EN
Follow us
twitter facebook
資料請求

教員インタビュー:赤羽亨教授(前編)

デジタルファブリケーションはデザインプロセスを変える

- 赤羽亨先生が担当しているプロジェクト「Action Design Research Project」について教えてください。

2010年頃から3Dプリンターやレーザーカッターをはじめとするデジタルファブリケーション機器が一般に浸透しました。
当時を振り返ると、「工業用の専用機器がパーソナル向け機器に置き換わったら社会にどんな変化を与えるか? 」と、みんなで夢を描いていましたし、みんながそんな未来を見据えた表現とそれを支える技術について考えていました。
どちらもベースとなる技術は一緒だけど、プロと個人では機器の使い方が違います。本来ならその差を埋めたり、掛け合わせる余地もあるんだけど、交わらないままにムーブメントは一段落してしまいました。

そこで、新しいプロジェクトを始めるにあたって、僕らはデジタルファブリケーション機器を取り⼊れている中⼩企業や⼯場を訪れて、それらの機器がどのように使われているかを調査することから始めました。この調査を経た後に、それぞれの環境で、同じデータで加工したものを組み上げ、それらをお互い比較し合うことを通して、知識や経験を共有したんですよね。
このように実状を考察しながら、属性の異なる人たちと試行錯誤を繰り返してデジタルファブリケーションの新たな可能性を見つけていく。この方法で研究を進めていくことが、このプロジェクトの大きな特徴です。

このプロジェクトでは、一緒に何かをする/つくることを通じて、二段階のプロトタイピングを行っています。
まず、プロトタイプすることを通じてお互いを理解し、知識を共有化する。次にそれをもとに、新たなプロトタイピングを試みる。こういった二段階のプロトタイピングを実践しています。

また、このプロジェクトでは、アクションリサーチという手法を用いて、当事者としてデザインを行いながら、より俯瞰的にデザインプロセスを捉えることも研究対象としています。

プロジェクトがスタートして2年が経ちますが、これまでに家具什器の製作を行う藤工芸株式会社(岐阜県大野町)や、デジタルファブリケーション機器を活用して染色を行う堀江織物株式会社(愛知県一宮市)、めがね舎ストライク(兵庫県神戸市)、画廊GALLERY CAPTION(岐阜県岐阜市)へ訪れ、フィールドワークとインタビューを行いました。※1

堀江織物株式会社 堀江賢司さんへのインタビュー

業種はできるだけ重ならないようにしていたけれど、みなさんの話を聞いていると共通している部分もあります。だいたいデジタルファブリケーション機器導入のきっかけって、僕と同世代くらいの社内で中心的な役割を担っている方が導入を決定することが多いのですが、当初は社内ではあまり理解されないし、「今まで手作業でできていたのに、なんで機械を入れる必要があるんだ」と職人さんから反対されたりするみたいです。それでも可能性を感じて導入するんだけど…と。そのあたりのストーリーはかなり興味深いですね。どんな意図を持って機器を導入し、それによって実際に社内がどう変わったかを聞けば、その業種特有の状況が見えてきます。
デジタルファブリケーション機器の導入には、2つの可能性があります。1つは、短期間で正確なものをつくれること。これは比較的すぐにクリアできますが、デジタルファブリケーションの利点はもう1つあって、それは設計やデザインのプロセスを変える可能性を秘めている点です。

僕がIAMASでの研究や表現活動を通して掘り下げようとしているのは、主に設計やデザインプロセスの可能性についてです。
その点から言うと、このプロジェクトは何か新しいものつくるということのみに主眼を置いているのではなく、僕らの考えるデザインプロセスを外部の人たちを巻き込みながらプロトタイピングを通して実践的に発展させていこうということを目論んでいるとも言えます。

- 2019年度後半から2020年度は、コロナ禍ということもあってAction Design Research Projectプロジェクトも難航したんじゃないですか?

