プロジェクトインタビュー:Augmented State Project
IAMASの教育の特色でもある「プロジェクト」は、多分野の教員によるチームティーチング、専門的かつ総合的な知識と技術が習得できる独自のカリキュラムとして位置づけられています。インタビューを通じて、プロジェクトにおけるテーマ設定、その背景にある研究領域および文脈に加え、実際に専門の異なる教員や学生間の協働がどのように行われ、そこからどのような成果を期待しているのかを各教員が語ります。
平林真実教授、前田真二郎教授、小林孝浩教授、飛谷謙介准教授

ASP Exhibition 2026
- プロジェクトのテーマと背景について聞かせてください。
平林 ひとつの起点となったのは、2022年の卒業生でVRによるLSD体験の研究を行なっていた永井歩さんが制作した作品「Virtual Hallucinogen」でした。映像にディープドリームでエフェクトをかけて画像を歪ませることで、幻覚剤の効果を模倣したVR体験ができるというものです。
私自身、クラブカルチャーに親しみがあり、過去のサイケデリックの流行も体験してきています。一方で、サイケデリックスが慶應大学を中心に精神疾患に対する新たな治療法として研究されるなど、幻覚体験が医療・科学の文脈で再評価されつつあることにも注目していました。そのような背景を含め、AIやXRなど現代のテクノロジーによって幻覚的なものを安全かつ効果的に表現する手法を探求しようとこのプロジェクトをスタートしました。

研究代表 平林真実教授
飛谷 私はこれまでの研究活動において一貫して人間を計測対象としてきたので、変性意識状態の計測、検証・解析の部分で自分の特性を発揮できると感じて参加しました。変性意識に関する先行研究の知見を参照しながら、このプロジェクトが学術的に成立するようにサポートをしています。
小林孝浩 私はクラブカルチャーやサイケデリクスに馴染みがないこともあり、だからこそ一般の人に近い目線で、少し離れたところから見るということができます。それはこのプロジェクトにおける私の役割のひとつだと思っています。ドラッグやオカルトと紙一重のデリケートな領域だからこそ、学術的な枠組みで客観性を持って取り組むことが重要だからです。一方で、個人的には、未だ解明されていない脳機能があるに違いないと考えている部分もあるので、その一環として変性意識のような現象がなぜ、どのように起きるのかという問いにも関心を持っています。
前田 私の専門は鑑賞者に能動的に鑑賞してもらう映像表現なので、このプロジェクトの没入させていく映像とは真逆の立場です。しかしながら、1920年代から1960年代にかけて、映像の創作がドラッグと結びついて行われていたという歴史もあり、それが現代においてどのように更新されるかということに興味がありました。
また、現代人は非常に刺激が多い環境の中で生きていて、瞑想やリラクゼーションのためにアプリが人気になるなど、自分の意識や知覚を装置によってコントロールすることが一般化している状況があります。そのような自分に直接作用する知覚体験の開発を試みたいと考えました。
平林 4人の共通項としては「変性意識」です。現状の変性意識の研究は、瞑想やマインドフルネス、フロー状態といったリラックスや集中を目的とした「静」な方向性が多い中、サイケデリックなど、興奮を伴う「動」の意識変容は、IAMASだからこそできる研究プロジェクトかもしれません。
- 2025年度はどのようなことに取り組んだのでしょうか?
平林 日本ではドラッグに対する忌避感が強いので、前期はNETFLIXのドキュメンタリーシリーズ「心と意識と: 幻覚剤は役に立つのか」を全員で視聴し、幻覚剤の医療応用や歴史的、宗教的な背景についての理解を深めることから始めました。その後、変性意識に関する論文を参照しながら、理論的な基盤を整えていきました。
その上で、実践的な取り組みとして、1960年代にイアン・ソマービルとブライオン・ガイシンが開発した「ドリームマシーン」を再制作しました。ドリームマシーンとは円筒にスリットを設けて回転させ、内部の光源を明滅させることで、目を閉じた鑑賞者に8〜13Hzのリズムで色彩的な幻視を引き起こさせる装置です。公開されている設計図をもとに2種類の装置を制作し、脳波の測定を行いました。
脳波の測定については、

再制作したドリームマシン
飛谷 データ解析の結果、ドリームマシーン体験時に、
また、体験中にはアルファ波帯の低下も確認され、

ドリームマシン鑑賞時の脳波を測定

測定した脳波を分析
平林 さらに、ドリームマシーンと同様の体験をVR環境で再現できるシステムを制作。初年度の成果として、情報処理学会「インタラクション2026」で発表及びVRバージョンのデモ展示を行いました。
- 学生はどのように関わったのでしょうか?
平林 このプロジェクトは多領域の専門性が求められるので、学生がそれぞれの得意を生かして主体的に関わっています。2025年度は、ゾートロープに強い関心を持つ寺田博亮さんが自ら手を挙げてドリームマシーンの制作を主導してくれました。また、IAMAS入学以前に生理計測の研究をしていた松本朋己さんが、脳波の計測実験を支えています。変性意識には音も重要な要素なので、音の研究をしている岩崎李音さん、音楽活動をしている亀田美裕さんがいたことも大きかったです。亀田さんは論文の執筆も担当しています。4人がそれぞれの専門性を発揮してくれたおかげで、初年度で学会発表まで辿り着くことができたと考えています。
来年度以降は、脳波の状態をリアルタイムにフィードバックしながら、幻覚状態に誘導するコンテンツを作ることが目標です。視覚だけではなく、音や生体情報などトータルな「精神拡張」体験をもたらす装置を制作することも視野に入れ、研究を発展させていきたいと考えています。

VRゴーグルの内側に明滅制御可能なLEDを設置
インタビュー収録:2026年2月
※『IAMAS Interviews 06』のプロジェクトインタビュー2025に掲載された内容を転載しています。