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Collaborative Design Research Project 活動レポート 02
飛騨市における広葉樹の活用推進へ向けた取り組み

橋本 正隆(博士前期課程1年)

 Collaborative Design Research Projectでは、デザインの対象が広くなっている現状に対して、デザインの効果やデザインの範囲を考えるために、フィールドワークや共同研究などを通じて、これからのデザインについて研究しています。特に地域企業や自治体などを対象として、現状の調査や、課題に対するプロトタイピングなどを含め、実践しながら検討しています。今回はその一環として、地域の現状をフィールドワークを通して考えるために、2023年6月にプロジェクト活動のひとつとして、飛騨地域へリサーチトリップに行きました。
 2014年から飛騨市は「広葉樹のまちづくり」と題し、広葉樹の活用を推進しています。今回のリサーチトリップでは、広葉樹の伐採から流通、活用までのそれぞれの工程に現場で関わっている方々を訪れ、現状をリサーチしました。木材というと、家や家具に使われており、用途によって適材適所で針葉樹・広葉樹が使用されています。広葉樹は硬くて家具に適している反面、針葉樹のように真っ直ぐではなく、また木の色や太さが一様ではない上に樹種が多く、そのキャラクターの多さが特徴です。太く真っ直ぐで安定的な量が確保できる海外からの木材に比べ、国内の広葉樹は細く曲がった木が多く、安定供給できないことから、大量生産の材料には向かないとされてきました。飛騨地域は、針葉樹よりも広葉樹が多いため、それぞれの特性を熟知し、使う必要があります。しかし広葉樹の多くはチップとして加工され、燃料やパルプなどへの活用がほとんどであり、あまり有効に活用されていない現状があります。そこで、家具や建材などへの活用方法を見い出すことが求められており、そのための飛騨における活動を知るために、今後の可能性についてリサーチしました。


飛騨市における広葉樹の活用 -現状・課題・取り組み-

飛騨市における広葉樹の活用や飛騨市広葉樹活用推進コンソーシアムについて、広葉樹活用コンシェルジュの及川幹氏からお話を伺いました。

- 飛騨の森林や産業の特徴と、その課題について教えてください。

 飛騨市の93.5%は森林が占めており、そのうちの約70%が広葉樹林です。この数字は他の地域と比較しても広葉樹の森林資源が多い地域と言えます。また、森林資源があるだけでなく、高い木工加工技術を持つ家具の生産地としての側面も併せ持っています。しかし、飛騨で採れる広葉樹のうち、家具製品等の原木として活用されているものは数%に留まり、残りの90%以上はチップとして出荷されています。この大きな要因として、この地域で採れる広葉樹の直径が一般的に家具等に用いるには小さすぎるということが挙げられます。そのため、飛騨地域で製作される家具の90%は製造コストが安く済む直径が大きい輸入木材が使用されているというのが現状です。また、チップとして出荷される木材の多くはパルプの原料として製紙工場へ出荷されていますが、最も近い東濃地域の工場へ出荷した場合でも全体のコストの3分の1を輸送費が占めるという問題もあります。このような背景から、飛騨市では、「広葉樹の多くをチップではなく原木として活用したい」、「地元で採れる広葉樹を、その地域で加工し高い付加価値を付けて活用したい」という問題意識があります。

- まずは、木材の一般的な流通過程について教えていただけますか。

 材木の流通過程には、森林で実際に伐採し種類ごとに選り分け販売する素材生産者、原木からカットし乾燥を行う製材事業者、木製品の企画・開発・製造・販売等を行う事業者などが関わっており、それぞれ素材生産者は“川上”、製材事業者は“川中”、製造販売事業者は“川下”と呼ばれています。今まで、それぞれの事業者の中での横の繋がりはあったものの、川上、川中、川下を跨ぐ事業者間の縦の繋がりはありませんでした。

試験稼働中の人工乾燥施設

- その繋がりを生み出すのが、飛騨市広葉樹活用推進コンソーシアムということですね。

 飛騨市と賛同が得られたさまざまな工程の事業者らによって2020年に飛騨市広葉樹活用推進コンソーシアムが組織されました。この組織によって川上から川下までの連携を図り、より多くの広葉樹を原木として地域で活用できるようにさまざまな取組みが進められています。この中で重要な役割を果たしているのが、町の中にある中間土場です。今までは山土場と呼ばれる森林内の材木置き場で選別を行い、原木としての使用が見込まれないものは早々にチップ用材として出荷され、川下の事業者に、それらの原木の存在が知られることがありませんでした。町の中に中間土場を設け、今までよりも多くの樹種やサイズの原木をストックすることで、川下の業者にそれらを知る機会を提供し、今まで使用目的が無いと思われていた木材に新たな利用価値を生み出すことが可能になりました。更に、この場所は、原木を買い付けて選別・販売をする柳木材だけでなく、木材を製材し乾燥させる西野製材所、木製品の新たな企画・開発・製造・販売を手掛ける飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)という川上から川下の関係者が一箇所に集まり輸送コストを最小限に抑えた広葉樹の流通拠点として機能しています。

