情報科学芸術大学院大学紀要 第13巻
この度、情報科学芸術大学院大学紀要 第13巻を刊行しました。2021年度の紀要は、本学のプロジェクト「Archival Archetyping」主催のシンポジウムを掲載しています。以下は、プロジェクトの研究代表者、小林茂による巻頭言(本文6頁)です。
今回の紀要第13巻には、本学におけるプロジェクトのひとつ「Archival Archetyping」が主催したふたつのシンポジウム、「メディア表現学会(仮称):オンラインにおける表現とプラットフォームを『共集性』から考える」と「〈NFTアート〉の可能性と課題」が収録されることになりました。
Archival Archetypingとは、作者が作品を制作する段階から、創造的行為を新たな創造のために機械学習による学習モデルとして記録、保存することにより、アーカイブ(創造のための編纂手法)とアーキタイプ(原型)を同時に実現しようという考え方です。この考え方を思索し、機械との協働により人の創造的行為をアーカイブすることに挑戦しつつ、単なる道具、奴隷、代替のいずれでもない、「鏡」としての人工知能を探求することを掲げた同名のプロジェクトをクワクボリョウタさん、松井茂さんと共に立ち上げ、2019年から活動してきました(立ち上げの経緯や初年度の活動については本学紀要第11巻pp.51-76を参照してください)。
いっけん、人工知能とアーカイブに関する研究を行うはずのこのプロジェクトと、「共集性」および〈NFTアート〉をテーマとするこれらふたつのシンポジウムは関係がないように見えるかもしれません。それでもこれらは、プロジェクトの参加者が社会の様々な出来事に応答するなかで生まれた企画であり、確実につながっているのです。第1の特集、オンラインにおける表現とプラットフォームは、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行で物理空間における活動が制限され、新たな形態の活動が活発化し、アーカイブという視点で見た時の課題が顕在化する現場からの報告です。第2の特集、〈NFTアート〉には、作品そのものではなく、作品に関わった人々の痕跡を記録する新たな手法としての可能性を見出すことができます。
今年度はArchival Archetypingのプロジェクト最終年度であり、通常であればこれまでの活動を収斂させ、まとめていく段階にあるはずです。しかしながら私たちは、これまでの活動を踏まえつつ、次の活動へと繫げるため、発展的に解散することを目指しています。もし、このプロジェクトの痕跡が読者にとって新たな創造のための基盤となれば、望外の喜びです。
ご希望の方は、申し込みフォームよりご連絡ください。後日「ゆうメール」着払いにてお届けします。
また、IAMASの電子書籍配布サイト「IAMAS BOOKS」では、紀要のPDF版をダウンロードしていただくことができます。
目次
特集1:
メディア表現学会(仮称):オンラインにおける表現とプラットフォームを「共集性」から考える
配信をめぐる表現の現在を問う 松井茂 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
第1部 話題提供
引き裂かれたままで共集性をつくる 岩城京子 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
繋がりと纏まりを生み出す《i.frame》の試み 小林茂 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
オンラインに劇場をつくり出す挑戦 藤木良祐 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
美術制度を解体するオンラインの可能性 伊村靖子 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
配信における没入感の深さを探る 三輪眞弘+前田真二郎 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
第2部 コメント
特殊な身体になるための準備 小御門優一郎 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
批評性の介入によって没入を破壊する 高山明 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
世界の認識を問い直す機会 クワクボリョウタ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
第3部 ディスカッション
これまでとは異なる、新たな現実を表現の場とする
岩城京子、伊村靖子、クワクボリョウタ、小林茂、小御門優一郎、高山明、藤木良祐、前田真二郎、三輪眞弘(司会:松井茂) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
特集2:
〈NFTアート〉の可能性と課題
シンポジウム
〈NFTアート〉の可能性と課題 高尾俊介、加藤明洋、小林茂 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38
インタヴュー
IAMAS Graduate Interviews VOL.24 高尾俊介、前田真二郎 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51
研究ノート:
日本音響デザイナー協会と演奏会シリーズ「音の展覧会」 川崎弘二、森田信一、松井茂 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60
花手水が生みだす新たなコミュニティ ─ アクターネットワーク理論から考察する異種混交的なネットワーク 金山智子、工藤麻里、小林玲衣奈・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68
ピクトリアル・ターンとしてビジュアル・リサーチ・メソッドの可能性 ─ アートベース・リサーチとしての位置づけの検討に向けて 佐々木樹 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・74