EN
Follow us
twitter facebook
資料請求

学生インタビュー:天野真さん(修士2年生)

メディア表現学が網羅する領域は、芸術、デザイン、哲学、理工学、社会学など多岐にわたります。各自の専門領域の知識を生かしながら他分野への横断的な探究を進めるうえで、学生たちが選ぶ方法はさまざまです。入学前の活動や IAMAS に進学を決意した動機をはじめ、入学後、どのような関心を持ってプロジェクトでの協働に取り組み、学内外での活動をどのように展開し、研究を深めていったのかを本学の学生が語ります。

天野真さん

プラットフォームの背後にある「設計」に意識を向ける

- IAMAS入学以前の活動と進学の動機について聞かせてください。

大学は慶應義塾大学の環境情報学部(慶應SFC)に所属していました。2年生、3年生の時にユーザーインターフェース、ユーザーエクスペリエンスに関する研究室に所属していて、学会などでの発表を精力的に行っていました。4年生の頃に株式会社Qosmoでインターンをさせていただく機会があり、その頃からAIに興味を持ち始めて、その後慶應SFCにいらした徳井直生さんの研究室に所属することになりました。《UNLABELED - Camouflage against the Machines》という、AIの誤認識を誘発するテキスタイル柄生成システムを用いて21世紀の迷彩服を制作するプロジェクトに参加していました。この作品では、監視カメラに搭載されている画像認識から人間として認識されないファッションの制作をしていました。
慶應SFCの時は、チームで役割分担をしてひとつの作品を作ることが多かったです。僕の場合は、プロジェクトマネジメントや技術開発のリーダーを任されていましたが、4年間過ごしてみて、僕自身に何ができるのか少し悩んだこともあり、一人で取り組む場が欲しくて違う大学院に進むことを考えました。IAMAS卒業生の堂園翔矢さんやScott Allenさん、島影圭佑さんに相談にのっていただくうちに、IAMASに興味を持ちました。「IAMASに来たら、今まで持っていた価値観を壊されるから」と聞いていたので、修行の身だと思って入学しました(笑)。

- 入学してからのプロジェクトでの関心と、個人研究との関わりは?

元々、環境音やフィールドレコーディングに興味があったのですが、新型コロナウイルス感染症の影響で授業をはじめ、オンライン環境を意識することが多くなり、ノイズキャンセリングへの問題意識が芽生えるようになりました。
Archival Archetypingプロジェクトでは、オンライン環境下で作品を作る時に鑑賞者とどのような接点を設け、見えないつながりを引き寄せるような体験をつくり出せるかを考えていくところに主題があったので、修士作品のひとつ《VOICE | NOISE》を制作する上で影響を受けています。その場にいるからこそできる体験をオンラインプラットフォーム上にどう集積させるか、あるいは物理的な世界と情報的な世界をどう結びつけるのかを考えるきっかけになりました。
修士作品《ノイズキャンセリング・フィルターを通して都市の音を聴くということ。》では、《Ear-path》《VOICE | NOISE》《Focus Change》の3作品をまとめてひとつのプロジェクトとして発表しました。このプロジェクトは、ワークショップ、システム制作、ビデオプロトタイプの制作を一人で取り組んだからこそできたことがあると思います。フィールドレコーディングした音をオンラインプラットフォーム上で共有する経験を経て、最終的にはその場でしか体験できない音をどう体験してもらうかに向かっていきました。〈ノイズ〉という個人によって捉え方が異なるテーマに対して、どのように関わり、意識を向け、自由に設計する可能性があるのかを考えたプロジェクトです。

《VOICE | NOISE》

- 機械学習や人工知能という考え方そのものは以前からありますが、技術が社会に浸透しつつある現在だからこそ問うことができるテーマがあると思います。自動運転や自動翻訳のように、様々な形で私たちの日常に技術が関わるようになって、日常生活と表現を接続しながらどのような批評の切り口を持てるのかが重要になってきています。

実は、この研究を始めるきっかけのひとつに、オンライン授業を受けていて、発表の後に拍手をもらうタイミングがあったのですが、その音が全く聞こえないという経験があったんです(笑)。「あれ、どうして聞こえないんだろう?」という、普段のコミュニケーションの中でふと我に返るような経験があって、その些細な気づきを掘り下げてみようと思いました。
僕にとって、都市の音は〈ノイズ(雑音)〉ではないと思っていて、聞こえているけれど意識が向けられていない音や、当然のように使っているプラットフォームの背後に設計されているものを、いろいろな角度から取り上げて、立ち止まって意識を向けてもらう機会になればと思っています。

インタビュー収録:2022年1月31日
聞き手:伊村靖子

 
※『IAMAS Interviews 02』の学生インタビュー2021に掲載された内容を転載しています。