IAMAS Graduate Interviews

INTERVIEW 020

INTERVIEWER 三輪眞弘 IAMAS学長・教授
#2020#ARTIST IN RESIDENCE#MASAHIRO MIWA#SOUND#SOUND ART#WORKSHOP

GRADUATE

ウエヤマトモコ

音と人・ミミ島 代表

音で人に良い刺激を与えて、音との新しい関係をつくりたい

様々な素材が音となり価値を産む瞬間に着目して、サウンドインスタレーションやワークショップ制作を行うウエヤマトモコさん。サウンドエンジニアとして参加したモノローグ・オペラ『新しい時代』で監督を務めた三輪眞弘教授とともに、IAMASが様々な音楽イベントを行った日本昭和音楽村を訪れました。

多様な分野の教員と学生が高め合う“カオス感”が魅力

三輪:ここ、日本昭和音楽村に来るのは1998年に高嶺(格)くんがプロデュースした「そそりゆく音楽」というイベント以来なので、おそらく22年ぶりだと思います。

ウエヤマ:そんなに来られていなかったんですね。私はその翌年に馬野(訓子)さんがプロデュースした「娘さんは二度ホーンを鳴らす」にも参加して、その時に埋めたタイムカプセルを2013年に発掘する「音楽村ジュネンナーレ2013」を馬野さん達と行いました。その後に「うごめなでる、愛のお叫び♡」という企画をしたので、私は全部で4回来ています。

三輪:懐かしいですね。ウエヤマさんは高嶺くんと同期ですか。

ウエヤマ:高嶺さんは2期生で、私は3期生です。ゼミが同じでした。

三輪:担当の先生はどなたでしたか。

ウエヤマ:赤松(正行)さん、吉田(茂樹)さん、神成(淳司)さん、平野(治朗)さんです。私たちのゼミはみんなやっていることがバラバラで、本当にカオスでした。

三輪:そんな時代でしたね。僕がIAMASで教えるようになった時に、ドイツ人の友人から「君は今、一番素晴らしい時期にいるんだよ」と言われて。最初は意味が分からなかったんですけど、要するにカオスだということを言っていたんですね。

ウエヤマ:私は美術手帖でIAMASの広告を見て、そのカオスな感じを求めてIAMASに入学しました。テクノロジー、音楽、デザイン、映像など幅広い分野の先生がいて、こんなにミックスした学校があるんだと心を動かされました。

三輪:もう少し詳しく聞かせてください。

ウエヤマ:(大阪芸術)大学では舞台芸術学科音響効果コースにいたので、先生は技術系の方が多く、卒業作品はラジオドラマを制作するか、演劇やミュージカルの舞台音響をする(音響プランを立て音声制作し公演の音響オペレートをする)かのほぼ二択しかなかったんです。

三輪:大学時代は、職人的な技を磨いたのですね。

ウエヤマ:周りの友達の多くは職人的な技を磨いてましたが、私は失敗ばかりで上手くできず、サウンドオブジェを作って卒業しました。当時の私は(アーティストの)藤本由紀夫さんにどっぷりハマっていて、サウンドアートがとても好きだったので、専門の授業だけではは物足りずに美術学科の先生の授業に潜ったりしていました。芸術の大学なのだから、もっと色々な分野の先生が自由に交わればいいのにとずっと感じていたんです。

三輪:大学時代は実際に学んでいることと自分の求めるものとの間で引き裂かれていたんだね。
実際にIAMASに入学していかがでしたか。

ウエヤマ:自分ができることとできないことが明確に分かりましたね。

三輪:色々な分野の人がいるから、自分が持っているものと持っていないものがはっきり分かるよね。

ウエヤマ:そうですね。年齢もバラバラで、得意分野がそれぞれにあって、お互いにギブアンドテイクしている感じがありました。分野の違う人から話を聞くのがとても面白かったです。

三輪:そこはIAMASのいいところだよね。

聴覚と視覚、触覚を組み合わせた表現を追求

三輪:卒業制作は「私ちゃん」という音を視覚化する服でした。ウエヤマさんは音響の専門家という印象があったので、僕はすごく驚いて、印象に残っています。なぜあのような作品を作ろうと考えたのですか。

ウエヤマ:今もそうですが、舞台や映画などチームで制作することが多く、一人だけで判断をし制作する機会が少ないんですね。だから卒業制作をするにあたって、自分一人で何ができるだろうと考えました。
サウンドアートの影響があるのかもしれないのですが、例えば音を通して環境が認識できるとか、音から身体がどのような感覚を得ているのかとか、音と視覚的なものを組み合わせて表現したいと思いました。

三輪:「私ちゃん」はPrix Ars Electronica 2000でも展示をして、Interactive art 部門でHonorary Mentionを受賞したんですよね。

▲「私ちゃん」(2000, 2001)

