IAMAS OB/OG Interview

INTERVIEW 021

INTERVIEWER クワクボリョウタ IAMAS教授/アーティスト
#2020#ART#RYOTA KUWAKUBO#TECHNOLOGY

GUEST

中路景暁

アーティスト/ハードウェアエンジニア

興味のままに進める環境があったことが大きい

工学技術をもとに、工場のベルトコンベアーなどの機械装置と身体表現によるパフォーマンスや映像作品を制作する中路景暁さん。「アーティスト・イン・ミュージアム」として招聘され、岐阜県美術館アトリエで公開制作、作品展示を行っている中路さんのもとを、IAMASでの担当教員であるクワクボリョウタ教授が訪れました。

卒業後の作家活動も、順調な滑り出し

クワクボ:IAMASを卒業して1年半という早さで、こうした展示をする機会があることにとても驚いているのですが、ここ岐阜県美術館での「アーティスト・イン・ミュージアム」はどのようなご縁で実現したのですか。

中路:僕もビックリしています。
IAMAS在学中に、キュレーターの檜山さんに声を掛けていただいて、卒業してすぐの2019年4月に名古屋で行われた「超暴力展」に参加したのがはじまりです。
その展示を岐阜県美術館の加藤さんが見に来られて、その時に少しお話をしました。その後、ICCの「見る、楽しむ、考える スポーツ研究所」の展示も見てくださってその時に実施したワークショップにも興味を持ってくださったりして、今回の公開制作、展示につながりました。9月8日から27日まで公開制作を行い、10月3日から25日まで展示を行います。

クワクボ:公開制作を見に来る方は多いですか。

中路:先週まで企画展を開催していたので、土日は展示を見たついでに寄る方が多かったですね。

クワクボ:人に見られている中で作るのはどうですか。絵を描いているとかではないので、伝わりづらい部分もありますよね。

中路:作りやすくはないですね(笑)。今回レールの上をピンポン球が転がっていく作品を制作しているのですがレールにピンポン球を転がして試している時は、そういう作品になるのか何となく想像できると思うのですが、パソコンに向かっているだけの時もあるので、タイミングによってはやっていることが分かりづらくてこれで大丈夫なのかな?と思うこともあります。

クワクボ:3Dプリンターのバリを剥がしているとかね。

中路:そうです(笑)。美術館の方からは新鮮だと言っていただいているんですけど……。

クワクボ:段々と組み上がっていくのは面白いですよね。例えば絵の場合はキャンバスの中に描かれることがほぼ決まっている訳だけど、この作品はどこまでの伸びていくのか全体像が分からないところに面白さがあると思います。

ジャグリングとエンジニアリングがものづくりのベース

クワクボ:IAMASに来る前は、いわゆる美術をやっていた訳ではないんですよね。IAMASで学ぼうと思ったきっかけは何ですか。

中路:大学の時にジャグリングをやっていたのですがその延長でエンジニアとして働きつつずっと表現に対する興味がありました。そんな中で工学で表現できる分野があるんだと知ったことですね。元々ものを作るのは好きだったので、大学は工学部に進学して機械工学を学びました。大学からジャグリングのサークルに入って、パフォーマンスをしたりしていたのですが、ジャグリングで食べていこうとは考えていなかったので、大学卒業後はメーカーでエンジニアとして働いていました。
ただ社会人になると、ジャグリングを練習する時間が取れなくなり、そうすると当然上達しなくなる。それで段々と興味が薄れてしまって、ジャグリングからは遠ざかっていくのですが、表現に対する興味は常にあって、演劇や映画、ダンスを観に行ったりしていました。

