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レポート

研究レポート

教員インタビュー:金山智子教授

#メディア・コミュニケーション #コミュニティ #コ・クリエイション #コミュニティFM #地域活性 #インタビュー

根尾地区は驚くことの多い手つかずのままの場所

- 金山先生が研究代表を務める「根尾コ・クリエイション」が、5年目となる2019年度で終わったと聞きました。

対象となる岐阜県本巣市根尾地区(旧根尾村)は、岐阜県南西部の中山間部に位置します。
岐阜県内にはゆかりの武将がいたり、宿場町だったり、その歴史が明らかになっている地域が多いです。しかし、根尾地区には明らかな歴史はなく、入ってみると驚きが多くて、手つかずのまま残っている場所のように感じました。
何かを始めることにおいて、まず興味を持てるかどうかが重要なのではないでしょうか。

プロジェクトは2015年からスタートし、フィールドワークとして毎月3〜5回のペースで根尾地区を訪れました。
2019年度で「根尾コ・クリエイション」は終了しましたが、今年度から始まった「コミュニティ・レジリエンス・リサーチ」でも、根尾地区を含めた中山間地域を対象にして研究を続けます。

「根尾コ・クリエイション」の活動拠点である「ねおこ座」(2015年)

- 2019年度の卒展で「根尾コ・クリエイション」の作品を拝見しました。新しいものを地域住民に提供するのではなく、彼らの営みを記録する、寄り添うような作品が多いですね。

クリエイターが地域に入って、新しいものつくっていく「コ・クリエイション(共創)」という言葉が、地域活性の分野でも注目されています。
プロジェクト開始から2、3年目までは、私たちもそのような趣旨で活動していましたが、フィールドワークを重ねていくうちに、地元の人しか知らない不思議な仕組みが見えてきました。
自分たちで構築し、当番制で管理している水の分配システムのこと。一つの小さな集落が世襲制で500年続けている能狂言のこと…。目立ちませんが、根尾の住民が守ってきた“人と環境のシステム”におもしろさを感じるようになりました。
でも、地元の人たちは特別だと思っていないから説明もしない。だからこそ、私たちが地域に入って、理解していかなくてはいけない。
そうして、根尾地区に根付くシステムがどのような関係プロセスを経て、変容したのかを紐解き始めました。

2019年の台風で根尾地区も被災しましたが、自分たちで水源を管理しているため、電気は止まっても、水は止まらなかった。台風によって自分たちで水源を管理することの価値を再認識することになりました。

プロジェクトでは、根尾地区住民の話を聞く会「根尾あんばようしよまいか」を定期的に開催

根尾地区における⽔源調査のフィールドワーク風景

- 「根尾コ・クリエイション」のコンセプトで、根尾地区のシステムを「根と茎と菌」に例えていらっしゃいますが、これはどういうことですか?

根尾における人と環境のシステムに注目して調査を続けていく中で、民俗学や社会学ともちょっと違う、もっと長いスパンで思考していく必要があるのではないかと考えるようになりました。

近年、生態学の研究者たちが、人間のコミュニケーションと森林の相互扶助コミュニティが似ていると述べています。※1

これが正解かどうかはわかりませんが、根尾の人と環境のシステムを、樹木の「根」「茎」「菌」にイメージ付けることで、説明ができるのではないかと思いました。
水分配の仕組み、収穫した野菜を共に食べる食のシステムで「根」に栄養分に送り、精神的支えである神社の存在と生活者の記憶や物語が根尾を支える「茎」、集落の盆踊りや能狂言によって根尾以外の人との交流することで伝統芸能継承の扶助となる「菌」となり、根尾の共生ネットワークを支えています。自分たちのシステムを自ら構築し、環境に合わせて変化し、進化させて、生き延びていくあり方です。

能郷集落の芋煮の調査(研究:平塚弥生)

能郷地区で500年以上続く能の舞台の様子

 

神社や食もメディアになる

- 金山先生は、これまで奄美大島のコミュニティラジオ局をはじめ、離島でのコミュニティとコミュニケーション形成に関する研究を行っていらっしゃいましたが、今回の神社や水源を探る研究は、これまでとずいぶん方向性が変わったように感じます。

テレビやインターネットだけがメディアではありません。神社、広場、食も、私たち研究者はメディアと捉えています。

根尾地区には37の神社があり、それぞれの神社に氏子たちが年に数回集まって、お祈りと直会(なおらい)を行うのですが、儀礼的でありながら、みんなが集まるコミュニケーションの場にもなっています。
根尾北部の人が住んでいない集落でも、住民だった氏子たちが、今も春と秋に集まってきます。神社がシンボルとなって共同体が機能しているんです。それが数百年以上続いている。

コミュニティラジオ局も、小さな放送局だと番組そのものが、住民たちにとっての儀礼的コミュニケーションの場になるんですよ。内容や技術はまったく違うけれど、コミュニケーションの性質は根尾と一緒なんです。

政治学者のベネディクト・アンダーソンは、これを「想像の共同体」 ※2 と述べています。みんなが離散していく中で、新聞や文学を通して、離れていても自分はそこの人間であると確認するという内容です。
だから、神社での儀式に参加することで、離れても「自分は〇〇地域の氏子なんだ」と実感できる。
新聞・ラジオとは異なるように見えるけれど、神社が氏子という共同体をつなぎとめるメディアとして機能しているんですよね。

さまざまなメディアによるコミュニケーションを見ていくのが、私の研究分野ですが、現代社会は、ほぼすべてがメディアコミュニケーションによって構築されている感じです(笑)。

鹿児島県・奄美⼤島にある宇検村のコミュニティFMラジオ局「FMうけん」。金山教授がラジオ番組に出演した時の様子

根尾地区の住民が集まる神社もひとつのメディア

- これまでプロジェクトに参加した学生には、どんな方がいますか?

