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教員インタビュー:小林孝浩教授

工学的視点から挑戦する、持続可能な農地活用

- 近年は耕作権を引き継いだ農地をフィールドとして、工学系の視点から活用法を模索・実践する「小規模兼業農家の挑戦」に取り組んでいます。まずは、こうした活動を始めたきっかけについて聞かせてください。

実家が第2種兼業農家だったので、農業に対する問題意識は学生の頃からずっと持っていました。2007年に父から農地の耕作権を譲渡され、いよいよそれが現実的な問題として身に降りかかってきました。
ちょうどその頃、アイガモロボット(水稲の有機栽培を補助する小型移動機構)の開発に携わり、農業におけるテクノロジーの活用への興味が深まっていきました。

- 具体的にはどのような活動をしているのでしょうか。

本格的に活動を始めたのは2012年前後です。最初に、持続的な農業を実現する一つの方法として、農地に太陽光発電所を設置しました。
太陽光発電には子どもの頃から関心があって、雑誌に小さな太陽光パネルが付録で付いてきて、電池がなくてもモーターが動くことにワクワクしたのを覚えています。
農地に設置する前に自宅の屋根に太陽光パネルを取り付けたのですが、業者が作業するのを見ていて、自分でもできそうだと感じました。それで電気工事士の免許を取得し、先行事例を調べながら自分で設計・施工を行って、農地に「太陽光発電を備えた農業用施設」を設置しました。

《太陽光発電の機能を備えた農業用施設》パネル下のコンテナで玄米を保存したり、椎茸を栽培している。

その後は、農地で栽培したヤーコンを朝市で販売するのに利用している「軽トラハウス」や、ヤーコン茶やコーヒー豆の焙煎器なども自作し、2018年には引き取り手が見つからず、解体予定だったログハウスを移設しています。
それまでは工作程度のものしか作ったことがなかったのですが、太陽光発電施設を設置し、台風に実際に耐え抜いたという事実を踏まえ、強度計算など工学の知識が間違っていないことを経験として実感できて、なんでも作ってみようという自信につながっていきました。

自分の身近な課題は、社会的な課題ともリンクしています。この太陽光発電の活動は、後にIAMASでの「ちび電プロジェクト」に結びつきました。それまでは、研究という小さな視点からテーマを探していたのですが、自分の活動として興味のあることにチャレンジしたり、発信したりことは大切なことだと感じました。

《軽トラハウス》道具なしで分解でき、大人二人で積み下ろしが可能。

- 小林さんは、一般的には「不良資産」と位置付けられる農地を「資源」と捉えています。また他の制作をする際にも廃材を活用し、身の回りの「資源」を活用しています。

小学校の頃、ごみ捨て場は僕にとっては宝の山でした。テレビがあればブラウン管を壊したり、蛍光灯からフィラメントを取り出し発泡スチロールカッターにしてみたり。本当に色々なものをばらして仕組みを調べました。今も粗大ゴミ置き場に捨てられているものが、僕には資源に見えます。そういうものづくりのあり方やライフスタイルを、ゆるりと、継続的に提唱していけたらと考えています。

それは、今年度からスタートした「Community Resilience Research(CRR)」の「自立共生(コンビヴィヴィリアリティ)」「レジリエンス」とも文脈が近いので、個人プロジェクトと学内のプロジェクトが相乗効果を生み出せればと思っています。

 

共同研究によって、技術の可能性は想像以上に広がっていく

- 現在は「CRR」の他に「体験拡張環境プロジェクト」「福祉の技術プロジェクト」と、毛色の異なる3つの学内プロジェクトに参画しています。

毛色が異なるからこそ、色々な学生と接点が持てるので面白い。プロジェクトごとに多少の違いはありますが、僕の役割としてはものづくりに関する助言や研究的視点からの意見を求められることが多いです。

- 直近で発表された成果としては、今年8月に「根尾の盆踊り おどってみよー」がケーブルテレビの「ウィークリーもとす」番組内で放送されました。

「CRR」の前身プロジェクトである「根尾コ・クリエイション」は、根尾に何百年にもわたって伝えられてきた独自の生活文化をいかに残して、いかに伝えるかをテーマとしていました。その一貫として、2017年には「害獣戯画」という根尾をテーマにしたアニメーションを障子に投影するシステムを制作しています。

