今回の話はどうしても作家側、とくに「作り手」としての側面を特権的に扱ったものとなっていたので、それらをいかに「鑑賞」するかという視点が希薄だった。そして8本の作品が途切れなく(クレジットはあったが)上映されることで、観客は「作り手」が複数であることをいったんは忘却して、一本の作品として観ることを課してしまわざるを得ないことになる。もちろんそれはオムニバス映画の「正しい」観方ではないにせよ、人は「不連続の連続」という説話を自分に都合よく接合させたり切断したりするものだ。その意味では、作家の「固有性」(もちろん固有名も)は、この作品群(と当面は名付けておく)において必要であったかどうかも問われなければならない。観客は作家ではなく映像作品を観ているのだから。ただ、そこに途切れつつも連続して現われる「フクシマ」というイメージないし実像をいかにして受容したり拒絶したりするかというところに、「鑑賞の力点」は置かれてしまうのではないだろうか。仮に「フクシマ」的なるものと無縁な内容をもつ作品であっても、少なくとも「2011年」という時期に撮影されたものが悉く「3.11」的なイメージを纏ってしまうことを否定することはむずかしい。そのあたりを、「映像というものは…」と大上段に構えて考えるべきなのか、それとも今回の作品群のみに特徴的な事象として捉えるべきなのかは討究されなければならない。

一方で、今回の作品群にのみ特権的な話題として考えなければならないのは、映像製作のための「指示書」の存在である。この指示書の存在は、目の前あるいはテレビ画面の中の自然の猛威と人間の行為の愚かしさに対して為すすべのない人間の一部に、あるいは何らかの「契機」を与えたかもしれない。明日、とまず発声する。その瞬間に、複数の映像作家には「明日」という未来があることを確信させるかもしれないし、とめどもなく繰り返される日常の反復の先にたまたまそんなことばが貼り付いただけだと考えるかもしれない。そして、行く場所とそこへ行く理由を述べる。明日を生きる人間の行動の自由がここでは圧倒的に展開される(はずだ)。そして撮影。果たして「明日にふさわしい明日」を迎えることができたのか、あるいはそんな映像を撮ることに成功したのかはわからないが、とにかく「現地」での撮影は完了する。そしてすでに「昨日」となった日(かつては明日と呼ばれていた)について話すという不自由さがここで与えられる。「与えられる」という表現は、何か選択肢に悩んでいる人間に対してより超越的な存在がきわめてまっとうで正当で確信的な何かを付与しているというイメージが強いかもしれない。だから、ここでは「一昨日と同じように明日について語ることを禁じ、すでに撮影し終わった昨日について語らなくてはならない」と、少々意地悪な言い方にしてみよう。いずれにせよ、この「指示書」は、作家たちにとって「撮ることの自由」と「語ることの不自由」を同時に指示していることになる。そして、明日の予定が組まれ、撮影され、そして昨日について語られるというシークエンスのなかで、明日=未来は不自由な存在と化し、自由であった日が昨日と呼ばれた瞬間にやはりことばという限定された身ぶりで表現されなければならないことになる。作家たちが持たされるこの(不)自由性を、いったい観客たちはどのように解釈すればいいのか、それについても考察されなければならない。

映像における自由の問題と過去性、それが次回のD-dayでは語るべき事柄となりそうである。それはドキュメンタリー映像における相当に本質的な問題となりうるものであり、かつ3.11的なるものとの「距離」を計測するうえでも重要なエレメントとなっている。映像は「忘却」することの予防ないし禁止であっていいのか、一日でも早く日常へと立ち戻りたい人びとに「あの日のこと」をつねに忘れないでいるような「工夫」は必要なのだろうか…。今回の前田先生のプレゼンを越えて、より深く気になった点であり、これは前田先生も書かれている「記録と創造」の問題につながってくるのではないかと思っている。

(小林昌廣)


小林昌廣(IAMAS教授、医療人類学、身体表現研究、芸術批評)

1959年東京生まれ。植物生化学の研究ののち、大阪大学大学院医学研究科博士課程満期退学。大学院では医療人類学、医学史、医学哲学などを勉強し、中国 を中心にした東南アジア諸国での非西洋近代医学のフィールド調査を行なうと同時に、日本独特の医療文化である「肩こり」「持病」「血の道」などについての 広域的研究を行なう。著書に『病い論の現在形』(青弓社)、『臨床する芸術学』(昭和堂)、『「医の知」の対話』(人文書院)など。京都造形芸術大学芸術 学部芸術表現・アートプロデュース学科教授、同大学舞台芸術研究センター主任研究員を経て、現在、情報科学芸術大学院大学教授 。




(1)時間:

平成24年5月9日 18:30 ~ 20:00(第二週目の水)

(2)場所:

ソフトピアジャパン ドリーム・コア2階(岐阜県大垣市今宿 6 - 52 - 16)

(3)定員:

 各回 10名程度 (申込不要)

(4)参加費:

 無料

(5)問合せ:

 IAMAS 産業文化研究センター[RCIC]

 tel. 0584-75-6606

 fax.0584-75-6637

 http://www.iamas.ac.jp/

  主催: IAMAS 情報科学芸術大学院大学






 

(下記イベントは無事終了しました。)