でした。しかもそれをしっかり言語化できることも求められる。良い意味で厳しいところにいたんだなと感じます。
YCAMで働いていても、たまにふと「なんでここにはあのスピーカーを置かなきゃいけないんだろう」とか、頭をよぎる時があって、良い経験として残っているなという印象があります。

平林:みんな良いことしか言わないね。

伊藤:時間が経つと悪いことは忘れちゃいますね。

一同:(爆笑)

「共同で作った作品に取り入れた、自分のアイデアの結果を見たい」(安藤)

平林:先ほども話に出たけど、会田大也くんや山城大督くんなどYCAMを経由して活躍しているOBOGをどう思っていますか。そういうキャリアパスがYCAMにあるのですか。

伊藤:ここのOBOGが活躍するのはすごく良いことだし、本当にありがたいですよね。キャリパスっておっしゃってくださいましたけど、その辺りは意識しなきゃいけないと思っています。つまり全員のスタッフを永久に雇用していくと、いつかは平均年齢が60歳とかになるわけですよね(笑)。だからその循環の中で、スタッフのキャリアのことも視野に入れていかないといけない。

平林:管理者側の意見だね(笑)。巣立っていった人は、アーティストや教員になるための熟成期間をYCAMで過ごしたってことですよね。つまりそういう土壌がYCAMにはあるってことですよね。

伊藤:学ぶ気があれば、いくらでも学べる環境はあります。機材はありますし、人と出会うチャンスにかなり恵まれていることも大きい気がします。ここにいると、あらゆるジャンルの人たちがたくさん来るので、その人脈は生かしていけるかもしれないですね。
作家と作品を制作する過程を一緒に行って行くことも強い気がしますね。クリエーションを積み重ねるたびにと人が成長している印象はあります。

平林:自分で作品を作るのと共同で作品を作るのはだいぶ違うと思うし、自分の作家魂みたいなものもあると思うので、その辺りをどう折り合いをつけているのか気になります。

中上:僕は、そこはけっこう割り切っています。作家がやりたいようにできるよう裏方に徹しています。

平林:大脇(理智)くんもそうだけど、自分自身の作品を作っている人もいるし、皆さんはどうですか。

中上:大脇くんは顕著だけど、アイデア自体に価値はないと言い切っていて、自分の作品に使おうと思っていたアイデアを作家にどんどん提供していますよね。僕らも、作家魂なのかは分からないですけど、どうゆう作品を作ろうかというブレストの中で自分の持っているものを大体机の上に並べている感じはありますよね。

安藤:作品に入れた自分のアイデアの結果を見たいという気持ちもありますよね。

伊藤:技術分野に関してはある方向性の上に一任されることが多いので、その中では、かなりアイデアを生かされている感じはしますね。

平林:みんなもっと自分の作品を作りたいってウズウズしているのかと思った。作りたい人は作るって感じなんだね。

伊藤:三原(聡一郎)君とか大脇君とかは、中にいながら作っていましたけどね。

平林:ちなみに、管理者側としては(笑)、作品で作っていることに関しては問題ないのですか?

伊藤:仕事に影響がなければいいんじゃないですかね。

平林:普通の会社で働くのと違って、制作欲みたいなことに対する齟齬がない。自分の作品を作っているかそれ以外を作るか。学生の頃とあんまり変わってないかもしれないね。

伊藤:変わってないですね。本当にやっていることが変わってないなって。

中上:僕も変わってないですね。

伊藤:それしかできないもんね。

一同:(笑)

中上:違いがあるとすれば、IAMASにいた頃は自分の作品を見てもらう感じだったんですけど、YCAMではアーティストを含めて全員で作ったものを見てもらうので、自分の立ち位置がどこかということを明確にしなきゃいけないっていうこと、クオリティを上げていくためにはどうすればいいかを相談しながら作っていくところくらいですね。

平林:最後に、今やりたいことや最近の興味の対象を教えてください。

中上:全く話が変わりますが、最近ゲームに興味があります。1月にはNintendo Switch
を買ったんですが、その中で使われている技術にYCAMでも使えそうな技術がいっぱいあると感じています。例えばスポーツハッカソンに生かせるアイデアやネットワーク技術を使って外部の人と簡単にやり取りする技術をYCAMに行かせないかとリサーチしながら、ゲームを熱心にやっています。あとは、AIですかね。

伊藤:ラボでも定期的にAIの勉強会が始まりました。

安藤:僕は、家でライノセラスとグラスホッパーで遊んでいたり、仕事で使ったりもしますし。

伊藤:たまに話を聞くと、突然凝ったものを作っていたりして、ビックリするよね。

安藤:試せるもの試す。家に3Dプリンタがあって。

伊藤:最近は組織のことを考えることが多いですが、バイオは継続してやっていますし、AIもおもしろそうですよね。月並みですがブロックチェーンもおもしろそうだなと、その辺りに興味があります。

取材: YCAM インターラボ

編集:山田智子 / 写真:山田聡

PROFILE

GUEST

YCAM インターラボ スタッフ

伊藤隆之(R&Dディレクター) 安藤充人(音響/ハードウェアエンジニア) 中上淳二(音響エンジニア)

