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教員インタビュー:赤羽亨教授(後編)


前編からの続きとなります。

パラメトリックデザインを実現できるであろうメンバーを集めたLAP

- 先ほど(前編で)話題に上ったLAPは、IAMASの卒業生たちで構成されたデザインコレクティブだそうですね。どういった経緯で結成したのでしょうか。

デザインコレクティブ「LAP」を結成したのは2017年です。メンバーは、プロダクトのUI / UXを中心にデザイナーとして活動している金原佑樹くんと、建築設計事務所で空間設計や什器設計・制作している冨田太基くん、グラフィックデザイナーの大山千尋さん、僕の4人です。「実践的なパラメトリックデザインのプロジェクトをやりたい」と思ったのがすべての起点になっているんですが、このメンバーが集まれば何かできるかもしれないという直感みたいなものがありました。僕以外のメンバー3人はIAMASの修了生ですが、それぞれ在学していた時期は異なります。
今から振り返れば、金原くんの修士研究は図面を自動生成するパラメトリックな設計についてであり、また、冨田くんは使う人によって組み換えられるユニット家具に関する研究を行っていましたので、彼らの修士研究の内容をかけ合わせることを下敷きにして、実践的なパラメトリックデザインのプロジェクトを行うのは必然的な成り行きだったと思います。一方、大山さんは考現学をベースにしながら、グラフィック表現の研究をしていました。現状LAPの行っているプロジェクトにおいて、大山さんは展示デザインやドキュメンテーションのデザインなど、一見して裏方的ではあるけれど、とても重要なパートを担っています。僕はそんな彼らをまとめながら、プロジェクト全体を統括する役割りを担当してます。
当初から明確なゴールを見据えて集まったメンバーではないのですが、結果的には各メンバーのスキルをかけ合わせた実践的なデザインプロジェクトができているんじゃないかと思います。

LAP Webサイト:https://laplab.jp/

- それは、赤羽先生からつくりたいものをみなさんに提案したのでしょうか?

具体的には「パラメトリックデザインの家具をつくるプロジェクトやろうと思うんだけど、アイデアスケッチから一緒にやらない?」という声がけから始まりました。僕からテーマとか進みたい大きな方向性とかは提案しますが、そこを起点にして、実際に何をつくるかはメンバーとのディスカッションを通して決めています。

そうして完成したのが、パラメトリックデザインの手法とデジタルファブリケーション機器によって、スツールをデザイン・制作するシステム「One-size-fits-one」です。フリーサイズを意味する「One-size-fits-all」をもじって、一つ一つの用途にはそれぞれに対応したサイズのものがあるべきだ、という意味を込めて命名しました。
LAPの活動は現在も続いています。今後はパラメトリックデザインとXR ※1を組み合わせたプロジェクトに取り組みたいと考えています。

One-size-fits-one

メディアアートのアーカイブ研究から始まったArtDKT

- 赤羽先生がチームビルダーとなって美術作家や映像作家たちと活動している「ArtDKT」も同じようにスタートしたのでしょうか?

ArtDKTは、「3Dスキャニング技術を用いたインタラクティブアートの時空間アーカイブ」という研究を一緒に行っていたメンバーと始めたグループです。「作品制作とは違ったアプローチで新しい活動をしよう」ということで4人で始めましたが、現在はそれ以外のメンバーも加わっています。

ArtDKT Webサイト:https://artdkt.asia/

- インタラクティブアートのアーカイブですか?

はい。すでに遺跡や建築物の3Dスキャンによるアーカイブは進んでいて、VR体験できるものも多いけれど、そこに人によるインタラクションも含めて記録するとなると難しい。体験を伴うことを前提としたメディアアート作品の記録を残すためには、新しい試みをしないとアーカイブを残すことはできないのではないだろうか?と思い立ち、研究をはじめました。

それと、これは教員としての悩みでもあるんですが…学生の中で「車輪の再発明」が起こることがあります。例えば、学生のプレゼンテーションを聞いたら、すでに発表されている過去作品と類似しているとか。本人にとっては新しい表現であっても、実際にはすでに誰かが似たような試みをしているということが結構よくあるんです。ただの知識不足、リサーチ不足と責めることもできますが、落ち着いて考えてみると自分が体験したことのない表現を知識として獲得するのは容易でないことに気づきました。また、「昔、すでにやっていた人がいるんだよ…」と話しても、過去作品との類似性をわかりやすい形で学生に提示できない状況があるんです。小説であれば、本を開いて見せればいいけれど、20年前のCD-ROMを再生する環境はないわけです。たとえ記録したビデオがあったとしても、体験を伴うことを前提とした作品では、その核心的な部分をビデオを鑑賞することによって理解できるのか?という疑問が残ります。

つまり、過去作品の記録を残せていないことにも大きな問題があって、どうやって作品の記録を残していくのか、またそれをどのように伝えていくのかを考える必要があると思ったんです。残念ながら、依然としてこの問題は残っている状態です。メディア表現を扱うIAMASとしては、引き続き取り組んでいくべき課題だと感じています。

「時空間 3Dスキャニングシステムによる三輪眞弘《みんなが好きな給食のおまんじゅう》ひとりの傍観者と 人の当番のために-の記録」 展示映像
(左:リアルタイムに生成された3DCG、右:固定カメラで撮影したムービー映像)

世代・分野を超えてglowから生まれる協働

- アート&デザインコレクティブの「glow」はどういった経緯で結成されたのでしょうか?

