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学生インタビュー:雨宮 由夏さん(博士前期課程2年)

メディア表現学が網羅する領域は、芸術、デザイン、哲学、理工学、社会学など多岐にわたります。各自の専門領域の知識を生かしながら他分野への横断的な探究を進めるうえで、学生たちが選ぶ方法はさまざまです。入学前の活動やIAMASに進学を決意した動機をはじめ、入学後、どのような関心を持ってプロジェクトでの協働に取り組み、学内外での活動をどのように展開し、研究を深めていったのかを本学の学生が語ります。

雨宮 由夏さん

し続ける、

- IAMAS入学以前の活動と進学の動機について聞かせてください。

多摩美術大学を卒業した後は、仕事をしながら制作を続けてきました。学部ではデザインを学んでいましたが、描くことは続けていました。卒業後は主にドローイングを中心とした制作を行い、現代美術の領域で発表を重ねてきました。近年は人やもの、場所の関係を重視した制作を展開しています。自分の制作について改めて考えるきっかけになったのは、コロナ禍の時期でした。制作に向き合う時間が増え、コロナが落ち着き始めた頃にアーティスト・イン・レジデンスに参加する機会をいただいたことが、自分の中にあった制作への違和感や問いを見つめ直すきっかけになりました。いま振り返ると、この時期の経験が、現在行っている実践へとつながる出発点だったように思います。
そうした中で、自分の中にあった制作へのもやもやを改めて探究してみたいと考えるようになりました。IAMASのことはそれまで知らなかったのですが、初めて存在を知ったとき、「こんな風変わりな大学があるのか」と強く印象に残りました。具体的な実態はまだよくわかりませんでしたが、それぞれが異なる領域で活動しながらも何かが交差しているような雰囲気に惹かれ、ここでなら自由に制作や研究に向き合えるのではないかと思い、行ってみようを決めました。また、当時ちょうど器への関心が深まっていた時期でもあり、岐阜県に多くの器の産地があることも大きな魅力でした。

- 在学中の研究、生活について教えてください。学外発表についても紹介してください。

在学中、岐阜市に2007年に開館した久松真一記念館と継続的に関わりながら制作を行ってきました。久松真一は岐阜県出身で、禅に深く関わった哲学者です。現在、甥孫である館長が記念館を運営しています。私は館長と対話をしながら、記念館に内包されている記憶との関係のあり方をどのように作品として捉え直すことができるのかを探ってきました。修士作品《喫茶 ポストモダニストコーヒー》は、その実践です。制作にあたっては、主に館長との対話を重ねてきました。私はもともと特段、外交的というわけでもなく、コミュニケーションが得意とは言えない部分もあります。そのため、ご迷惑をおかけしてしまったこともあったと思います。それでも、時にすれ違いながらも、対話を続けるなかで、人と向き合うことの大切さや難しさ、そして制作における向き合い方について多くを学びました。また、館長をはじめ、記念館をきっかけに出会った方々とも共作させていただいたこともあり、作品は決して一人では成立し得なかったと感じています。関わるプロセスそのものが、私にとって重要な経験となりました。
在学中は、記念館をはじめ、気になった場所があれば積極的に足を運んでいて、関西方面も日帰りで行ける距離だったので、展示を見たり、調査に気軽に出かけていました。そのため、授業以外の時間を学内で過ごすことはあまり多くなかったかもしれません。外での経験を通して得たインプットと、自身の制作としてのアウトプットを繰り返す日々だったように思います。久松真一記念館でも展示を行いました。有形文化財である建物で作品を発表するという経験は、ホワイトキューブのような空間で展示する場合とは大きく異なっていました。建物に釘が打てないなど制約があるため、設営の方法や展示の仕方にも工夫が必要でした。そのため、作品そのものについて考えることと同時に、「どのような場所で、どのように見せるのか」という点まで含めて検討することの重要性を実感しました。作品を単体として考えるのではなく、最終的にどのような環境で提示されるのかまで含めて構想することの大切さに気づかせてくれた、とても良い機会になりました。それ以降より意識的に考えるようになっています。

《喫茶 ポストモダニストコーヒー》

- IAMASで過ごした時間はどのようなものでしたか?

IAMASで過ごした時間は、私にとって「し続ける」ことをやめなかった時間だったと感じています。制作がうまくいかないこともありましたし、人との関係が思うようにいかないこともありました。それでも、制作をやめることはしませんでしたし、人と関わることも、時には恐れながらも続けてきました。正直に言えば、心が折れそうになったことも何度かあります。それでも続けたこと、その一点が自分の中ではいちばん大きな意味を持っています。続けたからこそ見えてきたことや、後になって気づくことがたくさんありました。1年生のとき、IAMAS図書館で行われた展覧会《フリースタイルの継承 久松真⼀図書資料展》に制作で参加しました。その際に作品を見てくださった方が、今回の修了制作展で私の作品をご覧になり、「あのときの人ですよね。あのときは“なんだかいい感じ”と思ったけれど、今回はそれがこういうことだったのかとわかりました」と声をかけてくださいました。その言葉を聞いたとき、自分が続けてきた時間を実感しました。時間をかけて制作を続けることで、作品だけでなく、作品を見る人との関係も変わっていくのだなと感じました。その瞬間に立ち会えたことは、とても印象に残りました。
IAMASでの時間は、し続けるなかで出会う変化を受け入れ、制作面でも人間としても自分自身が少しずつかたちを変えていった時間だったと思います。

- 修了後の進路や、今後の計画を教えてください。

今後については、まず自分が継続して制作できる環境を整えたいと考えています。これまでの制作や研究を通して見えてきたことを大事にしたいなと思っているので、それらをつなげていけるような活動へと発展させていきたいと思っています。具体的なかたちはまだ模索中ではありますが、焦って形にするのではなく、自分にとって意味のあるかたちで「し続け」そして重ねていくことを大切にしたいと思っています。

インタビュー収録:2026年2月
聞き手:前田真二郎
※『IAMAS Interviews 06』の学生インタビュー2025に掲載された内容を転載しています。