伊藤隆之
1978年生まれ。東京都出身。高校卒業後、東京工業大学生命理工学部生体機構学科に入学。在学中は生物学について学ぶ傍ら、音楽好きが高じてダブやロック、テクノなどのライブイベントに週2〜3回のペースで足を運ぶ。所属していたサークル(茶道部)の先輩だった石橋素(エンジニア/アーティスト)が、大学卒業後に岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)に入学したことをきっかけに、自らも大学卒業後に同アカデミーへ入学。在学中はコンピューターを使った美術作品の制作について学び、その中で美術家やデザイナーなど、それまでに触れたことのない分野で活躍する人々と出会う。
同アカデミー卒業後の2003年4月、YCAMの開館準備室に音響エンジニア/プログラマーとして着任。この時点では劇場での仕事経験がなかったため、開館までに世田谷パブリックシアターでの研修など、音響機材・設備の使用法の習得に励む。同年11月の開館以降は、展覧会や公演など主催事業全般の音響のプランニングやセッティング、オペレーションのほか、委嘱作品の制作に必要なプログラミングを担当。その後、YCAMの組織体制や活動の変化に伴い、2005年ごろからYCAMが発表する委嘱作品における技術面のディレクションへ業務内容が移行する。
2009年9月、文化庁新進芸術家海外研修制度でニューヨークへ渡り、1年間滞在。アーティスト/プログラマーのザッカリー・リーバーマンのもとで、オープンソースの視線検出ソフトウェア/ハードウェア「EyeWriter 2.0」の開発に携わるなど、オープンソースによるクリエイティブ・コーディングの最先端に触れる。帰国後は、主にYCAMの研究開発プロジェクト全般のディレクションを担当。インターラボを今よりもさらに開かれた「実験場」へと発展させ、市民をはじめ多くの人々を巻き込みながら高い創造力を発揮できるよう、現場仕事からマネージメントまでさまざまなアプローチを試みている。

安藤充人
1988年生まれ。岐阜県出身。高校卒業後、中京大学情報理工学部情報システム工学科に入学。在学中は情報工学全般、主にネットワーク技術について学び、コンピューター・ヒューマン・インターフェースが現在とは別のものとして存在した可能性について追求する。同大学卒業後は、岐阜県立情報科学芸術大学院大学(IAMAS)に進学。ラピッド・プロトタイピングの応用としてデジタル・ファブリケーションを用いた表現手法の研究をおこなう。
大学院在学中の2013年にYCAMの教育普及事業のアシスタントとして勤務した後、2014年10月、YCAMのスタッフに着任。オリジナル・ワークショップや「コロガル公園シリーズ」の開発など、教育普及事業全般に携わる他、地域資源の活用に関する研究開発プロジェクトを担当。大学院での研究をおこないながら、展示やワークショップを実施する上で必要となるコンセプトの実証や、プロトタイピングから得られた知見の外部への公開などを通して、YCAMを中心とした共創的なコミュニティのあり方を模索している。

中上淳二
1977年生まれ。山口県出身。西京高等学校卒業後、名古屋外国語大学外国語学部英米語学科に入学。在学中は英米文学を学ぶ傍ら、ミュージシャンを目指して音楽活動に没頭。大学卒業後は、新設の名古屋学芸大学メディア造形学部映像メディア学科の助手として、メディア・アートに関する教育活動に従事。その後は名古屋学芸大学と大同大学で非常勤講師を務める。
2012年、情報科学芸術大学院大学(IAMAS)修士課程に入学。コンピューターと身体の関係を軸としたメディア表現について研究した後、修了後はスタッフとして大学に残り、機材やネットワークの管理などを担当する。
また、2010年ごろからアーティストとして、DJ、VJ、インタラクティブ作品の制作、舞台映像の演出など、幅広く活動。参加した主な展覧会に「anima-Flip Flap Animation」(2009年/名古屋)など。参加したライブイベントに「TAICOCLUB’11」(2011年/長野)など。参加した舞台演出に演劇組織KIMYO「ジョナサン」(2013年)など。また、他のアーティストの作品制作にもエンジニアとして参加し、高嶺格の「いかに考えないか」(2011年)、「ジャパン・シンドローム」シリーズ(2011年〜)などの作品ではシステム開発をおこなう。
2015年4月、YCAMのスタッフに着任。展覧会や公演など、YCAMの主催事業全般における音響機器のプランニングやオペレーション、制作に必要なソフトウェア開発などを担当。高校卒業以来、19年ぶりに帰ってきた故郷・山口に、これまで培ってきたメディア・テクノロジーにまつわる知識や経験を還元すべく業務に邁進するとともに、山口にこれまで出来上がっては消えていったクラブシーンの2015年以降のあるべき姿を模索している。

INTERVIEWER

平林真実

IAMAS教授

1964年長野県生まれ。NxPC.Lab主催。研究領域はコミュニケーションシステム、実世界インタフェース・インタラクション。Web構造解析、位置情報ベースの研究/作品などをはじめ、近年は音楽体験を拡張するためのシステムの研究を行う。多数のクラブイベントでの経 験を生かし、NxPC.Lab名義でクラブイベントを開催することで音楽会場で展開可能な実践的な展開を行なっている。