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イアマスこどもだいがく レポート

野呂祐人(産業文化研究センター[RCIC]研究員)

イアマスこどもだいがくは、芸術や科学といった領域を超えることで新しい「もの」や「こと」を創造する本学の教育を元に、小学生を対象としたワークショップを行うイベントです。いわゆる図画工作や科学実験といった枠組みを超えた思想や発想の育成を目指して、大垣市と本学が連携して取り組んできました。
3年目となった今年のこどもだいがくは、8月に4回の講座を行いました。今回のレポートは、それぞれのワークショップについて振り返ります。

 

第1回「とくめいおえかき 〜見えない人といっしょに絵をかこう〜」

とくめいおえかきは、お互いの姿が見えない状態で一緒に絵を描くことを通して、インターネット上の「匿名な人とのつながり」について考える造形遊びです。大きな紙の両側から同時に絵を描くと、インクだけが浮き上がってきます。2チームごとに別の部屋に集合し、障子紙を挟み、出会ったことのない人と一緒に絵を描き始めます。




子どもたちは、紙越しに現れる線に戸惑いつつも、裏側にいる匿名な人たちと絵を描き始めました。枠線と塗りに分かれてカタチを描いたり、お互いに線をなぞり合うなど、相互に触発され合いながら絵を発展させました。また、描く場所が少なくなってくるにつれて、段々と面の塗り合いが始まりました。協力して絵を描く流れから一転、競争へと変化し、それぞれ相手チームの動きに驚く様子が観察されました。
絵を書き終わった後に、障子の裏側にいた匿名な人たちと、直接対面しました。「私の絵を描き変えた人はだれ?」と訊く人や「なんとなく会いたくない」といったリアクションをとる子どももいました。(結果的には全員で仲良くなりました。)
最後に、制作を振り返りながらインターネットにおける匿名性の話をしました。後半で起きた人の絵を塗りつぶすような行為は、知らない人を傷つけてしまう危険性があること、一方で匿名な人との共同制作には特別な創造性があることを話しました。
子どもたちも制作の感想で、知らない相手と思ってもいない絵が描けた楽しさや、相手の行動で自分がショックを受けたことなどを、それぞれ話していました。

 

第2回「モノトーク2 〜ぐるぐるづくえでいっしょに作ろう!〜」

モノトーク2は「言葉を使わず、モノ(カタチ)で人とつながること」をテーマにしたワークショップです。3人グループで仕切りのついた回転する机に座り、それぞれ仕切りで区切られたスペースの中に積み木と両面テープでカタチを作ります。3分毎に机をぐるぐる回して、作ったカタチを隣の人に渡し、回ってきたカタチに積み木を足していきます。



子どもたちは、人の作ったモノを観察して、どんなカタチを付け足すかを考えたり、自分の作ったカタチがどのように変わって帰ってくるかを観察していました。
制作が終わったら、それぞれの机で作られたカタチをみて回りました。自分の想像通りのカタチができたと感じた子どももいれば、反対に自分の想像していなかったカタチに変わったことを楽しんでいた子どももいました。あるチームでは扇風機をイメージしたカタチが風車やお花に変わっていったという出来事や、あるチームはぶら下がっている同じブロックを天井のライトに見立てたが、別の子どもは蜂の巣だと思っていた、といったエピソードがありました。
言葉で何を作るかを相談せずに共同制作を行うと、制作者それぞれが違った解釈をもっていても制作が進みます。そうすることで思いがけないカタチができたり、意外なストーリーが生まれたりします。最近の教育では言語活動が重視されがちですが、このワークショップでは、明確な意思疎通ができなくとも一つのカタチができ、人とつながりを持つことができるという部分を大事にしています。

 

第3回「ゴムの森」

「ゴムの森」はコンピュータを使わずに、ゴム紐を使った遊びを通してプログラミング思考を身体で学ぶワークショップです。床と天井にかけて張り巡らされたゴム紐の空間(=ゴムの森)を、伸ばしたり結束バンドで結んだりしながら、通れる場所を変えていきます。そして、変化したゴムの森を、自分たちの体で通ってみます。また後半は、揺れると音のなる機器をゴム紐に付け、音がならないように慎重に森を通るという遊びを行いました。



プログラミング教育と聞くと、コードの書き方を学ぶイメージがあると思いますが、小学生にプログラミング言語を教えるには早すぎるためあまり相応しくありません。「ゴムの森」はむしろ、プログラミング技術の前段階ににある、日常にありふれた「プログラミング思考」を体感することに着目したワークショップです。プログラミング思考とは、「あらかじめ計画し、それを実行する」ことをさします。つまり、ゴムの森をどう作るかが計画であり、実際にその森を通ってみることが実行することに当たります。子どもたちは、森のゴールやスタート付近を通りにくくしたり、道の途中を通せんぼをしたり、いろいろな工夫を行なっていました。
自分で作ったゴムの森を自分の体で通ってみることで、計画したものがどのように反映されるかを体感できたと思います。また、空間を作る遊びをすることで、「あらかじめ計画し、それを実行する」というプロセスならではの創造性が強調されていました。

 

第4回「からだdeバンド」

からだdeバンドは、揺れに反応して音が鳴るようにプログラミングされたバンド型のデバイスを身につけ、からだを動かして音楽を作ろう、というワークショップです。身の回りのものを組み合わせて音を作り、バンドを降るとその音が鳴るようプログラムに組み込みました。最後に腕や脚にバンドをつけ、音とポーズを組み合わせて発表してもらいました。このワークショップでは、「プログラミングと表現」がテーマになっています。




子どもたちは、一度デバイスの仕組みを理解した後に、日用品を使って音づくりをしました。たわしを擦る音やテープの剥がれる音、石が打つかる音など、思い思いの音を録音しました。その後、プログラムを書き換え、デバイスと録音を連動させます。子どもたちはセンサーの傾きで自分の作った音が鳴ることを楽しんだり、驚いたりしていました。繰り返しバンドを振り、どのような傾きで自作の音がなるかを確かめながらポーズを考えました。
子どもたちは、録音した音をデバイスに通すことで、音の表れが変わっていくことを体験しました。また、プログラミングやデバイスという電子的なツールが、音作りや体を使ったポーズのようなアナログな表現へ結びつくことを感じることができたと思います。

 

全体を振り返って

全体を振り返ると、第一回・第二回で取り上げた現代社会におけるコミュニケーションや、第三回・第四回のプログラミングの思考や技術といったテーマなど、今の子どもたちがこれから生きていく中で直面するであろう事柄がテーマになっていました。そして、それらをワークショップで体感するだけではなく、その営みを通してどのような創造性が生まれるのか、という部分が重要だと思いました。
一方で、一度のワークショップでの限られた時間の中では、子ども一人一人の活動を見取ることに限界もあり、また道具や機器などの調整に苦慮する場面もありました。今後も学校教育とは異なる体験を創りながら、多くの参加者が深い学びにたどり着くプログラムを目指していきたいと考えています。