卒業後も制作やワークショップなど幅広く活躍していますが、音と他の感覚を組み合せるという考え方は一貫しているように感じます。今はどのような活動が多いですか。

ウエヤマ:一番多いのは、舞台や映像・映画の音響(録音、音声制作)の仕事です。それから主に小学生や親子を対象にしたワークショップと自分の作品を作ること。軸としてはこの3つになります。ワークショップもそうですが、声を掛けてくださる方がいて、私はそれに導かれているだけのような気がします。

▲ワークショップ「プチプチ,サラサラ,ふわふわ音あそび」(2019)の様子

▲ワークショップ「カセットテープでRec&Play!」(2020)の様子

三輪:そういう意味では、サウンドエンジニアとして参加してもらった僕と前田(真二郎)さんのオペラ「新しい時代」も……。

ウエヤマ:お導きですかね(笑)。

三輪:きっとウエヤマさんは、何かプロジェクトをしようという時に声を掛けたくなる存在なんだと思います。「新しい時代」の初演の時は、既に卒業していたんですよね。

ウエヤマ:2000年なので、ちょうど卒業した年ですね。アルスに行く準備もしなきゃいけなかったので、昼間はIAMASの工房で「私ちゃん」の制作をして、夕方からオペラの稽古をするという生活でした。

三輪:それは大変なご苦労をかけましたね。
音響はウエヤマさんと由雄(正恒)くん、映像は岡本(彰生)くんと新堀(孝明)くん。今考えても、学生ながら強力なメンバーが揃っていたよね。

ウエヤマ:みんな学生なんですけど、学生とは思っていない感じでした。「まだ見ぬ何かを作り出す」という気持ちが共通していたように思います。IAMASの人と何かを作り上げる時は、目指すゴールを言葉にしなくても、必ず共有できるのが不思議なんです。

三輪:そうでなければ、あんな無謀なオペラを学内でできるはずがないよね。
でも社会に出ると、それは決して当たり前なことではないんですよね。

ウエヤマ:そうですね。IAMASには常にフルパワーを出す人たちが集まっているから、そういう感覚を共有できるのは貴重ですよね。

▲モノローグ・オペラ「新しい時代」(2000)の様子

三輪:17年後にもう一度フルパワーを出してもらったわけですね。

ウエヤマ:2017年に「新しい時代」の再演に参加した時には、三輪さん、佐近田さんや前田さんのフルパワー(大人の本気)を再び身近に触れることができて、ものすごく刺激になりました。みなさんのパワーに負けないように、ついていくのに必死でした。
技術的には、パソコンのスペックが当時と相当違っているので、それをどうするか色々と考えました。技術の進歩によって、人間の感覚もアップデートされているので、絵画はそのままでいいんですけど、デジタル作品の場合は難しいものがありますね。

三輪:おっしゃる通りで、「新しい時代」を再演の時も、まずはアップデートするかしないかが最初の考えどころでした。例えばVHSビデオも今見たらボケボケだけど、そういう映像に価値があるのか、価値がないのか。解像度をより高くとひたすら時代が進んできた中で、少し考える時期なのかもしれないですね。

ウエヤマ:次に企画しているワークショップはカセットテープを使うのですが、若い人たちも古い技術に興味があって、デジタルにはないあやふや感に魅力を感じているみたいです。

三輪:機械的に高スペックであることが人間にとってもいいことだと信じて疑ってなかった訳だけど、僕らが何かを感じるのに必ずしも高いスペックの方がいいかといえばそうではないですよね。

ウエヤマ:若い人の方が、そこに対しては感覚が素直なのかもしれないです。

三輪:新鮮に感じるのかもしれないですね。僕が初めてデジタル録音でピアノの曲を聞いた時、最後の和音の伸びが全く揺れないのに驚愕したことがあるんですよ。レコードは必ず少しずつ揺れがあるので、「これはすごい」と当時は驚きましたが、それがそんなに大事なことだったのかというと違うかもしれないですね。

“音のメッカ”で広がる創作の可能性

三輪:今は静岡を拠点に活動をされているんですよね。

ウエヤマ:2019年に浜松市に移って、ちょうど1年経ちました。去年は「サウンドデザインファクトリー in 浜松2019」という音に関するイベントに参加して、そこで浜松で活躍されている作家の方々や、ヤマハ、河合楽器、ローランドの方とも知り合うことができました。

三輪:浜松という町は“音のメッカ”でもあるので、ウエヤマさんにとって色々なご縁がありそうだね。

ウエヤマ:私はそのイベントで、緩衝材に風や振動などを与えて干渉音を作りだして、その音を鑑賞、観照するという作品を展示しました。会場は各作品の様々な電子音で溢れていたのですが、私の作品(緩衝材の微かな音を)を知るには耳を傾けないと聴こえなくて。遠くからだと、私の作品は音を出してないと思われていたみたいです。風力を生み出すために電気は使っていたのですが、緩衝材の音量を増幅するために電気は使わず、緩衝材の量を多くする方法をとりました。絶対に電気的な音の増幅はしたくなかったので。最初は企業の方はポカンとされてました。