実際問題、移動の制限もあって、活動時間を確保するのがなかなか難しかったですね。本当はもっとたくさんの企業へリサーチしたかった。でも、難しい状況だったので、距離的にも近く、デジタルファブリケーション機器の導入が進んでいた藤工芸株式会社との協働にしぼって活動しました。

藤工芸へのリサーチやインタビューを経て、次の段階として、オープンソースで公開されている同一のカットデータを使って、それぞれが所有する機材を用いて家具制作をするというワークショップを行いました。

家具の設計図をオープンソースで提供するサービス「OpenDesk」で公開されているLean Deskのデータを使い、それぞれ制作しました。公開されているのは、カットデータと1枚のインストラクションのみなので、CNC切削機を使って木材を切り出して組み立てることになります。
ある意味デジタルファブリケーション機器を使った制作に慣れている僕らからすると一般的な設計や加工方法も、プロフェッショナルからみると、理解できない…ということが起こります。平板から部材を切り出した後に、それらを重ねて1つのパーツにすることは一般的な家具の制作工程ではないし、そもそもすべてのパーツをCNC切削機で切り出すことも普通ではありません。
プロフェッショナルからすれば、必要な厚みの部材を作った後にパーツ加工を行った方が作業も効率的だし、仕上がりも良い。Lean Deskでは手作業を極力排しているため、組付け方の設計からしてもかなり特殊なものとなっており、彼らからすると違和感だらけだったそうです。

Lean Deskの試作を終えて、藤工芸としては新たな発見や可能性を感じる部分もあるけれど、理解できなかった部分もあったようです。
しかし、こうやって同じものををつくることで、同じ分母の上で議論できる。これをプロジェクトにおける最初のプロトタイピングとして実践しました。


Lean Desk制作風景

2020年度は、次の段階として、角材とジョイントパーツで組み立てるデザインシステム「Kiosk」のプロトタイピングを行いました。Kiosk自体は、私も所属するデザインコレクティブLAPのプロジェクトが開発した以前からあるものですが、新たに藤工芸とともに、構造的に最適化されたデザインの検討や加工方法の検討などのプロトタイピングを行いました。
一見、これまでと変わってないと思われるかもしれませんが、藤工芸とのプロトタイピングを通じて、施工方法や材質、アタッチメントを付けるための穴の位置など改良を行っています。
藤工芸が施工者として考えたアイデアが実際の設計に反映されていたり、複数の人が協働でシステムをアップデートしている状況です。これによって、パーツ数を大幅に減らすことができました。地味ではあるけど、施工と製造、そして設計の三者の協力がないと更新できないような部分です。

僕らがデジタルファブリケーションを使った制作を行う時というのは、自分たちで組み立てることが前提なので、どうしても仕上げに限界がありDIYっぽさが残る。そこを乗り越えるためには、やっぱりプロの視点が必要です。
これからは、こういった設計をもう少し自動化して、その都度、全部設計しなくてもいいようなシステムをつくりたいと思っています。



1枚目:IAMAS 2021 第1期展示 IAMASからレイアウト提案
2枚目:IAMAS 2021 第2期展示 藤工芸株式会社からの改変案
3枚目:IAMAS 2021 第3期展示 藤工芸の改変案を受けてIAMASからの再提案

藤工芸には、LAPの「One-size-fits-one」というプロジェクトにも協力していただいてます。
パラメトリックデザイン※2 という手法を用いて、自由にサイズ変更できるデザインシステムによって、それぞれの用途に合わせたサイズのスツールを制作するプロジェクトです。
これまでは1つの製品に対して1つの設計図が必要だったのが、1つの設計図でいろいろなサイズの製品がつくれるようになる。このことを概念として打ち出すのではなく、デザインシステムを用いて、用途に応じたスツールを制作する。実践を通して設計の概念を捉え直すことを試みています。

これまでの藤工芸の仕事は、デザイナーから請け負った依頼を具現化することが中心でした。しかし、今後は徐々に独自のデザインを打ち出していきたいという希望をもっています。このプロジェクトでの活動がそのまま事業に活かせるとは限りませんが、ここで得た経験を彼らが独自に発展させていくことは可能だと僕は感じています。
僕らとしてもプロジェクト終了後も、企業がここで得た経験を活かせるところまで含めて見届けたいと考えていますし、それがこのプロジェクトの本当の意味での成果と呼べるものになると思っています。

アカデミックでも商業的でもない、新たな「協働的デザイン環境」を生み出す

- 企業との共同研究というと、プロセスよりも成果物を重視するイメージがありますが、「Action Design Research Project」は、プロセスを重視していますね。そこに理由はありますか?