- 及川さんの広葉樹活用コンシェルジュの活動についてお聞かせください。
 私は、木製品の加工業者やデザイナーに対して、中間土場に存在する広葉樹の活用方法を提案することで、川上と川下を繋げる役割を担っています。加工業者やデザイナーの方は、土場にある原木を見ても、どのようなプロダクトに活かせるか想像しづらいので、相手の作りたいイメージをもとに、適切な樹種やサイズの原木を選び提案を行います。

- 飛騨市広葉樹活用推進コンソーシアムでの活動で手応えを感じていることを聞かせてください。
 広葉樹の用途は家具だけでなく、小物から包丁等の道具の柄など必要とされるサイズや樹種はさまざまです。柳木材では、流通量の多いブナとナラ以外にもクリやホオノキなども扱われています。今まで、サイズが規格外、樹種が珍しい、ロットが揃っていない、ナラ枯れしているものは全てチップになっていましたが、用途に応じてオーダーメイドの対応をすることで、原木として活用することができるようになっています。

- 課題や今後の展望を教えてください。
 現在は、オーダーメイドで切り出した木材を自然乾燥させるため、提供するまでに1年の待ち時間が必要となっています。これについて、岐阜県生活技術研究所と協力し、人工乾燥施設の導入を進めています。これが実現すれば30日から45日の乾燥時間で提供することが可能になります。また、オーダーメイドで対応している材木の傾向を分析し、加工業者の需要を把握することで、今後は安定して出荷が見込める樹種、サイズについては製材した状態でストックを持ち、よりスピーディーに提供できるようにしたいと考えています。

 

飛騨の森でクマは踊るの活動について

飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)の活動について、取締役CMO 井上彩氏にお話を伺いました。

- まず今いる、森の端オフィスについて教えてください。

 ヒダクマは、川下の事業者として広葉樹の新たな活用方法を最新のデジタル技術を用いて提案を行なうことを柱に、さまざまな形で広葉樹活用のアイデアを創出する場を提供しています。その一つの象徴と言えるのが、流通拠点に存在する森の端オフィスです。これは広葉樹を用いて作られた一棟の建物で、大きな特徴として、構造部材も広葉樹を組んで建てられていることが挙げられます。それだけでなく、壁にチップを固めたストランドボードを用いたり、床材にサクラ、トチ、ブナ、クリのフローリング材を用いたり、断熱材にパッキングしたかんなくずを用いるなど、ほぼ建物の全ての部分で広葉樹が用いられています。非常に珍しい建物ですので、雑誌新建築の2022年10月号の表紙を飾っています。

※ここからFabCafe Hida へ移動して、取材を行いました。

- FabCafe Hida について教えてください。

 ここは、誰もが3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタル・ファブリケーションや木工機械を活用できる場として、その運営を手掛けています。カフェ営業や、さまざまなワークショップの開催、広葉樹の端材の販売、宿泊施設の機能など活動は多岐に渡り、国内外のクリエイターを受け入れています。
※実際、我々が訪れた際も、アメリカから建築科の学生達がスタディツアーに訪れていました。

- それ以外の活動についてご紹介いただけますか。

曲がり木センターというデジタル技術を活用した、流通に関する活動も行なっています。一般的には規格外で原木として取り扱うことが難しい“曲がり木”を3Dデータとしてデータベース化し可視化することで、さまざまなクリエイターの需要とのマッチングを行なっています。

- 今後の活動の展望を教えてください。

 ヒダクマでは、現在でもさまざまなクリエイターや大学との連携を通じて飛騨の広葉樹の活用の幅を広げてきましたが、今後も家電、鉄工業、大学などまだ関わったことのない異業種の人たちとの協働の形を模索していきたいと考えています。何より、ただ材料として木を捉えるのではなく、飛騨の森や木そのものに対するリスペクトの気持ちから始まるクリエイティビティを発信していきたいです。

 

おわりに

 お話を伺って印象深かったのは、お二人がそれぞれ立場は違っても飛騨の広葉樹に対するビジョンを具体的に高い熱量を持って共有していることでした。モノとヒトに着目して現状を把握し、関わる人々の繋がり方を工夫することで解決へ導こうとする取り組みは、地方創生という切り口だけでなく、さまざまな組織やシステムに対する問題解決のアプローチとして有効であると感じました。そして、一人一人の飛騨や森林に対する深い愛情がその大きな推進力になっており、仕組みと情熱の両輪が多くの人を巻き込む継続的な取り組みには必要なのだということを実感しました。