三輪:IAMASの卒業生はそうでなくっちゃ(笑)。

ウエヤマ:そう言っていただけて良かったです(笑)。
今(2020年5〜8月)は、「サウンドデザインファクトリー in 浜松2019」の会場でもあった鴨江アートセンターでアーティスト・イン・レジデンスとして活動しているのですが、この施設は人の出入りが自由で、ロビーで高校生が勉強していたり、部屋のドアを開けていたら、「何してるの?」って気軽に入ってきてくれたりして面白いんです。

▲「サウンドデザインファクトリーin浜松2019 」(2019)の様子

三輪:で、「何してるの?」

ウエヤマ:浜松の歴史や昔話を調べながら、浜松に吹いている風の音や街の気配が感じられるような音、人々の記憶と結びついた音を録音して、それらを素材に作品を作りたいと考えています。
アトリエに浜松市の地図が貼ってあって、既に行ったところとこれから行く予定のところに印をつけているんですが、ふらっと入って来た人たちが地図を見て、「ここはディープな場所ですよ」とか「今度こんなイベントがありますよ」とか、おすすめの場所を教えてくださるんです。

三輪:浜松市のサウンドスケープマップができつつあるんだ。

ウエヤマ:ただ単純なサウンドスケープを作りたいとは思っていなくて、録音した音を使って構成して音楽を作った時に、全体として「ああ、浜松だね」って分かってもらえるものになればうれしいです。

三輪:なかなかハードルが高そうだね。

ウエヤマ:そうなんです。しかも今年はイベントがことごとく中止になってしまっていて。浜松まつりではラッパを吹きながら練り歩くんですけど、その音楽がとても独特なんです。他にも手筒花火とか踊念仏など、浜松の印象的な音が録れないので残念です。

三輪:今後はどのような活動をしたいと考えていますか。

ウエヤマ:今やっている音響の仕事に関しては、技術と表現力をもっと高めて、人にいい刺激を与えられたり、人と音との新しい関係や価値を作り出せる録音をしたいなと思っています。

三輪:それはいわゆる“いい録音”とは違うのですか。

ウエヤマ:今は映画の録音を担当しているんですけど、私は音声のレベルを見ているので、話している人の顔を見ずに音だけを聞いていることが多いんです。それでもその人の声色や息づかいを聞いているだけで、話している人がどんな人か、今日は体調が悪そうだとか、そこがどんな空間なのかを理解できる気がするんです。些細で聴き逃してしまうような音に、濃縮した情報が沢山含まれていると思っています。そんな音の瞬間を凝縮して記憶できるような録音ができればと思います。

三輪:他には何かありますか。

ウエヤマ:中学生くらいになると居場所がなくなってしまうことがずっと気になっているので、将来的には、子どもも大人も自由に気軽に立ち寄れる「場所」を作りたいと考えています。

三輪:学校でも家でもない居場所ね。

ウエヤマ:そこで色々な大人や子どもがぼーっとしていたり、何かを作っていたり、真剣に話をしていたり、実験していたりする。そういう場所があるといいなと思っています。

三輪:まさに今いるレジデンスのように、アーティストが何かを一生懸命作っていて、そこに何気なく人が集まってくるというのが理想かもしれないね。ウエヤマさんならできるよ。

ウエヤマ:良くも悪くも、浜松は何をやってもいい雰囲気があるので、その雰囲気に乗って音の制作をしながら、誰もがぷらっと立ち寄れて自然に居られる場所を作りたいと思います。

取材: 日本昭和音楽村

編集・写真:山田智子

PROFILE

GRADUATE

ウエヤマトモコ

音と人・ミミ島 代表

2003年情報科学芸術大学院大学(IAMAS)メディア表現研究科修了
世の中に潜んでいる音と人の関係を探求し、作品制作やワークショップ、音声録音・制作を行う。近年の作品に、『カンショウのすすめ』(2019/Sound Design Factory in Hamamatsu 2019)、『私ちゃん』(2000/Ars Electronica)、音響や録音参加として、三輪眞弘+前田真二郎 モノローグ・オペラ『新しい時代』(2017/愛知・大阪)、ヴァルナー・ペンツェル+茂木綾子監督『幸福は日々の中に』(2016)、池田泰教監督『3 Portraits & June Night(2012)がある。2019年より静岡文化芸術大学デザイン学部非常勤講師

INTERVIEWER

三輪眞弘

IAMAS学長・教授

作曲家。コンピュータを用いたアルゴリズミック・コンポジションと呼ばれる手法で数多くの作品を発表。第10回入野賞1位、第14回ルイジ・ルッソロ国際音楽コンクール1位、第14回芥川作曲賞、2010年度芸術選奨文部科学大臣賞(芸術振興部門)ほか受賞歴多数。2007年、「逆シミュレーション音楽」 がアルス・エレクトロニカのデジタルミュージック部門にてゴールデン・ニカ賞(グランプリ)を受賞。
http://www.iamas.ac.jp/~mmiwa/