クワクボ:なるほど。機械工学から表現の世界に急に飛び込んできたということではなく、もともとジャグリングという表現をずっと続けていたということですね。

中路:そうですね。あとは働く中で自分がやりたいことはプロダクトではないなと思ったのもきっかけの一つです。僕はものを作る上で、アイデアを出して、それを作って、見せるという過程が好きだったんですけど、僕が仕事で携わっていたプロダクトは特に製品のスパンが長いものだったので、アイデアを考えて作るというフェーズが、全体の中で見ると非常に短く、それ以外の時間の方が断然長いので、だんだんと窮屈に感じるようになってきました。
ちょうどその頃、ものを作ることで表現ができる分野があることやIAMASという面白い学校があることを知りました。具体的に自分が何ができるかは分からなかったですが、とりあえずIAMASに入ってみようと思いました。

クワクボ:IAMASに来てよかったですね。僕も少し似たようなところがあります。

中路:クワクボさんは会社で働いていたというお話を聞いて、僕も少し似ているなと思っていました。

クワクボ:色々なタイプがいると思うんですけど、何か一つのことを極めて行くタイプもいれば、色々なものを組み合せることで今までにないものを生み出すイノベーションタイプもいます。

中路:僕は後者の方だなと思います。でも特に美術の分野なんかは極めるタイプじゃないと居場所が少ないんじゃないかなとも感じます。

アイデアを考え、作ることを繰り返して、新しいジャンルを生み出す

クワクボ:IAMASでは、僕が代表を務めていた「あたらしいTOYプロジェクト」を受講して、毎週毎週何かしら作ってきてくれていたのを覚えています。
グローブの指の一本一本にそれぞれ棒がついていて、それを動かすと、他の人のグローブが動くというのとかありましたよね。

中路:操り人形みたいな作品ですね。

クワクボ:他にも、ジャンルとしてはよく分からないんだけど、とにかくサクサクと色々なものを作ってきてくれて。それを繰り返していく中で、徐々にルートが見えていったように感じています。

中路:あのプロジェクトは、自分にとってとても大きかったです。

クワクボ:そういっていただけるとうれしいです。

中路:最初は美術のことが全く分からなかったので、でも作って見せて、それに関するリファレンスを提示してもらって、プロジェクトのメンバーに色々と意見をもらって、また作るというのを繰り返していくのは、自分にとっては本当に良い経験になりました。

クワクボ:あの年は受講生が4人で、しかも全員やっていることがバラバラだったので、お互いに作ったものを見せ合って、意見を言い合う。ムダ話も多かったけど、他の人が無責任に出したアイデアから次の作品が生まれていくというような、僕も予想していなかった良いサイクルになったと感じています。
中路君の場合は、アートがどういうものか、その型を受け入れていくというよりも、自分で作ったフォーマットを展示にする側の人が見てくれた、取り上げてくれたという感じかなと思います。アートの文脈をあまり意識することはなかったですか。

中路:興味がなかった訳ではないですし、IAMASにいる間も講義の中や本を読んだりして勉強をしてはいたのですが、僕自身も自分の作品をどのジャンルに括っていいか分からなくて、アート寄りの少し広めな守備範囲のところで落ち着くしかないかなと考えていました。

クワクボ:ジャグリングに関する興味と前職のエンジニアとしての専門を生かすというところから始まって、自分の興味を忠実に、素直に探求していったことが、IAMASでの研究につながっていたという流れですね。

中路:最初はキネティック寄りの作品に興味を持って、徐々に単に装置が動くだけではなく、何かものが動いていたり、自分がその中に入っていったりする方向に展開していきました。

クワクボ:どのジャンルにも当てはまらないと、これは表現なのだろうかと心配になることはなかったですか。

中路:そのまま進められるように、許してくれる環境があったことが大きいと思いますね。

クワクボ:それは中路くんがプロトタイプを何回も作ってくるのを見ていて、この人は大丈夫だと感じたからですよ。中にはなかなか手が進まない人もいるので。

中路:そこは自分に課していたところではありますね。作らないと分からないという感覚は常に持っていました。

 

▲ 「Sequences/Consequences」

 

クワクボ:Oddly Satisfying Video、例えばベルトコンベヤーから流れてくる品物をただ箱に詰めるだけとか、ただひたすら一つのアクションとかを見て気持ちがいい映像が一つのジャンルになっています。そういう映像に影響を受けながら、段々と機械や環境の方が動いて、そこに人間が手を添えることで作品を成立させていった。それが修了作品として制作した「Sequences/Consequences」動画ですね。

