ティファニー・ホルムズ
tholme@artic.edu
http://www.artic.edu/~tholme

ティファニー・ホルムズは伝統的な素材と新しいメディアを融合したインタラクティブな大型インスタレーションを制作してきたパイオニアの一人。視覚的な技術に注目し、デジタル技術と文化の関係を探っている。ニューヨークとマドリッドで行われたデジタルサロン'99、スイスのバイパー・メディア・フェスティバル、チューリッヒで行われた神経科学史の国際シンポジウム、シーグラフ'99、スウェーデンのネクスト1.0、デンマークのWorld@rtなどの国内外の様々な会場で展示および講演を行う。
ホルムズの作品「汝自身を知れ」はシーグラフ2000で展示され、ニューヨーク・タイムズ紙にも紹介された。今年11月ロサンゼルスのJ. ポール・ゲティ美術館で新作を展示する予定である。
絵画、アニメーション、生物学などさまざまな分野で学んだホルムズは、彼女の作品を美術や生物医学、身体表現の中の言語的表現などが交わる領域に位置づけている。ホルムズの学際的な芸術活動を支援するため、ミシガン大学の評議会は彼女に名誉ある三年間の奨学金を与えた。ウィリアムズ大学を美術史専攻で卒業した後、メリーランド美術大学院大学の絵画専攻、ボルティモアのメリーランド大学のデジタルアート専攻でそれぞれの修士課程を修了。現在シカゴ美術館のアート・アンド・テクノロジー学部で助教授を務め、エレクトロニック・メディアの歴史と理論、インタラクティビティなどについて教鞭をとっている。


サーフ・アンド・スパイ

カメラ・オブスキュラやパノラマ絵画のような昔の視覚的な発明は本当にすばらしいと思う。私の作品の多くは顕微鏡、拡大鏡、この作品で使用されるスパイカメラ(隠しカメラ)のような光学機器にインスピレーションを受けている。そして、私は、われわれのモノの見方や認識方法を、デジタル・テクノロジーと今日の映像機器が、どのように変えていくのかに興味を持っている。「サーフ・アンド・スパイ」はパノラマとして与えられるまとまりのある視野が断片化された部分のモザイクになっていくインタラクティブなメディア環境である。
「パノラマ」という言葉は限りない眺め、あらゆる方向に続く風景を意味している。壁には、インタラクションが起こらない限り、空と水だけで構成された日本の海岸のパノラマが映っている。そして、波が岸を洗うようなかすかな音が流れている。映像の前にはベンチがある。参加者がベンチに座ると、音声モードが切り替わり、静かな音が近づき波が岸に打ち寄せるような音に変わる。そして、次々と小さな長方形が現れ、ゆっくりと風景の映像を崩していく。長方形が増えることによって、大きなサーフ・アンド・スカイ(波と空)の映像が、小さなサーフ・アンド・スパイ(波とスパイ、すなわち数秒まえに隠しカメラで捉えられた観客の画像)の映像群に差し替えられていく。
参加者がベンチに座り続ける限り、映像はどんどん崩れていく。変形していく映像の中には、隠しカメラで撮った写真に加えて、日本の有名な場所の地図や略図などが現れる。参加者はベンチで、限りない水平線の見える海の風景から、参加者自身というもっとも身近な場所までのバーチャルな旅ができる。いつまでも座っていると、風景はやがてデータの羅列となってしまう。この最後の映像は、いままでの映像をコントロールしていたデータコードである。迷路風の映像データのネットワークは、テクノロジーが、空間の扱い方、見方をいかに変えてきたかを示唆している。


汝自身を知れ

「Nosce Te Ipsum」はラテン語で「汝自身を知れ」という意味である。このインスタレーションは、隠喩的に身体を破壊するような暴力行為へ観客を招きいれる。この作品のインスピレーションとなったのは、おとぎ話「白雪姫と七人の小びと」である。その話のなかで美しさが自慢の王妃は「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰?」と魔法の鏡に毎日たずねる。鏡は「この世で一番美しいのは王妃様です」と毎日答える。その鏡が王妃の美しさを理想としている限り、王妃にとっての世界は幸せですばらしいものだった。しかし恐ろしい日がやってきた。鏡が「一番美しいのは白雪姫という若い美女。王妃様は二番目です」と答えたのだ。信念の化身である鏡の予想外の答えに、王妃の現実は完璧に破壊されたのである。
この王妃や彼女の追随者と同様に、多くの文化は際立った美形を求める。そして、「いちばんきれい」な身体が雑誌の表紙を飾るのである。「汝自身を知れ」は、きわめて異なった特徴を持つ身体について考えさせる。インスタレーション・スペースに入った参加者は、男女両性の姿をした人間の映像を見る。映像の方向に歩くにつれ、文章が床に隙間なく現れる。「剥げ、突き刺せ、切り裂け、切断せよ」。参加者が床の文章を踏むと、人間の映像が破裂し始める。解剖されるように次々と映像のレイヤーが剥がれていき、さまざまな形や大きさの身体がコラージュされて見えてくる。参加者が前に進むにつれ、映像のレイヤーはさらに剥がれて、折れ曲がり重なっているようなイメージが見えてくる。進み続けて映像の前まで到着すると、最後のコラージュ映像の中から参加者自身の顔が現れる。この瞬間、ばらばらになった映像の中に、観察者と観察されている者が融合した姿が見えてくるのだ。参加者がさらに前に進み、または後ろへ戻ると、上記の過程が逆行し、剥がされたレイヤーが元に戻り、融合し、参加者の顔はその映像の中に隠れていく。
他の作品にも同様に言えることだが、このインスタレーションの主な目的は、高度に専門化され、しばしば細分化されている空間のなかにおける身体の知覚と表現のさまざまな方法を一度に寄せあつめようとするところにある。「汝自身を知れ」では、観察者であり演技者であるひとの顔をビデオ・インターフェイスを利用して記録し、しかも「理想的なもの」としてコラージュされた身体の内側に鏡を置く。観客はモンタージュの一部分になり、さまざまな人体の姿から成り立つ映像の中に、自分の姿を見つけたり見失ったりするのだ。



ケイシー・リース ジム・キャンベルカミーユ・アッターバックアーノン・ヤールウォルフガング・ミュンヒ+古川聖ジェイ・リー+ビル・キースアルス・エレクトロニカ・センター未来研究所児玉幸子+竹野美奈子ゴーラン・レビン岩田洋夫