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アートと遊びと子どもをつなぐメディアプログラム
「メディア実験室」

鈴木宣也(情報科学芸術大学院大学[IAMAS] 教授)

2018年9月22日から9月30日まで実施した「メディア実験室」についてレポートします。
「メディア実験室」とは、愛知県児童総合センターが主催し、名古屋芸術大学茂登山清文教授企画・監修のもと、愛知淑徳大学、静岡理工科大学、情報科学芸術大学院大学の3+1大学とセンターとで集い、子どもに向けたメディアを利用した遊びに関する実験的な取り組みです。

年度当初から話し合いを持ち、メディアを利用した単なる遊びを作るのではなく、五感を駆使した身体で感じることのできる遊びを通じて、子どもたちの中に何かを残すような取り組みを目指しています。ここで言うメディアとは主にコンピュータが内在した装置を用いることをさしています。ゲームなどのような、何かをクリアしたりすることを目指すのではなく、自分から何かに気付いたり、自分から何かを生み出したり、いっしょに協調したりするような、遊びが本来持っている能動的な仕組みを持たせること、また、子どもたちがそれらと接した時に、それをどのように感じ、考え、何を残しするのか、それに対して我々はテクノロジーにどのような工夫を施す必要があるのかを、考える取り組みです。

愛知県児童総合センターは、愛知万博の会場であったモリコロパーク内にある施設として、IAMASの開学と同じ年に開館し、後に万博の会場となり休館し、万博終了後に再開した施設です。滑り台やブランコのような遊具はなく、波打つ床や、迷路のような階段、曲がりくねった通路、斜めの塔など、変わった空間が用意され、子どもたちがその空間を使って遊んでしまう仕掛けになっています。また粘土を使ったワークショップや宝探しなどイベントなども用意され、五感を使って楽しむことのできる施設です。



これまで公募展「汗かくメディア」を実施し、本学からもたくさんの作品を展示してきました。「汗かくメディア」とは子どもたちがメディアを通して、新鮮な視点で世界に主体的にかかわり、新しいコミュニケーションや表現を可能にする遊びのプログラムを全国公募する企画です。これまでの10年を区切りとし、本年から新たにこの「メディア実験室」という形へ変化したものです。学ぶのとは逆方向の志向として「unlearn」という言葉があります。既成の知識を得るのではなく、そこから離れてみることを意味します。既成の使い方を学ぶのではなく、まだまだ得体のしれないメディアなるものを実験してみようというお部屋です。ここでは2020年度から必修化される小学校でのプログラミング教育とはちょっとちがう、もうひとつのプログラム的思考を見つける場でもあります。

今回一緒に連携した大学として、愛知淑徳大学の村上泰介准教授(IAMAS卒業生)属する「感覚変容工房トーランス」による「Ear ball for empathy」と「beAT」の2作品と、静岡理工科大学の定國伸吾准教授による「もじ・モジ・じっけんしつ」が展示されました。
「Ear ball for empathy」はいつもとちがう感覚で感じる世界を体験する装置としてダミーヘッドマイクをリアルタイムに体験する体験プログラムです。「beAT」は表現のための新しい器官を身に付ける試みで、心臓のドキドキを肩の造形で表現する装置です。「もじ・モジ・じっけんしつ」は子ども自身が造形した文字を既存の文章の文字と入れ替えるシステムです。


IAMASでは「あしたをプロトタイピングするプロジェクト」の1年生3人(五十川泰規、大野正俊、鈴木毬甫)が遊びをプロトタイプし、子どもたちへ体験してもらうことを試みました。プロジェクトは6月中旬から始まるため、リサーチやアイデアスケッチなどを駆使しながら、およそ3ヶ月間の短期間にアイデアを出しから、プロトタイプ制作までをこなしました。複数のアイデアから要素を抽出し、ラフなプロトタイプを作ることからはじめ、最終的に二つのプロトタイプへ絞りました。特に学生がこだわったことは、「気づき」と「身体性」のふたつのキーワードでした。訪れる子どもは3歳から8歳程度の児童が多く、道具を渡して使い方を教えるのではなく、まずそれが何であり、どのように動作するのかからはじまり、徐々に自分の身体をどう動かすのか考えることへつながり、それが自己表現へと形を作ることとなり、更には他者とのつながりへ発展させるということへ向かえばと考え制作していきました。





まずひとつめのプロトタイプは「うごフロア!」です。
人と人とを線で結ぶ床プロジェクションによる装置です。上からのプロジェクションにより、床面に人と人を線で結ぶ仕組みになっています。まず子どもたちが会場に入ると、自分自身の足元に色のついた円があらわれます。子どもが歩くとその円が自分についてくることがわかります。子どもは自分の足元に円がついてくることから逃げようとしたり、別の色の円に乗り換えようとしたりします。そのうち、他の子どもの円と自分の円の間に線が結ばれていることに気づきます。線の結び方は、距離や密度によって変わり、子どもの位置に応じて動的に変化します。一度に20人程の人が同時に体験できます。子どもだけではなく、大人も含め体験することができ、歩いたり、走ったり、踊ったりしながら楽しみました。1時間以上も遊び続ける子どもも多数おり、遊び続ける中で、遊び方も変化していくだけではなく、人と人との関係から、線をどのようにつなげていくかを考える様子も見れました。二人、あるいは三人で同時に線を引いたり、動かしたりして遊ぶ協調行為も自然と発生しました。





ふたつめのプロトタイプは「うごリング!」です。
手や足などにつけて遊ぶ音の鳴る装置です。手につけた場合、手の上げ下げや、捻り方によって角度を変えると音色が変わります。鳴らない角度もあり、手をどのように動かすと音がなるのか、あるいは演奏することができるのかを探しながら遊びます。そうして遊ぶ様は、他の人から見るとまるで現代舞踏のようなパフォーマンスをする格好となり、体験する子どもも、その子どもを見る周りの子どもや大人も楽しむことができます。
実際にバレエダンサーの手足に「うごリング」を着けて踊って音を奏でてもらいました。会場の子どもも大人もそのダンスと音色に、初めはびっくりしていたものの、だんだん引き寄せられていく子どももおり、不思議な経験を提供することになりました。実際に子どもたちは、つけるのを嫌がる子もいましが、つけるところを工夫し出したり、寝転んだり、逆立ちしたりする子も現れ、遊び方を工夫しながら編み出していました。

台風の影響で1日短い展示となりましたが、4日間で延べ4,700人ほどの人に体験してもらいました。子どもたちの反応を直接観ることができ、学生にとってもとても貴重な経験となりました。