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Action Design Research 活動レポート 〜堀江織物株式会社訪問編〜

今年度、Action Design Research Projectではフィールドワークを中心に据え、ケーススタディとして、岐阜県内及び、近隣の中小企業を中心にデジタル・ファブリケーションの活用事例の調査を行っています。その背景として近年、デジタルファブリケーション機器の普及により、個人によるものづくりの可能性が開拓されてきたことが挙げられます。一方で、従来の産業技術との併用可能性やデザイン・プロセスの開示によるデザイン批評としての側面をどのように考え、構築していけるかは課題として残されたままだといえます。これらの課題に取り組むためには、過去10年ほどの技術的変遷の中で、職人仕事やアーティストの活用によって形成されつつあるデジタル・ファブリケーションへの関心や実情を丁寧に掘り下げる必要があるでしょう。
本稿では、各所でのインタビューに基づき、プロジェクトに参加する各自の視点から考察したことを報告します。

7月10日(水)
インタビュイー:安藤英希(藤工芸株式会社 代表取締役)
執筆者:三木悠尚(IAMAS修士一年)

7月31日(水)
インタビュイー:山口美智留(GALLERY CAPTION ディレクター)
執筆者:幅田悠斗(IAMAS修士一年)

8月1日(木)
インタビュイー:堀江賢司(堀江織物株式会社 取締役/株式会社OpenFactory)
執筆者:鈴木健太(IAMAS修士一年)



2019年8月1日、Action Design Researchプロジェクトの一環で、愛知県一宮市にある堀江織物株式会社(以下、堀江織物)に訪問しました。堀江織物は、シルクスクリーン印刷やデジタル印刷によるデジタル染色に加え、自社で縫製・加工・出荷を一貫製造をおこない、のぼりや横断幕などの広告宣伝幕や企業ノベルティグッズの製造をおこなっている会社です。Action Design Researchプロジェクトでは、岐阜県近隣のデジタルファブリケーション機器を活用している企業として堀江織物を訪れ、工場見学とインタビューを通した調査をおこないました。ここでは、マーケティング部部長である堀江賢司さんへのインタビューと今回の調査に対する自身の考察について報告しようと思います。

 

印刷工場とデジタルのあいだ


今回、インタビューをおこなった堀江賢司さんは、堀江織物のマーケティング部部長として主に製造以外全般の業務や、デジタル印刷を中心とした新規事業の立ち上げをされています。具体的には、新規事業の一環として、株式会社OpenFactoryという会社を立ち上げ、HappyPrintersという訪れた人がプロ仕様のインクジェットプリンターを使って自分で印刷できるお店や、HappyFabricというクリエイターが作ったデザインを1mからweb上で買うことのできるサービスをされています。これらのサービスは、既存の企業等の依頼主からの依頼に応じて印刷するという事業と異なり、webサービスやデジタル印刷機を活用することで、個人の利用者の希望に柔軟に対応した製造をするという点で新たな挑戦になります。

その背景には、賢司さんの生い立ちと時代の技術的変遷の交わりがあります。賢司さんは、堀江織物の現会長である堀江克見さんの息子であり、印刷工場の2代目という立場であるという自覚があったと語ります。一方で、情報技術に対して興味があり、インターネット、デジタルファブリケーションの普及やデジタル印刷機の性能の向上に着目していたそうです。そんななか、素人でもある程度の品質の印刷ができるようになった時代において、職人技が情報技術にとって代えられ、製造業はこのままでは衰退するのではないかという問題意識が生じ、新規事業立ち上げをするという選択をしたとのことです。「インターネットが味方なのか敵なのかは製造業自体が決めるしかない」と賢司さんは力強く語ります。

 

職人技術と情報技術の交点


今回のインタビューで、デジタルファブリケーション機器の活用例として、印刷工場のマスカスタマイゼーション事業についてうかがいました。賢司さんの取り組みの中で重要なポイントは、印刷業の側が、ユーザーの購入から手元に届くまでプロセスの中に、様々な情報技術と、工場の持っている職人技術・知識の双方を取り入れたシステムに取り組んでいるという点であると考えます。この取り組みは、既存の印刷業に情報技術を導入するという単純な話ではないようです。インタビューの中で、情報技術分野と印刷業分野の共通言語が少なく、インターネットの影響で製造業が衰退していくのではないかという問題意識が共有できないとの話をされていました。

情報技術が発達することで、様々な分野にそれが溶け出し、混ざり合っていく時代において、この悩みは、印刷業だけの話に留まらないように感じます。特に、デジタルファブリケーションと製造業の関係性を考えると、あらゆる製造プロセスにおける情報技術と職人技術の関係に類推できます。そのような時代の製造において、賢司さんのように異なる業種のインターフェースとなる人の役割や複数の業種の共通言語による対話がそれらの関係を決める可能性があります。

Action Design Researchプロジェクトでは、今後、IAMAS周辺の企業とのワークショップを通して、新しいデザインプロセスの検討をし、デザインリサーチをおこなっていきます。そのような点で、今回のインタビューでは、我々が今後取り組む課題が少し見えてきたような気がしました。

執筆者:鈴木健太(IAMAS修士一年)