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研究レポート

プロジェクトインタビュー:テクノロジーの〈解釈学〉

IAMASの教育の特色でもある「プロジェクト」は、多分野の教員によるチームティーチング、専門的かつ総合的な知識と技術が習得できる独自のカリキュラムとして位置づけられています。インタビューを通じて、プロジェクトにおけるテーマ設定、その背景にある研究領域および文脈に加え、実際に専門の異なる教員や学生間の協働がどのように行われ、そこからどのような成果を期待しているのかを各教員が語ります。

小林茂教授、大久保美紀准教授

三原聡一郎《空気の研究/ Study of Air》(2026年に再制作)

- プロジェクトのテーマと背景について聞かせてください。

小林 「メディアアート」とはアートとテクノロジーが交差するところという共通の理解がありますが、実際には「アート」の側から語られることがほとんどで、「テクノロジー」の側から論じられる機会は少ないのが現状です。
テクノロジーは、一般的に「目的のための中立的な手段」と見なされています。一方で、生成AIの出現によって仕事の在り方が変化しているように、テクノロジーには人を翻弄するような大きな影響力があります。
「テクノロジーとは一体何なのか」「テクノロジーを使うとはどういうことなのか」。本プロジェクトでは、理論と実践の両方を通じて自由に解釈し、理論化することを試みています。この経験が作品制作を深める上でも不可欠なプロセスであると考えているからです。
また、本プロジェクトでは研究対象を文献だけに限定する狭義の解釈学にとどまらず、作品などさまざまな対象を精緻に分析することを目指しているため、括弧付きの〈解釈学〉としました。

大久保 「テクノロジー」はギリシア語のテクネー(technē)とロゴス(logos)から成ります。テクネーはアルス(芸術)や技芸をも意味する広い概念であり、この点からもテクノロジーとアートは本来的に連続した領域にあると捉えることができる。「技術とは何か」を理解することは、芸術表現そのものを考えることでもあるといえるわけです。だからこそ、手や手の延長である道具を使って制作そのものを考え、解釈することは、IAMASで制作・研究を行う学生にとって良いことであると考えます。私も美学や哲学を研究してきたので、近代以前の技芸からハイテクノロジーまで広い歴史として技術を捉え直し、参照することには非常に興味を持っています。

- 2025年度はどのようなことに取り組んだのでしょうか?

小林 このプロジェクトは、「輪読」「研究会」「再展示・再制作」の3つの活動を軸にしています。
「輪読」では、前期に『ベルナール・スティグレールの哲学――人新世の技術論』(李舜志、法政大学出版局、2024)、後期に『テクノロジーって何だろう?――〈未完了相〉で出会い直すための手引き』(小林茂、BNN、2025)を読み進めました。事前に2節分くらい読み、用意してきた質問や感想を共有して、毎週2時間以上かけて議論しました。

李舜志 『ベルナール・スティグレールの0 哲学 —— 人新世の技術論』(法政大学出版局、2024) 
小林茂 『テクノロジーって何だろう? —— 〈未完了相〉で出会い直すための手引き』(BNN、2025)

小林 「研究会」は、近年注目されているフランスの技術論の重要人物、ジルベール・シモンドンの研究者で哲学者の宇佐美達朗さんをゲストに招いて開催しました。
そして、輪読と研究会で技術哲学、技術論の概念や歴史を学んだ上で、アーティストが既に制作・発表した作品をもう一度制作し直す「再展示・再制作」を行いました。前期では卒業生である平瀬ミキさんの《氷山の一角》(2018/2024)を、後期は同じく卒業生の三原聡一郎さんの《空気の研究/Study of air》(2017)を再制作し、展示をしています。

平瀬ミキ《氷山の一角》(2018/2024)再設置の様子

大久保 「再制作・再展示」は非常に重要だと考えています。近年のアート界には「オリジナルでなければならない」という強迫が強くあります。しかしながら、新しいものはそう簡単に生まれるものではありません。その道に熟達した人の技を真似ることで技芸を身につけていくように、テクノロジーを用いる表現においても、評価されている作品を作り直し、手を動かしながら考え直すことは極めて大事なステップです。

小林 作品を外側から鑑賞するだけでは、制作する力は得られません。「時間の内側」という言葉で表現しているのですが、作品が作られるプロセスの内側に入り込み、自分で試し、失敗も経験しながら学んでいくことでしか得られない知見があります。
「作品はどのようにできているのか」「展示するとはどういうことなのか」「何があれば作品として成立し、何があれば崩れてしまうのか」など、学生たちに再制作を通して体験してほしいと考えたのです。

三原聡一郎《空気の研究/ Study of Air》(2026年に再制作、展覧会「現代性の環境」での展示風景)

- 学生はどのように関わったのでしょうか?

小林 今年度は3人の学生が参加しました。このプロジェクトでは学生が活躍することとコラボレーションの機会を設けることを重視してきました。輪読する文献や再制作する作品を学生が選定し、研究会も学生主体で企画・進行しました。後期に再制作した三原聡一郎さんの《空気の研究》は、第三者による再現のための「レシピ」が公開されています。それを参照しながら、デザインを石井飛鳥さんが、ハードウェアの実装を石井さんと高玄燁さんが、ソフトウェアの実装を片倉洸一さんが主に担当しました。
興味深いのは、レシピがあるからといって、仕上がりが同じになるとは限らない点です。レシピに記述されている材料が見つからない場合は何で代替するのか。回路図の部品をどのように基板に配置するとベストな性能が得られるか。再制作の過程で、レシピに込められた作家の意図を解釈し、作家の視点や「微細な感覚」を体得していく必要に迫られます。
それぞれの得意分野を活かしながら、相互に浸透し合い、議論を尽くして作品の質を追求する。この経験は、今後の自分の作品を制作する上で、または卒業後に多様な職能の人々とプロジェクトを遂行する際に、彼らの大きな力となると信じています。

- 活動の締めくくりとして、2月の「IAMAS 2026」で作品の展示及びトークイベントが行われました。

「IAMAS 2026」三原さんを迎えてトークイベント

小林 再制作したものは1月に一度展示を行い、同時に三原さんを招いた研究会を開催しました。三原さんの制作に関する考え方を伺い、三原さんのオリジナル作品と再制作した作品の相違などについてディスカッションをし、その議論を踏まえてアップデートした作品を、2月の「IAMAS 2026」で再度展示。三原さんを迎えてトークイベントも行いました。
このイベントの内容については、学生たちの自主性に委ね、私たち教員は一貫して黒子に徹しました。彼らが自律的にイベントを完遂したこと。それこそが、このプロジェクトの何よりの成果であると確信しています。
ただ、正直に言うと、最初からこのような到達点を想定していたわけではありません。「輪読」「研究会」「再制作・再展示」を有機的に結び付けながら実践していく中で、正解のない不確かさを引き受け、思考を止めずに制作を継続する。こうした積み重ねから、新しいこと、面白いことは生まれていくのだと感じています。

インタビュー収録:2026年2月
※『IAMAS Interviews 06』のプロジェクトインタビュー2025に掲載された内容を転載しています。