IAMAS

活動報告

イベントレポート

2018年度 情報科学芸術大学院大学 入学式(学長式辞全文)

4月6日、第18期生として新たに新入生を迎え、2018年度 情報科学芸術大学院大学 入学式を開催しました。新入生の自己紹介からは、今後のIAMASでの研究に対する意気込みや決意が感じられました。

平成29年度 入学式 学長式辞 (2018年4月6日)


新入生のみなさん、入学おめでとう。そして、IAMASへようこそ!

今日は、ぼくにとって新入生にお祝いを述べる2回目の機会です。「お祝い」に代えて、これからIAMASで研究を始めるみなさんに伝えておきたいことは毎年同じです。IAMASが現実の社会から守られた「小さな宇宙」であること、そこでは「失敗」が許され、何より、死者たち、つまり亡くなった人々やこれから生まれてくる人々の視線を感じながら、これからの2年間の制作や研究に打ち込んでほしいとぼくは昨年、話しました。今日は、IAMASにおける「アート」という言葉の特別な意味について話したいと思います。

これからみなさんは、今までの様々な職業や学部学科に分かれていた大学での専門とは異なる「メディア表現研究科」という、ひとつの領域の下で制作や研究を始めることになります。それは、自分のこれまでの専門的な知識や技能を手放すということではなく、そこからさらに、それぞれの専門を深め、「メディア表現」、すなわち「アート」を探求するということです。

IAMASで言う「アート」は、美術や音楽などの芸術ジャンルに限られたものではありません。
今、ぼくたちは昔のように自然の中で生きているだけではなく、科学技術に支えられた「機械」が支配する世界の中で生きています。ナノ、ニューロ、あるいはバイオテクノロジーや人工知能などをはじめとする先端技術が飛躍的な進化を続ける中で、かつて芸術と呼ばれていたものは今、その存在理由を見失っているかのように見えます。しかし、「アート」の語源、つまり人間の様々な「術」あるいは「技法」という、その本来の意味で、ぼくは新たにIAMASにおける研究や制作活動全般を「アート」と呼びたいと考えています。すなわち、この地球上で「自然と人間と機械」が共存するために求められている様々な技術や芸術、そして学術のすべてを人間による「表現」ととらえ、それらをまとめて「アート」と呼ぼうということです。単に耳当たりのいい言葉だからではありません。そのように意識する必要があるからです。
なぜでしょうか。それは、近・現代の理系や文系の区分はもとより、現在の細分化された様々な専門分野が個別の研究成果を追求することだけでは人間は幸せにならなかったからです。
今、ぼくらに求められているものは、専門的研究だけでなく、それらを総合し、この世界を統一的に捉える「センス」、すなわち「感性」に他なりません。それは意識化された、問題解決型の思考だけではない、人間の「知性」が持つ本来の能力のことです。言い換えれば、「感性」は学問の根本を支えるある種の指導原理であり、また「美しさ」を求める人間の創造力の根源に関わる資質なのです。
そのような「知性のあり方」、そしてその「知の技法」のことをIAMASでは開校以来、「芸術と科学の融合」というスローガンで言い表してきました。

ずいぶん大げさな話だと思ったかもしれませんが、決してそうではありません。つまり、人間は合理的な判断のみによって行動しているどころか、常に、自分でも意識化できない欲望や感情、あるいは習慣や慣習に突き動かされて生きるしかない存在であり、それはぼくもみなさんも同じです。そのような人間たちが平和に、心豊かに暮らせる世界を次の世代に残していくためには何が必要か。そこで、地球上の「自然と人間と機械」が自分の研究や作品とどのような形で関わっているのか。そのことをIAMASでは考え続けてほしいと言いたいのです。それが、去年も話した「死者たちや、これから生まれてくる人々の視線を感じながら制作や研究に打ち込む」ということの意味です。
つまり、IAMASにおける研究が通常の修士研究と変わらないように見えたとしても、その点において、みなさんの作品・研究は人間による「アート」であるべきなのです。

修士課程におけるみなさんの作品・研究は、それぞれの専門分野からみれば最初の小さな「一歩」にすぎないかもしれません。しかし、その「一歩」、すなわち、これからの2年間が何を目指し、どこに向かっているかはみなさんの人生にとって、それどころか、これからの世界にとって決定的であることに自覚的でいてください。
また、純粋に、この世界と自分の作品・研究のことだけを考えながら日々を過ごせる、いや、そのような日々が許されるのは、もしかしたらみなさんの一生の中でIAMASが最後になるかもしれないことをいつも心に留めておいてください。
それでは、月曜日から始めましょう!

学長・三輪眞弘