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2023年 リンツ美術工芸大学交換留学体験記 #1 Interface Culturesの成り立ちとIAMASとの関係 / 現地の授業の様子について

石塚隆(博士前期課程2年)

はじめに

こんにちは、IAMAS修士2年、石塚隆(いしづかりゅう)です。
この連載では、IAMASの交換留学制度を利用し、2023年4月から7月にかけての3ヶ月間、オーストリアのリンツ美術工芸大学(Kunstuniversität Linz)での留学経験に基づくレポートを掲載します。この連載を通じて、留学先の大学についてや、現地の学生やアーティストの活動、ヨーロッパのアートシーンなどについて共有していきます。

#1 Interface Culturesの成り立ちとIAMASとの関係 / 現地の授業の様子について
#2 ヨーロッパ周辺のアートシーン / 現地の学生やアーティストの活動
#3 自身の研究内容 / 帰国後の展示について

今回は「#1 Interface Culturesの成り立ちとIAMASとの関係 / 現地の授業の様子」についてご紹介します。


リンツ美術工芸大学交換留学について

情報科学芸術大学院大学(IAMAS)とオーストリア・リンツのリンツ美術工芸大学(Kunstuniversität Linz)との間には、学生交流事業として交換留学制度が存在します。この制度はIAMASの学生が年に2人、リンツ美術工芸大学に1~3ヶ月留学するとともに、同じ期間にリンツの学生がIAMASに滞在し、互いの国や文化を深く理解し合いながら交流を深めるプログラムです。

私、石塚は2023年4月から7月にかけて、修士2年生としてこの交換留学プログラムを通じてリンツ美大に留学しました。留学生活中は、リンツ美大の学科の一つである「Interface Cultures」の学生として活動しました。このプログラムでは、学生自身が留学中の計画を立てることが可能で、個人の研究や制作を進めることはもちろん、授業に参加することやヨーロッパ各地を旅することなど、様々な経験をすることができます。

Linzのメイン通り「ハウプトプラッツ」。橋の手前にある両側の垂れ幕がかかった建物がリンツ美大です。

留学中の活動は非常に自由度が高く、特に授業や研究に対する義務は設けられていませんが、留学先での活動報告や帰国後のIAMASでの報告会など、自身の経験や学びを共有することは求められます。また、IAMASでの授業への出席ができないため、担当の先生と連絡をとりながら、出席代理やレポート提出などの特別措置を受けることも必要となります。

この交換留学プログラムは、県からの留学補助金が助成されており、海外での経験や新しい視点を持ち帰ることで、自身の研究や制作に活かすことができる貴重な機会となります。

 

Interface Culturesの成り立ち

Interface Culturesは、オーストリアのリンツ美術工芸大学において、2004年にChrista Sommerer / クリスタ・ソムラーとLaurent Mignonneau / ロラン・ミニョノーにより設立された修士課程です。このプログラムの名前は、スティーブン・ジョンソンの著書『Interface Culture』にちなんで名付けられました。
Interface Cultures学科は、デジタルアート、インタラクティブアート、インターフェイスデザイン、アート、テクノロジー、芸術研究の分野での実践的な教育が行われています。

Interface Culturesの様子 / 3Fと4Fの2フロアに分かれています
Interface Culturesの3F / 3Fには教授室や講義室、キッチンなど、4FはWS(工房)などがあります

IAMASとの関係

Interface CulturesとIAMASとの関係は深く、クリスタ・ソムラーとロラン・ミニョノーはともに、IAMASの開学前の1995年に開催された展覧会「the Interaction ’95」にて、参加アーティストとして初代学長である坂根厳夫によって招聘されました。
その後1997年から1998年にかけてIAMASのレジデンスアーティストおよび講師として活動しており、2001年から2004年まで助教授としてIAMASに在籍していました。彼らはIAMASでインターフェイスデザインとインタラクティブ・アートのコースを受け持った後、リンツ美術工芸大学にてInterface Cultures学科を立ち上げました。さらに、IAMASとリンツ美術工芸大学との間で交換留学の制度が発足され、こうしてIAMASとの交流は現在も続いています。

