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学生インタビュー:大越円香さん(博士前期課程2年)

メディア表現学が網羅する領域は、芸術、デザイン、哲学、理工学、社会学など多岐にわたります。各自の専門領域の知識を生かしながら他分野への横断的な探究を進めるうえで、学生たちが選ぶ方法はさまざまです。入学前の活動や IAMAS に進学を決意した動機をはじめ、入学後、どのような関心を持ってプロジェクトでの協働に取り組み、学内外での活動をどのように展開し、研究を深めていったのかを本学の学生が語ります。

大越円香さん

「場違いな場所で」「失敗することの勇気」

- IAMAS入学以前の活動と進学の動機について聞かせてください。

IAMASに入学する前は、秋田公立美術大学ビジュアルアーツ専攻(以下、秋美)で現代美術を学びました。秋美に入学する前は普通科高校の理系コースだったのですが、生物学の大学を受験したいと考えながら、一方でデッサンの練習も続けていました。最終的に占いで美大の方がいいと言われたので、美大に進学することを決め、入学後は現代美術を専攻しました。私は秋美の4期生として入学しましたが、当時できたばかりの秋美にはIAMASを卒業した先生方や助手さんがたくさんいました。IAMAS 卒の助手さんにArduinoやProcessing、TouchDesigner、電子工作の基礎を教えてもらいながらIAMASの話を聞き、興味を持ちました。
最終的にIAMASの受験を決めたのは、光や動的なものから作られる刺激的な視覚体験より、絵画や写真で強いイメージを作ることを目標にして、メディアを批判的な視点から思考できるようになりたかったからです。また、学費や研究費等の金銭面から、国公立限定で考えていたのもあります。制作しながら夜勤のアルバイトをし、なんとか学費などを貯めました。学費は稼げましたが、確実に命は削れました。

- 在学中、学内で研究を進めるだけでなく、外部での発表も積極的だった印象があります。主な発表について紹介してください。また、外からの視点も踏まえて、IAMASはどのような場所だと考えますか?

在学中の2年間は、主に京都、仙台、秋田で個展やグループ展で発表していました。秋田の個展は、秋美同期のキュレーターと一緒に展示構成に取り組みましたが、自分とは違う視点で作品を見てくれるキュレーターとの共同作業はとても為になりました。
主なグループ展としては、西武渋谷店の美術画廊で年1回グループ展に参加させていただきました。画廊では主にファインアートの作家が展示するので、多くの作家は美大や芸大を卒業した方々です。展示中はよく「どこの美大ですか?」と聞かれます。IAMASと答えると「IAMASって何?」という反応が返ってくるのがほとんどです。
その反応に、良い意味で自分が外した道の位置に気付かされます。私は過去の卒展「IAMAS 2019」のテーマが「場違いの場所で」だったことが強く印象に残っています。IAMAS入学前の卒展ですが、そのテーマが学生の2年間の結果として現れたものだと考えると、それはすごいことだと感じました。「場違いな場所」に身を置くことでしか見えない自分の創造の軸がきっとあるのではないかと思います。さらに今回の卒展のテーマは同期たちと「失敗することの勇気」と決めました。テーマを決めるというのは非常に悩む上、体力を使う作業ですが、実感をテーマにすることは大切な行為です。IAMASの2年間は忙しく、短いです。だからこそ、失敗を重ね、探究することをやめない姿勢を持ち続けることが大事でした。個人的な感想ですが、「場違いな場所で」「失敗することの勇気」は私の中で接続しています。

大越円香個展「フラクタル⇔フラクチャー」 撮影:越後谷洋徳

- 作品によっては、プログラマの学生に協力してもらうことや、共同作業もあったかと思います。IAMASの制作環境はどうでしたか?

同期には工学、デザイン、音楽、パフォーマンス、社会学など、様々な分野の人たちがいました。中には「自分の専門って何だ?」という人もいます。その不確定さが良いと思っています。学生の語りきれない専門性があるから、新しい領域への可能性を感じられました。
私は在学中、エンジニア系の学生にたくさん手伝ってもらいました。私の表現したいことに対し、「この方が芸術作品を制作するのには適している」「この技術を使えば設営がしやすい」など、表現の為になる技術や手法を教えてくれるので、いつも頼りにしていました。また、その共同作業によって次作の表現の幅が広がっていくこともあります。IAMASで築けた関係は、作家として財産だと感じます。
20~50代の学生がいますが、何歳離れていても友人のような関係で交流できるのは、IAMASの良い部分だと思います。

- 修了後の進路や、作家活動の今後の計画を教えてください。

IAMASを修了できたら作品制作はやめるつもりでいましたが、色々あり、もう少し続けることにしました。卒業後は、東京藝術大学芸術情報センターで教育研究助手として勤めます。修了研究で生まれた展望を、引き続き研究していきたいと思います。まだ自分が修了できた実感がないのですが、修了できたことに自信を持てるようにしていきたいと思います。IAMASを修了した偉大な先輩方のように「場違いな場所で」「失敗することの勇気」を持って、思考し続けていくことを、忘れないようにしたいです。

 

インタビュー収録:2023年3月2日
聞き手:前田真二郎

 
※『IAMAS Interviews 03』の学生インタビュー2022に掲載された内容を転載しています。