《害獣戯画》根尾での体験を伝える一手法として開発に携わった。

「CRR」で何をしようかと金山先生と議論する中で、提案したアイデアの一つがこの盆踊りです。金山先生が各地の盆踊りに行っているということを知っていたので、根尾で古くから集落の拝殿で踊られている盆踊りをKinectで撮影してCGアニメーションとしてアーカイブしてはどうかという話をしました。VTuberに依頼されたのは金山先生のアイデアで、伝統的なものに子どもたちが関心を持つきっかけになって良かったと思います。コロナ禍で各地の盆踊りが中止になる中、ちょうどお盆期間に映像を流してもらえたので、すごく反響が大きかったです。提案した当初想像していた以上に広がりのある作品になりました。

僕のように工学に特化しているとどうしても世界が狭くなるのですが、金山先生は非常に人脈が広い。このようにして世界が広がっていくのはとてもありがたいです。

盆踊りの動きを撮影している様子
CGとして再現された根尾の盆踊り

 

- 「小規模兼業農家の挑戦」のように自らの興味を突き詰めていく楽しさもあれば、思いがけない方向に引っ張られて広がっていく面白さもありますね。

人からもたらされる興味との出会い、テーマとの出会いは大切にしています。引っ張られていくといっても、全く興味のないことや自分ができないことではないですから。
卒業生によるベンチャーGOCCO.と共同制作をすることがあるのですが、彼らは社会と直結しているので、上手くいけば世の中に大きく広がっていく。僕はそういうつながりを持っていないので、お互いにとっていい関係を築けているのもその好例だと思います。

- 小林さんは開学2年目の1997年に岐阜大学大学院からIAMASの助手に着任されました。ものづくりのアプローチの仕方など、その違いに戸惑うことはありませんでしたか。

戸惑いはありましたよ。年を追うごとにその回数は減ってきましたが、わりと長い間ありました。
それと同時に、すごく良い世界だなとも感じました。工学系の場合、既にごく狭いテーマが決まっていて、技術をアピールする方法、応用できるものを考えるというアプローチの仕方になるのですが、その方法ではあまり良いものができないと限界を感じていました。IAMASの場合はその逆で、まずやりたいことが先にあって、こういう技術を使いたいと自由に手段を選ぶことができる。自由な発想でものづくりを行える環境だという印象を持ちました。

アカデミーがあった頃は、「これが作りたい」と自分のやりたいことを明確に持っている学生が多く、彼らの無理難題に応えることがとても楽しかったです。「明日までにこれ作らなきゃいけないんですけど」みたいなことも結構ありましたけど、自分の知識や技術が役に立ち、議論をしながら一緒にものを作ることに喜びを感じていました。

- 小林さんは様々な作品やプロジェクトを技術的に支えているという印象があります。

僕は表に出たい人じゃないので、そういう立ち振る舞い方ちょうど居心地がいいんですよ。
自分一人ではできない挑戦をしている学生をサポートすることにもやりがいを感じています。ただ農業の取り組みを始めてからは、自分の身の回りのことを自力で作ることに最も楽しさを見出していて、今までとは違う心の動きを検出しています。

- 最後にIAMASへ入学を希望する工学系の学生たちへメッセージはありますか?またどのような学生に来てほしいと思いますか。

単純にマスターを取ることが目的であれば、他に行った方が良いかもしれません。IAMASにわざわざ来るのですから、やはりここでしか得られないものを身につけてほしいです。
IAMASは現実社会に近いというか、色々な興味の人が集まっているので、普通の工学系での研究室では得られない体験や関係性が築けると思います。

専門を生かした方が有利だとは思いますが、自分の技術を広げたいとか別の何かを求めて来る人もいます。
受動的に授業を受けているだけでなく、やりたいことがあって自ら探求していける人。ディスカッションしながら、一緒に発見や発明できる学生にぜひ来てほしいですね。


 

小林孝浩 / 教授

1969年岐阜県生まれ。画像処理を用いた位置計測技術と、柔らかいロボットハンド機構とを組み合わせた、果実収穫システムの研究で博士号を取得。近年は、自身の農地問題をきっかけに、小規模農家だからこそできる実践的な活動を行う。これまでに、太陽光発電を備えた農業施設を自作したり、朝市での移動販売用に軽トラハウスを製作した。ヤーコン栽培を軸に、今の社会において工学の専門家が提案できることを模索している。

 

インタビュアー・編集・撮影:山田智子