Collaborative Design Research Project 活動レポート 04
飛騨市の林業における新しい流通システムが抱える課題
Collaborative Design Research Projectでは、デザインの対象が広くなっている現状に対して、デザインの効果やデザインの範囲を考えるために、フィールドワークや共同研究などを通じて、これからのデザインについて研究しています。特に地域企業や自治体などを対象として、現状の調査や、課題に対するプロトタイピングなどを含め、実践しながら検討しています。今回はその一環として、地域の現状をフィールドワークを通して考えるために、2023年6月にプロジェクト活動のひとつとして、飛騨地域へリサーチトリップに行きました。
2014年から飛騨市は「広葉樹のまちづくり」と題し、広葉樹の活用を推進しています。今回のリサーチトリップでは、広葉樹の伐採から流通、活用までのそれぞれの工程に現場で関わっている方々を訪れ、現状をリサーチしました。木材というと、家や家具に使われており、用途によって適材適所で針葉樹・広葉樹が使用されています。広葉樹は硬くて家具に適している反面、針葉樹のように真っ直ぐではなく、また木の色や太さが一様ではない上に樹種が多く、そのキャラクターの多さが特徴です。太く真っ直ぐで安定的な量が確保できる海外からの木材に比べ、国内の広葉樹は細く曲がった木が多く、安定供給できないことから、大量生産の材料には向かないとされてきました。飛騨地域は、針葉樹よりも広葉樹が多いため、それぞれの特性を熟知し、使う必要があります。しかし広葉樹の多くはチップとして加工され、燃料やパルプなどへの活用がほとんどであり、あまり有効に活用されていない現状があります。そこで、家具や建材などへの活用方法を見い出すことが求められており、そのための飛騨における活動を知るために、今後の可能性についてリサーチしました。
はじめに
2023年6月14日、Collaborative Design Research プロジェクトの活動で、飛騨市へリサーチトリップに出かけました。飛騨市は、2014年から「広葉樹のまちづくり」と題し、広葉樹の活用を推し進めています。今回のリサーチトリップでは、広葉樹の伐採から流通、活用までのそれぞれの工程で関わっている方々に現在の状況を教えて頂きました。実際の生の声をお聞きした上で、以下二つの視点からレポートをしていきます。
- 現場で働く方々が、一体どのような悩みや課題を抱えているのか。
- 広葉樹の価値を向上させるために、どうすれば良いのか。
従来の広葉樹の扱い
私たちの身の回りにある家具の材は、実は多くが針葉樹です。広葉樹は木の色、太さが一様ではなく、さらに樹種が多く(約20万種が存在)、そのキャラクターの多さが特徴です。一方、針葉樹はまっすぐと形の似た育ち方をすることが特徴です。国内の広葉樹は、小径で多種樹少量であることなどから安定供給ができず、大量生産の製品の材には向かないとされてきました。
飛騨市内のとりくみ
飛騨市では、従来チップになっていた広葉樹を、家具材や建築材料として販売するための、中間土場の設置を推進しました。また、株式会社飛騨の森でクマは踊るでは、飛騨市の広葉樹の活用方法を探っています。土場のそばにある「森の端オフィス」をはじめとした広葉樹を利用した建築、さらにレジデンスや大学の共有部に置かれる家具に広葉樹を利用するプロジェクトなど、すでに広葉樹の活用を実践しています。
視点1:現場で働く方々が、一体どのような悩みや課題を抱えているのか。
前記事の通り、広葉樹は建築資材や家具材としてはあまり使用されてきませんでした。そのため、広葉樹を建築や家具資材にするためのノウハウがまだ少ないのが現状です。伐採された材をどのように分類するのか、またどう活用するのか、といったデータの仕分けが現場での課題の一つであると考えられます。
しかしながら土場で働くスタッフの方は、色や形、大きさなどキャラクターが多様な広葉樹の材の中から、顧客がどんな材が好きそうか、欲しいのかを意識せずとも掴み、把握されていました。まさに新しいノウハウが現場で生まれ、現在進行中で育っているのです。この「ノウハウ」は伐採された材がどのような特徴を持ち、その特徴を持つ材を誰に活かしてもらうのか導き出せる、という事です。この「ノウハウ」と伐採された木材のデータを集積・可視化し、共有できれば、売り手も買い手も頭の中に描いている材を探しやすくなるかもしれません。
また、どのようなキャラクターを持つ資材が最終的にどう活用されたのかを追いかけ、データとして蓄積することで、将来似たような材が伐採された際に、以前のデータからお勧めの加工方法や活用事例を導き出すこともできるかもしれません。活用方法を具体的に提示できれば、それだけ広葉樹の活用の幅も広がると考えられます。
視点2:広葉樹の価値を向上させるためにはどうすれば良いのか。
現場の課題も多くありますが、他にも問題があります。それは従来使用されてこなかった広葉樹の価値を向上させるには、どうすれば良いのか?ということです。広葉樹だけではなく日本の国産材の利用率が低水準の中で、広葉樹の活用事例を具体的に示せるようになったとしても、それだけでは広葉樹の価値を直接上げるのは困難なように思われます。
そこで私が注目したいのは、広葉樹は多様なキャラクター(色・大きさ・形)を持つという点です。広葉樹の材は一本一本がそれぞれ異なったデザイン性を持っており、唯一無二なのです。
昨今では、「希少性」を求める気運が高まってきています。家具やファッション・食料品など大量生産に当てはまる製品もある一方で、デジタルの世界をのぞいてみるとVRなどのメタバースな空間では、自身のアバターに思い思いの洋服を着せるNFT(Non-Fungible Token)ファッションといった、希少性を担保されることが重要な製品も多くなってきています。コピーアンドペーストが楽にできるようになった世界で、「人とは違う」という特徴を求める人々が増えてきているのかもしれません。
唯一無二なデザインを持った家具や材が、このような希少性を求める人々と出会えれば、新しい広葉樹ブランドの認知が広がる可能性はないでしょうか。もし、国産広葉樹のブランド価値を本気で作りたいのなら、国内外問わず、このような人々へリーチする事が大切だと感じました。
さいごに
私はサスティナブルや持続可能社会という言葉を、2020年頃からよく聞くようになったと感じています。皆さんもきっと何度も聞いた事がある言葉でしょう。今回のリサーチトリップではまさに、そのワードに当てはまる活動をされる現地の方々にお話をお聞きしました。ですが、一度もそのような言葉が使用されることはなかったように感じます。
実際にすでに活動をしているのなら、そのような言葉は要らないのだと痛感しました。なぜなら、それが当たり前に生活に組み込まれているからです。これは岐阜県大垣市という東京から離れた学校に入学したからこそ、体験できたことだと思います。この体験で得られた感覚が、沢山の方に届いて欲しいと思わずにはいられません。