自分のテーマや立ち位置、たとえば絵画や食、記憶を通じて、地域と接続したいという意思のある人が多いように感じます。

卒業生で言えば、美濃市の空き家を使った「美濃のいえ」プロジェクト※3で、誰もが使える石窯をつくり、地域の中に小さなアイデアを産む場をつくった石川琢也くんは、山口情報芸術センター[YCAM]でエデュケーターとして活躍し、今年度から京都造形大学で教えています。
同じく「美濃のいえ」プロジェクトに参加した南原鉄平くんは、大垣市で「南原食堂」を運営しています。
また、根尾で「耕作放棄地の新しい活用」について研究した後藤良太くんは、宮崎県都城市でモールをリノベーションした新しい市民図書館の運営に関わっています。
そして、根尾の能郷集落の家庭料理を研究した平塚弥生さんは、大垣市でシェアキッチン「ちょいみせキッチン」を運営しています。

2019年3月にIAMASの紀要で、北海道オホーツク海地域のウェブメディア「オホーツク島」を運営している卒業生の佐野和哉くんとの共同論文「#札幌discoverにみる分断と共感の時代のオルタナティブ・メディア」を発表しました。※4

東京オリンピックのマラソン競技会場が札幌に移転したことにより、「#札幌dis」というハッシュタグで札幌を“ディスる”風潮がSNSで発生しました。しかし、それを逆手にとった「#札幌discover」というハッシュタグを使って、それまでのネガティブ流れが一気にポジティブなものへ変わった。この事例が興味深かったので、論文にまとめました。
現在、インターネット上でフィルタリングが進み、社会のさまざまな分断が進んでいます。私は、社会の中に生まれてくる分断を乗り越えていくような、新たなメディアやコミュニケーションに関心があり、現在も研究を行っています。

根尾地区の耕作放棄地に交流促進を図る“話す場”として「トンガリハウス」を建設(研究:後藤良太)

 

地域から寄せられる期待にIAMASらしさで応えていく

- 地域連携を行う産業文化研究センター[RCIC]のセンター長として、IAMASが周辺地域から求められる役割を感じることはありますか?

企業や自治体からの「IAMASは先端らしい」、「頼めばおもしろいことをしてくれるらしい」というぼんやりとした期待を感じます(笑)。
“ぼんやり”としているからこそ、こちらから自由に提案できるのでありがたいですね。
相手が提案をおもしろいと思えば、IAMASがどういった発想や視点からアイデアを生み出し、どのような表現活動をするのか、実行するまでのプロセスを通じてIAMASを理解しようとする。
そこが重要だと思っています。

- また、入学希望者に向けてIAMASを発信していく中で何か感じることはありますか?

IAMASに来たら、活躍している卒業生と同じことができるようになると思うのは…少し、違うかな。
やはり、卒業生がそこに到達するまでには、多くの失敗や挑戦の積み重ねがあるので。

ただ、IAMAS全教員が学生の研究内容をだいたい知っているので、在学中は主査、副査関係なく、いろんな分野の人が質問をぶつけてくる。学生1人に対して教員19人が総掛かりですよ(笑)。

だからこそ、いろいろな視点からアドバイスがもらえる。IAMASでは、アウトプットそのものより、自分の固まった考えや視点を打破していくプロセスやマインドセットを学べる気がします。
だから、IAMASにいる間はいろんな人とコラボレーションして、挑戦したらいい。失敗しても大丈夫。ここは、自由に、好きに、制作できる場所です。

金山 智子 / 産業文化研究センター長・教授

大船渡生まれ。地域コミュニティとコミュニケーションや、市民のエンパワーメントとメディアが主な研究テーマ。最近は、IAMASのデザインやアート、ものづくりを地域社会に実装させていくデザインと、そこから新しいニーズを創造することに取り組んでいる。主な著書は『小さなラジオ局とコミュニティの再生~311から962日の記録』(大隅書店)、『コミュニティメディア』(慶應義塾大学出版)、『NPOのメディア戦略』(学文社)、『ネット時代の社会関係資本形成と市民意識』(慶應義塾大学出版)など。


※1 スザンヌ・シマード(生態学者)、デヴィッド・ジョージ・ハスケル(生物学者)、ペーター・ヴォールレーベン(ドイツの森林管理人)らは、樹木同士が地面の下で根や菌類のネットワークを形成し、情報や栄養を交換し合い、時に弱った木があれば周囲の木が助けを出すことを明らかにした。
(引用:『根と茎と菌 IAMAS Project 根尾コ・クリエイション 2019』 Concept より)

※2 参考文献:『想像の共同体』(ベネディクト・アンダーソン 著/1983年)

※3 2013〜2015年度まで行われたプロジェクト。岐阜県美濃市にある築80年の古民家「美濃のいえ」を拠点に、アート作品の展示やワークショップなどを実施し、地元コミュニティとともに新しい表現活動を作り出した。研究代表は金山教授。

※4 電子書籍配布サイト「IAMAS BOOKS」から共同論文が掲載されている「情報科学芸術大学院大学紀要 第11巻」のダウンロードができる。

 

インタビュアー・編集:森岡まこぱ
撮影:伊藤晶子(IAMAS産業文化研究センター)

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