Interface Culturesの教員と学生について

現在の学科長はManuela Naveau教授で、彼女は2020年に、データやアルゴリズム、人工知能などに基づく複雑なコンピュータシステムの背後にある参加の機会を研究するため、クリティカル・データの観点からチームに加わりました。
他にもクリスタ・ソムラーとロラン・ミニョノーをはじめとして、ロボティクスやAR・VR、AI、電子音楽など、アートとテクノロジーを合わせ持つ様々な分野の専門的な教員が在籍しています。

学生については、Interface Cultures学科は独特で、学生の大半がオーストリア国外からの留学生です。約50人の学生が在籍しており、ヨーロッパはもちろん、中東やアジアからも多くの学生が集まっています。IAMASとの交換留学制度もあるため、さまざまな国や文化の学生が一堂に会して学び合っています。
私が所属していた年ではトルコやイラン、イタリアの学生が多く、学内でもコミュニティを作っていました。
みな留学生ということもあり、基本は英語で会話していますが、そのレベルは人によって様々で、発音も地域によって特徴的なので、お互いにわかりやすく話そうとしてくれるのでとても助かりました。

学校の施設環境については2019年度の「リンツ美術工芸大学交換留学体験記 #3 大学生活編」に詳しく記載されていますので、そちらご確認ください。

 

夏学期の授業の雰囲気

リンツ美術工芸大学の授業体系は、2学期制となっており、3月から始まる夏学期(Summer Semester)と10月から始まる冬学期(Winter Semester)があります。特に冬学期の内容については2022年度の記事及び2019年度の記事で詳しく触れられているので、今回は主に夏学期の授業の雰囲気について紹介します。

冬学期・夏学期の特色

冬学期は新入生が入学する時期となっており、この期間は基本的な座学や講義が中心となっています。特に、プログラミングなどの実践的な授業は未経験者も安心して参加できるような内容が組まれているのが特徴です。

一方、夏学期は前の学期の学びを生かし、学生自らが主体となってプレゼンテーションや作品制作を行う実践的な内容となっています。具体的には、学んだ技術を活用した作品制作や、インタラクティブアートの授業では個人研究に基づいたプレゼンテーションなどが行われます。この期間は、学生同士の交流やフィードバックが活発に行われるため、自分の研究や作品を深める良い機会となっています。

課外授業やワークショップ

リンツ美術工芸大学では、通常の授業だけでなく、外部講師を招いてのワークショップや特別講義も頻繁に開催されています。また、WS形式の授業の中には学生たちが授業内で展示を計画し、リンツ市内の施設を活用して実際に作品を展示する機会もあります。

「LearningLinz」という授業では市内周辺の施設を訪れます

中でも「Learning Linz」という授業は特筆すべきもので、この授業では実際にリンツ市内の展示スペースやギャラリー、コワーキングスペースなどを訪れます。オーナーや関係者からの話を直接聞くことで、学校を卒業した後の活動のヒントや、展示活動の具体的な方法などを学ぶことができます。この授業を通して地域の人と繋がりを持ちながら、学内の活動だけにとどまらず、学外で展示を企画したり、将来の活動イメージを持つことができます。

 

まとめ

リンツ美術工芸大学の授業は、理論と実践のバランスが良く、学生自らが主体となって学びを深めることができる環境が整っています。特に夏学期には、学んだことを活かして実際の作品制作やプレゼンテーションを行う機会が多く、自分の成果を他の学生や教員と共有することで、自身の制作研究活動に活かすことができます。
また、IAMASとInterface Culturesは深い繋がりがあり、この特別な関係のおかげで得られることはたくさんあります。私自身、昨年のLinzからの交換留学生であるBarbara Jazbecさんに勧められてこのプログラムに応募しましたし、リンツではアーティストを紹介してくれたり色々な場所に連れて行ってくれました。こういう人の繋がりが自身の制作の幅を広げることに繋がるので、ぜひリンツからの留学生に対してもIAMASの学生たちがより積極的に交流を深めて、より良い関係を作っていけたらいいなと思います。

 
今回はInterface CulturesとIAMASの関係や授業について紹介しました。
次回の「#2 ヨーロッパ周辺のアートシーン / 現地の学生やアーティストの活動」では、世界最大規模のアートフェアであるスイスのArt Baselや、現地の方々がどのような活動をしているか等をご紹介します。