アルス・エレクトロニカ 未来研究所
http://futurelab.aec.at/

ホルスト・ホルトナー氏が所長をつとめるアルス・エレクトロニカ未来研究所は、アルス・エレクトロニカ・センターの研究・開発施設として1996年に設立された。
約30人の芸術家、技術者および科学者が、広い分野にわたる問題の解決を目指して、学際的なチームを組んで研究を行なっている。アーティスト・イン・レジデンス(客員芸術家)のプログラムもあり、そこではアーティストが自分のアイデアを実現できるように、未来研究所の施設とノウハウが提供される。未来研究所のプロジェクトは、展覧会企画の実現から複雑な研究開発課題にまで及ぶ。芸術、科学、経済それぞれの方向をもつ仕事の境界を越えるためには、動的で柔軟なアプローチが必要であるが、アルス・エレクトロニカ未来研究所の組織はそれを反映するものとなっている。


綱引き

このインスタレーションは、人間-コンピュータ間のインタラクションと、フォース・フィードバック機構の未来にかかわる問題とが、ばったり出会ったところから生まれた。その結果が、コンピュータを使った「Tug of War」つまり綱引きとなったわけである。ふつうの綱引きの場合、綱を引っ張って敵チームに真中の線を踏み越えさせれば勝ちとなる。このインスタレーションでは、敵はコンピュータが作り出すバーチャルな相手であり、敵が引っ張る力も振る舞いも、コンピュータによってシミュレートされる。「綱引き」は、イギリスのグリニッジにあるミレニアム・ドームのプレイゾーンで行なわれた展覧会「ターン・オブ・ザ・ミレニアム」のために、ランド・デザイン・スタジオのピーター・ヒギンズの協力を得て作成されたものである。
デジタル・ビデオ技術を用いて、想像上の場面の中の俳優が、いかにもそれらしい、いろいろな人物を演じ、そのバーチャルな敵がどれくらい強いかが示される。この作品は、コインを入れて遊ぶゲーム機からヒントを得たものであり、その種のゲーム機の長い伝統の中で考えてみるのがふさわしい。こうしたゲーム機は、20世紀初頭に開発された。今でも遊園地やお祭りで、力くらべのゲーム機をよく見かけるが、それらは初期のモデルとほとんど変わっていない。そこでは強さのレベルが、バレリーナからスーパーマンまでといった、いろいろな人間の相手として表現されている。挑戦者はパンチを打ったり、押したり引いたりして、自分が納得できるような強さのレベルまで、機械の目盛り(たいていはダイヤル式で表示される)を上げることを目標とする。
このよく知られたコンセプトを改良し、さらに開発を進めたものが本インスタレーション「綱引き」である。この作品には12人のバーチャルなキャラクターがいるが、各挑戦者はそのうちの3人と勝負することになる。強さのレベルに応じて、さまざまに異なったタイプの敵が現れ、それらのキャラクターは皮肉かつ大げさに性格描写されているので、私たちは他人に対する固定した見方を反省させられる。相手は、そのキャラクターからは予想できないような力を出してくるので、私たちは緊張し、注意を集中するようになる。たとえば建設作業員を負かしたと思ったら、今度は交通婦警さんが出てきて、それがとんでもなく強かったりするのである。
機械仕掛けだった昔の「綱引き」とはちがって、ここでは物事が予想通りには進まず、プレイヤーは次にどの相手が来るか、それがどんな格好でどう振舞うか、まったく分からない。それぞれのレベルが語るストーリーの結末は、プレイヤーが決めるのである。バーチャルな相手は威してきたり、踊りまわったり、勝ち誇ったりするし、負けた時には悔しがったりするのである。つまりインスタレーションとのインタラクションは、ここでは感情的なレベルにまで達するのであるが、それは人間とコンピュータとが相互作用する領域のなかで、しだいに重要な役割を担いつつあるのである。
このように、このゲームの魅力はユーザーが自分の強さを測ることにあるのではない。むしろ、ユーザーはメディアとのインタラクションを通じて、ひとつの物語に参加しその一部となるのだ。



ケイシー・リースティファニー・ホルムズジム・キャンベルカミーユ・アッターバックアーノン・ヤールウォルフガング・ミュンヒ+古川聖ジェイ・リー+ビル・キース 児玉幸子+竹野美奈子ゴーラン・レビン岩田洋夫