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研究レポート

それぞれが想い描く福祉を技術で切り拓く-福祉の技術プロジェクト

IAMASの教育の特色でもある「プロジェクト」は、多分野の教員によるチームティーチング、専門的かつ総合的な知識と技術が習得できる独自のカリキュラムとして位置づけられています。インタビューを通じて、プロジェクトにおけるテーマ設定、その背景にある研究領域および文脈に加え、実際に専門の異なる教員や学生間の協働がどのように行われ、そこからどのような成果を期待しているのかを各教員が語ります。

山田晃嗣教授、小林孝浩教授

IAMAS2021オープンハウス 「防災から考えよう」

- プロジェクトのテーマと背景について聞かせてください。

山田晃嗣(以下山田) 2011年に特別支援学校で利用するアプリ開発に関わったことが一つのきっかけとしてあります。その時に、アプリによって子供達が変化・変容を遂げていき、その過程を見るにつれて、こういうプロジェクトが学内にあったらと感じるようになりました。
私は工学部出身なので、工学的な見地で進めていってしまうところがあるのですが、IAMASであれば全然違う分野から、別の視点での提案が出来るのではないかという想いからこのプロジェクトを始めました。
元々は、ICT系のアプリ開発をメインにしたプロジェクトとして考えていたのですが、小林先生からの進言もあって、ローテクなものを含む「技術」という括りで取り組んでいます。
このプロジェクトは、2014年から始まり現在第3期目に入っています。当初は主に障害者福祉を中心に考えていましたが、メンバーでの議論を経て今では福祉を幅広く捉え活動しています。
このプロジェクトが扱う「福祉」は、「◯◯福祉」などのように限定されたものではありません。私達が社会の中で生きていく上で感じる様々な「生きづらさ」を解決していくことを福祉と位置付けているのです。そういった意味では、一般的に想像される「福祉」という用語に縛られずに様々なものを「福祉」の対象として捉えた研究を行ってきているとも言えます。

小林孝浩(以下小林) 私の場合、このプロジェクトが始まる少し前に「温感触図」という、福祉用具に近い研究をしていたことがありました。一般的な触図というのは触覚のみで読み取ることを想定したものですが、そこに温度の分布を加えることで色彩のような豊かな表現を可能に出来るのではないかと考えました。この研究はインターフェイスの研究として行ったものなんですが、一方で実際に使う人達についての調査を十分行わなかったという反省点があり、このプロジェクトに加わる動機にもなっています。

山田 テーマとしては、1期目は主には特別支援学校や福祉支援施設を対象にしたもの、2期目は1期目のテーマに加える形で、「食」に関することや「健康」についても扱いました。3期目では「防災」をテーマにした活動を行っています。ここで挙げたような、大きなテーマはこちらで設定していますが、その中でどのような活動をしていくかはプロジェクトに参加する学生たちの興味・関心に沿って進行するようにしています。

小林 個人的には、避難生活を「福祉」の視点から考え直すということに関心を持っていました。昨今、災害時と日常時を分けることなく同じような備え方で対応する「フェーズフリー」という考え方が出てきています。通常時にも防災時にも必要となる日用品を循環的に備蓄・使用していくローリングストックなどの考え方は、段々と社会に浸透し始めてきています。
そんな中で、避難生活自体を「福祉」の対象として扱うというアイデアが出てきました。

- 学生はどのように関わっているのでしょうか?

山田 基本的には、福祉に対して何かしらの興味を持った学生が参加しています。これまで様々なバックグラウンドを持つ学生が参加してきており、それぞれの興味関心を考慮しながら、ディスカッションを行いプロジェクトを進めています。

小林 基本的には、教員側が設定した厳格なゴールが設定されているのではなく、学生それぞれがプロジェクト内で自分のテーマを見つけて研究を進めるというスタイルを取っています。
これまで参加した学生のバックグラウンドとしては、初期の頃は社会人を経験した後に入学した学生や、元々障害者福祉に強い興味を持った学生が多かったです。近年はアート系の学生も参加するようになり、今では様々なタイプの学生が参加しています。これまでの積み重ねを通じて特別支援学校や施設とのつながりができ、しっかり連携した探求が可能になっていると思います。

山田 特別支援学校の児童を対象とした研究や、特別支援学校の教材・教具に関する研究など、プロジェクトでの活動を修士研究に繋げる学生もいます。修士研究に直接結び付かなかった学生でも、フィールドワークや外部との連携、外部発表やワークショップを通じた経験は貴重なものとなっているはずです。
これまでも、県内の福祉系のイベントでの作品展示などの外部発表も積極的に行っています。最近であればTASCぎふ(岐阜県障がい者芸術文化支援センター)での展示なども行いました。また、2020年から大垣特別支援学校との連携は現在まで続いており、水害や地震などに対する防災教育についての研究を行っています。当初はARを使った防災コンテンツの開発のみに焦点を当てていましたが、現在では小型模型などを使った防災教育についてもその射程に入れたものとなっています。

こどもだいがく2022の様子
防災をテーマとしたダンボール遊び

聞き手:赤羽亨

 
※『IAMAS Interviews 03』のプロジェクトインタビュー2022に掲載された内容を転載しています。