中路:そうです。

クワクボ:いわゆるジャグリングは、トレーニングを積んで普通の人ができないようなアクションを見せるんだけれど、中路君の作品は身体的なアクションとしては非常にミニマル。言ってみれば誰でもできる動きで、環境が動くことで成り立っているというところが面白いですよね。掃除の人がエスカレーターの手すりを動かさずに雑巾掛けする面白さ、そういうツボはみんな持っていますよね。

中路:まさに自分の作品の中ではそこを探す作業をしているのかもしれません。ジャグリングの練習ができずに上達しなくなっていった経験から、ある種誰でもできるところに面白さを見つけていく方向にシフトしていったところが少なからずあると思います。

クワクボ:美術の文脈の関係でいうと、ジョン・ウッド&ポール・ハリソンも大きかったですね。ICCの展示は見ましたか。

中路:見ていないんですけど、クワクボさんからリファレンスとして教えていただきました。Casa BRUTUSの記事に、『予測できてもそれを裏切るようなことが好き』と書かれていたのを覚えています。

クワクボ:中路君のこの作品も、映像で見るのと実際の作品を見るのでは解釈が大きく変わってきますよね。例えば、映像で箱に入らなかったピンポン球が床に落ちて転がっているのを見るとて、うまくいってない作品だと思われてしまう。見る人がエラーを許容できなくなっている状況があります。だからこそ逆に美術館でそういうものをあえて見せることが、そういうことを考えさせる入り口になるのはありますよね。

中路:まさにそうです。お客さんの中には、何で落ちるの?と質問される方もいますね。

 

▲ アーティスト・イン・ミュージアム AiM Vol.8 中路景暁 「Roll Role」

 

クワクボ:今後はどのように活動していきたいですか。

中路:今はエンジニアの仕事をしながら、自分の制作をしています。自分の制作や展示などをどんどん行っていくことはちろんなのですがそれに加えて、今後はクワクボさんの猪苗代の展示(企画展「あした と きのう の まんなかで」 2019年4月6日 – 2019年7月7日 はじまりの美術館 )をお手伝いさせていただいたように、他の作家さんのサポートなど、もう少し芸術関係の仕事を増やしていければと考えています。

クワクボ:早速お願いしたいことがあります(笑)。

中路:(笑)。

クワクボ:「Sequences/Consequences」は「Eテレ 2355」1 minute galleryでも放送されましたが、例えば広告の分野とか、こういうジャンルを一つの言語として操って色々なことを表現していけると面白いのではと感じています。

中路:面白そうですね。機会があればぜひ挑戦してみたいです。

取材: 岐阜県美術館

編集・写真:山田智子

PROFILE

GUEST

中路景暁

アーティスト/ハードウェアエンジニア

1987年生まれ
2019年 情報科学芸術大学院大学[IAMAS] メディア表現研究科修了
装置が生み出す表現に焦点を当てた映像、パフォーマンス作品の制作を行う。エンジニアとして勤めた後、情報科学芸術大学院大学[IAMAS]メディア表現研究科に入学、2019年修了。
主な展覧会に「超暴力展」(山下ビル、2019)、「見る、楽しむ、考える スポーツ研究所」(ICC、2019)など。
また、《Sequences/Consequences》(2019)が「Eテレ 2355」1 minute galleryにて放送された。

INTERVIEWER

クワクボリョウタ

IAMAS教授/アーティスト

デジタルとアナログ、人間と機械、情報の送り手と受け手など、さまざまな境界線上で生じる事象をクローズアップする作品によって、「デバイス・アート」とも呼ばれる独自のスタイルを生み出した。2010年発表のインスタレーション「10番目の感傷(点・線・面)」以降は、観る人自身が内面で体験を紡ぎ出すような作品に着手している。アートユニット、パーフェクトロンとしても活動。『デザインあ展』(富山県美術館、日本科学未来館)の展示構成などを手がける。