岩田洋夫 iwata@kz.tsukuba.ac.jp http://intron.kz.tsukuba.ac.jp 1981年東京大学工学部機械工学科卒業、1983年同大学大学院修士課程修了、1986年同大学大学院工学系研究科修了(工学博士)、現在筑波大学助教授。バーチャル・リアリティの研究に従事しており、とくに力覚フィードバック技術の実現とその情報メディアとしての活用に焦点を絞っている。フォース・ディスプレイと呼ばれる、バーチャルな物体の硬さや重さを表現する機械装置や、ロコモーション・インターフェイスと呼ばれる、VR空間における足の歩行感覚を合成する装置を作ってきた。 それらの成果はシーグラフ94、95、96、97、98、99、2000、2001およびアルス・エレクトロニカ・フェスティバル96、97、99、2001において出展されている。特にアルス・エレクトロニカ・グランプリ96と2001においてはインタラクティブ・アート部門で入賞している。また、1997年には科学技術館で、1999年にはアルス・エレクトロニカ・センターにおいて長期展示の製作を行った。 浮遊する視線 「浮遊する視線」は視覚を身体から引き離す体験をもたらす作品である。参加者には空中で撮影された広視野映像のみが呈示され、自分の周囲の世界を直接見ることはできない。この広視野映像は小型飛行船に取り付けられた特殊なカメラヘッドによって取得され、参加者に対しては装着型のドームスクリーンに投影される。この装着型ドームスクリーンを実現するために“Ensphered Vision”と名づけた新技術を用いた。 Ensphered Visionとは、平面鏡と凸面鏡の組み合わせによって広視野映像を球面スクリーンに投影するための技術である。広視野映像を撮影するカメラヘッドには、凸面鏡を用いて全周囲の風景を写りこませる方式を採用している。この凸面鏡の下にカメラを置くことによって、一台のカメラで全周囲の映像を取り込むことができる。カメラに記録されるのは球形に歪んだ映像であるが、これを球面スクリーンに投影すると自然な映像として見ることができる。小型飛行船に取り付けたカメラヘッドで撮影された映像は、無線で地上に送信され、装着型ドームスクリーンに投影される。 このカメラヘッドは上から下を見下ろす角度で取り付けれている。そのため、参加者は自分が地上にいる姿を上空から見ることができる。この機能は一種の幽体離脱的な体験をもたらす。小型飛行船は糸を引くことによって移動させることが可能であるため、自分の姿と周囲の風景を見ながら歩き回ることができる。しかし、わずかな風が吹いても飛行船の姿勢が乱れるため、空気の微妙な流れを実感することになる。「浮遊する視線」は、このような体験装置を用意することによって、自己の認識と人間と大気の相互作用に新たな可能性を惹起させるものである。 |