僕がIAMASの教員になって19年経ちました。その間に送り出した学生たちがさまざまな分野で活躍していてるのはうれしいことです。ただ、一方で「年代や分野を超えたメンバーで、何かやったら新たな可能性を試せるのでは?」と思うことも多々あります。OB / OGのコミュニティで知り合ったり、仕事や展覧会で会ったりして、お互いの活動を知っていることも多いのですが、実際に対等な関係で一緒に何かをやるという機会はそれほど多くはありません。彼らの活動を有機的につなげていくことができれば、これまでにないコミュニティが形成できるだろうし、なにより絶対良いものがつくれると思ったのが、glowを立ち上げたきっかけです。

- メンバーはどういう方がいるのでしょうか?

メンバーの大半は大学教員とフリーランスで活動しているデザイナーです。LAPやArtDKTのメンバーも名前を連ねていますし、glowのほかにも外部のアーティストグループに参加している人もいます。
いろいろなバックグラウンドを持ったメンバーからなるコレクティブですが、主眼に置いているのは、制作者の視点からアートやデザインなどの創造・表現活動に関わっていくということです。僕たちは、各メンバーの多様性を尊重しながらも、それぞれの専門性を有機的につなぐことによって、質の高い表現を具現化していくことを目指しています。glowとして作品をつくることや、ビジネスをすることは、とくに考えてはいなくて、これまで個々で行ってきたさまざまな活動の中に、メンバー間の有機的なつながりを取り入れることで、制作者のコミュニティとしてのコレクティブを生み出そうとしています。
ただ本格的な活動に入る前に、新型コロナウイルス感染症の問題が顕在化してきてしまい、まだ一度もメンバー全員で顔を合わせたことがないんですよ。必要に応じてオンラインミーティングをして乗り切っていますが、今後はどのようにコレクティブ内でコミュニケーションをとるかを真剣に考えていかなくてはならないと思っています。

glow Webサイト:https://glow-collective.org

- ArtDKT、LAP、glowと、なぜ赤羽先生はこういった活動をしているのでしょうか? 立ち上げた当初からゴールを想定しているのでしょうか?

繰り返しになるのですが、まず第一に制作者の立場から表現を考えていきたいというのがあります。その上で、制作者がどのように協働していけるか。その方法を実践を通して考えていきたいというのが、これらの活動を行っている個人的な動機です。
良いメンバーが集まれば、必ず良いアウトプットが生まれるということはないですよね。複数の制作者の協働を成立させるためには、「チームビルディング」、「ディレクション」、「プロジェクトマネージメント」などが必要不可欠になります。どれも元来はアーティストやデザイナーの職能とは切り分けて考えられてきたものですが、これらを自分たちの活動の質を上げるために重要な職能と位置づけ、コレクティブの活動に内在化させていきたいと僕たちは考えています。ただ、それを実現するための具体的な方法論を、すでに持っているわけではないんですよね。その点は実際の活動を行いながら試行錯誤し、ブラッシュアップしていきたいと考えています。
その点は「Action Design Research Project」と同じ方法論を取っていると言えますね。理論から実践に移すというよりは、実践的な活動の中にゴールを見出そうとしていると言えるのではないでしょうか。実際のデザイン、展示、作品制作、研究活動を通して、glow独自の方法論が確立できれば良いと思っています。

それから、「どうやってglowのメンバーを集めるのか?」と聞かれることがあるんですが、大体僕から連絡してますね…「突然の連絡でびっくりしました」と驚かれることも多いです(笑)。学生時代の接点あるなし関係なく、思いついたら僕からコンタクトを取ってディスカッションして、話がまとまれば一緒に何かをやるという感じです。
glowのメンバーになる、ならないは関係なく、今後も思いついたら「一緒に何かやろう」と突然連絡するのは続けると思います(笑)。


赤羽亨 / 教授

インタラクションデザインに焦点をあてて、メディアテクノロジーを使った表現についての研究を行っている。また、メディア表現を扱ったワークショップ開発や、その内容を共有するためのアーカイブ手法の研究にも取り組んでいる。主な活動に、「Pina」(Ag Ltd.)、「メディア芸術表現基礎ワークショップ」(文化庁メディア芸術人材育成支援事業)「3D スキャニング技術を用いたインタラクティブアートの時空間アーカイブ」(科研費 挑戦的萌芽研究)がある。


※1 XR
「VR(仮想現実)」、「AR(拡張現実)」、「MR(複合現実)」を含む総称。

 

インタビュアー・編集:森岡まこぱ
撮影:山田聡