現在のプロジェクトの基礎となっているのは、僕が2005年に始めた「GANGUプロジェクト」です。これは電子玩具を自分でつくるプロジェクトでした。当時は基本的に手作業だったので、完成までに相当な制作時間を要していました。
アイデアスケッチ※3 を導入していたので、発想を発展させることはできたけれど、それを実装して具現化するまでに一番時間がかかる。1年かけてとりあえず動作する状態のものを各人がつくるので精一杯でした。プロトタイプの完成度としてはあまり高くなく、アイデアの可能性はとりあえず示せたかも…というところでプロジェクトは終わっていました。

IAMASに3Dプリンターが導入された2007年、状況は一変します。これまでの3、4倍の早さでプロトタイプが作れるので、実動するものに触れるまでの時間をすごく短縮できました。
それによって、試作の回数も増え、つまらないと気づいたら途中で断念して、方針転換することもできるようにもなりました。

当時、こんな風に3Dプリンターをアイデア発想の段階からデザインプロセスの中に組み込んでいるところは企業でもほとんどありませんでした。3Dプリンターはまだまだ高額だったので、多くは外装デザインの最終チェックなどに使っていて、企画の初期段階から3Dプリンターを使うことは珍しかったようです。
当初は自覚的ではなかったのですが、外部での発表などを通して、デザインプロセスとしての新規性に気づき、電子玩具を開発しながら、デザインプロセスを実践するプロジェクトという位置づけをさらに加えながら、「GANGUプロジェクト」は、2009年まで続きました。


1枚目:《Jamming Gear》 制作:菅野創、西郷憲一郎
2枚目:《アクション!ゆびにんぎょう》 制作:笠原友美

幸いなことに、その後も新しいデザインプロセスを実践してみたいと企業との共同研究を複数行うことができました。各企業のテーマに合わせて新しいアイデアを具現化していくこと自体には意義を感じていたのですが、一方で、デザインプロセスの開発という点に行き詰まりを感じるようになりました。

そこで、次の展開として、これからは僕らと企業で協働して何かをつくり、そのことを通してお互いの知見を共有し合う方法を模索することにしました。そもそも、僕らのいるアカデミックなフィールドと、企業のいる商業的なフィールドは、目的もゴールも違いますよね。どちらかのフィールドに寄せたゴールの設定には、おのずと無理が生じます。そこでアカデミックでもない商業的でもないフィールド、これを僕は「協働的デザイン環境」って呼びたいと思っているんですが、その新たなフィールドをつくることを模索したいと思っています。そして、そこでキーになるのが協働で行うプロトタイピングなのではないかと思っています。そこでの実践を通して得られた経験や知見を、それぞれのフィールドに持ち帰って発展させていければ良いなと考えています。

2009年以降のプロジェクトは、デザインの対象を玩具に限定せずにいろいろなものへ広げていきました。「アドバンストデザインプロジェクト」、「あしたをプロトタイピングするプロジェクト」で使われていたデザインプロセスは進化しながらもベースは一貫性を持ったものでした。
その後に続く「Action Design Research Project」は、これまで内部のみで行っていたプロトタイピングを外部へと開き、それを駆動源として新たなデザインプロセスをボトムアップで作っていく試みを行っています。

 
後編に続きます


 

赤羽亨 / 教授

インタラクションデザインに焦点をあてて、メディアテクノロジーを使った表現についての研究を行っている。また、メディア表現を扱ったワークショップ開発や、その内容を共有するためのアーカイブ手法の研究にも取り組んでいる。主な活動に、「Pina」(Ag Ltd.)、「メディア芸術表現基礎ワークショップ」(文化庁メディア芸術人材育成支援事業)「3D スキャニング技術を用いたインタラクティブアートの時空間アーカイブ」(科研費 挑戦的萌芽研究)がある。


※1 Action Design Research 活動レポート
Action Design Research 活動レポート 〜藤工芸株式会社訪問編〜
Action Design Research 活動レポート 〜GALLERY CAPTIONでのインタビューを経て〜
Action Design Research 活動レポート 〜堀江織物株式会社訪問編〜
Action Design Research 活動レポート 2020

※2 パラメトリックデザイン
3Dモデリングのパラメータを操作することでデザインが変化する。1つのデータから多数のバリエーションを生み出すことができる。

※3 アイデアスケッチ
IAMASで培われた視覚的なブレーンストーミング手法。プロセスからデザインすることで、アイデアとチームを同時に醸成する。
アイデアスケッチの詳細については書籍『アイデアスケッチ ―アイデアを〈醸成〉するためのワークショップ』(James Gibson・小林 茂・鈴木宣也・赤羽 亨 著、 株式会社ビー・エヌ・エヌ新社 刊、2017年)で詳しく解説している。


 

インタビュアー・編集:森岡まこぱ
撮影:山田聡