IAMAS

活動報告

イベントレポート

平成30年度 情報科学芸術大学院大学 学位記授与式 学長式辞 (2019年3月7日)

まず最初に、本日お忙しい中足をお運びいただいたご来賓の皆様に、心より御礼申し上げます。さて、IAMASを卒業するみなさん、卒業、おめでとう。ぼくからみなさんに伝えたいこととして、今日はふたつの話をします。ひとつ目はいつも言っていることです。それは「失敗が許されている、小さな宇宙」であるIAMASを旅立つということは、あなたの判断や行動はこれからすべてあなたの責任になるというあたりまえのことです。ただし、その責任とは「自分の失敗は自分で始末する」というようなちっぽけなことではなく、このグローバル化してしまった世界では、地球上の遠くにいる、あなたが生涯出会うことのない人々にも、もう、そして、まだ、この世にいない人々に対しても、あなたの行動には責任があるということです。是非そのことは覚えておいてほしいと思います。

ふたつ目は、今年のIAMAS展のテーマについてです。「場違いな場所で」というこの言葉にみなさんの思いが込められていたわけですが、それとは別に、ぼくは「ああ、これはいい。これこそぼくの実感だな」とひとり感じ入っていました。つまり、ぼくは自分がいつも「場違いな場所」にいると感じ続けてきました。もっと言えば、ぼくが高校時代まで過ごした日本、そこがぼくにとってはあまりに「場違いな場所」であることに耐えきれず、ぼくはドイツへ「逃げた」と言ってもいいほどです。
そして歳を重ねた今、ぼくは現代社会において「場違いでは “ない” 場所があると思うことの方がおかしい」と感じています。つまり、世界中で一体どれほどの人たちが「ああ、こここそ、私が暮らし、周りの人々と交わるにふさわしい場所だ」と感じながら生きていけるのでしょう。原発事故で故郷を追われた人たちや、平穏な生活を破壊されて命の危険まで犯して外国に逃げなくてはならない世界規模の「難民」のことを考えてみてください。個人と共同体の幸福な関係が破壊されていく現代において、多くの人たちにとって、自分が「場違いな場所」にいるのかどうかなど、もはや問題ではない。この「わたし」が、わたしの家族が、そこで生き続けられるかどうかが今、この瞬間の問題なのです。
「ディアスポラ」などという言葉を持ち出すまでもなく、世界中の誰もが「場違いな場所で」生きている。それが当然の状態だということです。そして将来、あなたが「場違いな場所」に置かれた時、うまく周りの「空気を読み」ながら「その場の雰囲気」に合わせれば、とりあえずやり過ごせるだろうなどと考えてはいけません。平成時代も終わろうとしている今、そのような発想はあなたのいる集団を破滅に導くだけでなく、それはあなた自身の「魂の自殺」にも等しいことであると肝に銘じてください。

もしかしたら、みなさんにとってIAMASの2年間が人生初めての「場違いな場所」だったのかもしれません。しかし、それは世界の人々から見ればきわめて均質な社会の均質な集団、特にIAMASという実社会から守られた「小さな宇宙」でのことでしかありません。自分のことをまた話しますが、ぼくが学んだドイツの大学には入学式も卒業式もありませんでした。そのような儀式は決して「あって当然」のことではありません。ですから、ぼくが学長としてみなさんの前に立っている「いま、ここ」は、ぼく自身にとってすでに「場違いな場所」なのです。そうであっても、卒業式というものを開き、いつもぼくたちIAMASを応援してくださる方々を来賓として迎え、みなさんの卒業を共に祝っていただく、そのことをぼくはみずから望み、実行しているということです。逆に言えば、みずからの信念に従った判断や自覚のない、つまり、「なぜかわからないけど、みんながそうしているから」なされるような行動は、それが「場違い」では「ない」からこそ、気付かぬうちに集団的な恐ろしい結果をもたらすことさえあることを忘れないでください。たとえば、「いじめ」です。「いじめ」は誰もが小さな集団の「場の空気を読み」ながら生み出されるきわめて構造的な暴力です。それは何の規則にも縛られず、意識化されないがゆえに執拗で留まるところを知りません。

これからみなさんは、ぼくと同じような戸惑いを無数に体験し、その一つ一つに向き合うことになるでしょう。今回のIAMAS展で言語化された大切な「気付き」、すなわち、日々のささいなことから、日本の社会、地球全体にまで広がるこの世界において、自分が「場違いな場所」にいるという感覚をどうか大切にし、そして研ぎ澄ましてください。そのような「違和感」は無意識的な、あなたの内面から送られてくる大切なサイン、「心の声」なのです。そして、その「声」に耳を傾け、それを理解し、そこを出発点として今までになかった未来の可能性を「形にする」・・そのためにこそ、みなさんはIAMASで確かな知識と思考力を身につけ、「みずからの頭で考える」ことを学んだはずだと、ぼくは信じています。

健闘を祈ります。

学長・三輪眞弘

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