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研究レポート

プロジェクトインタビュー:The Art of Listening Project

IAMASの教育の特色でもある「プロジェクト」は、多分野の教員によるチームティーチング、専門的かつ総合的な知識と技術が習得できる独自のカリキュラムとして位置づけられています。インタビューを通じて、プロジェクトにおけるテーマ設定、その背景にある研究領域および文脈に加え、実際に専門の異なる教員や学生間の協働がどのように行われ、そこからどのような成果を期待しているのかを各教員が語ります。

金山智子教授、吉田茂樹教授、松井茂教授

「フリースタイルの継承 久松真一図書資料展」の様子

- プロジェクトのテーマと背景について聞かせてください。

金山智子(以下、金山) 私は研究手法としてフィールドワークやインタビューを多く用いてきました。特に2015年に根尾のプロジェクトを始めてからは学生と一緒に地域に入っていって話をきく機会が増えました。学生を見ていて感じたのは、「きくこと」は人と人との関係を作ることでもあり、全ての営みの土台になるものであるということです。しかしながら、「語る」が研究領域として成立している一方で、「きくこと」にはあまり光が当たってきませんでした。そこで、私たちの研究や表現活動において重要な「きくこと」についてあらためて議論し、創造的な行為として捉え直すプロジェクトを始めたいと考えました。

吉田茂樹(以下、吉田) 最初に「きくこと」をテーマにしたプロジェクトを始めると聞いた時は、コンピューターや技術を専門としている私のフィールドではないと感じました。ただ、考えてみれば、金山先生とご一緒した根尾のフィールドワークでは技術的な視点で暮らしを見るということをしていましたし、例えば水や電気の話を地域の方からきくことで興味が広がって、もっと色々な人に話をききたくなるという経験をしていました。ものから読み取るということも含めた、幅広い「きくこと」を考えるのは面白いかもしれないと考え直しました。

松井茂(以下、松井) 金山先生とは研究領域が重なる部分があり、私も研究を進める中で「きく」機会が多くあります。しかし、金山先生は社会学、私は現代アートをバックグラウンドとしているので、「きく」目的や方法論に違いがあります。別の視点から「きく」にアプローチしている金山先生とご一緒することで学べることが多くあるのではないかというのが個人的なモチベーションとしてはありました。
教員3人もそれぞれ異なる専門性を持っていますが、今年度参加した6人の学生も全員興味関心が違います。「きくこと」は方法論でもあるし、実践でもある。それが表現になる人もいます。それぞれの興味と接続させながら「きくこと」を考察し実践したことによって、結果的に「きくこと」が立体的に捉えられるようになってきた気がしています。

- 学生はどのように関わっているのでしょうか?

金山 プロジェクトは、「きくこと」に関する方法論、文献、作品をもとにした議論と、「きくこと」を実践している研究者や表現者、技術者へのインタビュー、「きくこと」に焦点をあてた各自の研究・表現の実践の3本柱で進めています。
最初は自己紹介を兼ねて、お互いのことをきき合う試みを行いました。どのように「きく」という行為を行っているかを観察し合い、それぞれの特徴をフィードバックして「きくこと」を客観視するところから始めました。
その延長として、7月のオープンハウスで初めて会う人との「きく」行為を体験する“だんわしつ”と題したイベントを開催しました。来場者の話をきくという行為を通して、学生たちはきくことと語ることは密接な関係があり、聞き手と語り手との相互行為による共同作業であると実感できたのではないでしょうか。

吉田 私は「きくこと」の手法のひとつとして、ものを前にして数人で話をきく「モノトーク」の効果を確認するため、メディアコスモスで「ゲームメディア・ワークショップ」を実施しました。ものを見ることによって、そこに付与されている記憶が想起される。人の話を聞き、そこから連鎖的に話が広がっていくことが非常に面白かったです。さらに興味深いのはその連鎖がその場だけでは終わらないこと。きいたことが別の人の記憶に知らず知らずに入り込んで、少し変容しながら継承されていく。その過程を確認できたことは興味深い経験でした。

イベント「ゲーム機のカセットやカードの思い出を語ろう」フライヤー

松井 メディアコスモスでのゲームのワークショップの前に、アニメーション関連のグッズを題材にしたモノトークを学内で行ったのですが、その時に吉田先生がビデオテープからDVD、配信とメディアが変わっていったという話をされました。別の授業で、同じ話を技術の変遷という切り口で語った時には学生はあまり関心を示しませんでしたが、アニメを入口にすると同じ話がスッと入ってくるようになる。言われてみれば当然かもしれませんが、自分の記憶と関連のあるものを介することで理解が進みやすくなるのは発見でした。

金山 オープンハウスやモノトーク、実践者へのインタビューを踏まえて、後期は学生が各自でテーマを決めて実践を行いました。Eスポーツキャスターの話をきいたり、街頭で高校生にインタビューしたり。福島県相馬市でドローンアート制作を通じて住民の語りをきく作品や、このプロジェクトの課題図書でもある鷲田清一さんの著書『「聴く」ことの力』に記載されたエピソードから着想を得て聴診器で心拍を聞くパフォーマンス作品を制作した学生もいました。表面的には全く違うことをしているように見えますが、広義の「きく」を実践しているという意味で通底しているものを感じます。

松井 2024年1月24日から3月1日まで附属図書館で「フリースタイルの継承 久松真一図書資料展」を開催しました。学生と一緒に岐阜市にある久松真一記念館ツアーを実施した際に、博士前期課程1年の雨宮由夏さんが記念館に展示されている器に興味を持ち、館長である久松定昭さん、そして記念館自体と器を通して対話を深めていきました。最終的には雨宮さんが真一さん、定昭さんの記憶を再演、継承(改変)したインスタレーションに昇華させました。
鷲田清一さんは『「聴く」ことの力』と対をなす形で『「待つ」ということ』という本が出ているのですが、この展示ではまさに“待つというキュレーション”、“ 話を聞くキュレーション”を実践できたと感じています。人は自分で思っているほどきくということができていません。さらにきいた上で、待つ時間、考える時間を取らないと思考は深まりません。そのことをこの展示を通じて確認することができました。きく力がある人とない人では表現に大きな差が生まれます。受動的にきくのではなく、能動的に聞くことで語ることが変わることも実感することができました。

 
※『IAMAS Interviews 04』のプロジェクトインタビュー2023に掲載された内容を転載しています。