EN
Follow us
twitter facebook
資料請求

メディア表現基礎

レポート:クワクボリョウタ(情報科学芸術大学院大学 准教授)

2017年4月25日(火)〜28日(金)の日程で、1年生を対象にした「メディア表現基礎」をギャラリー1・2で実施しました。「メディア表現基礎」は作品の制作を通し、メディア表現の基礎を技術と考え方の両面から習得する導入科目です。
今年度は昨年度に引き続き、展覧会エンジニアの金築浩史さんと西野隆史さんをゲスト講師に迎え、ビデオプロジェクターを素材としたインスタレーションの制作を題材に授業が進められました。

1日目

プロジェクターの設置実習

全体ガイダンスの後、金築さん・西野さんによるプロジェクタ設置実習を行い、「フロント打ち」「リア打ち」など基本的なプロジェクターの設置の仕方をグループに分かれて体験しました。既成のビデオ・プロジェクターを展示に適した状態にアレンジし、1ピクセルのずれもない安定した設置をするための作業には、ベニアや長ネジ、ワイヤーなどを組み合わせた大工仕事が欠かせません。「IAMASへ入学して早々にノコギリを挽くことになるとは思ってもみなかった」と呟く1年生も散見されました。

プロジェクターを拡張した使い方と表現──先行作品を模倣する

後半はプロジェクターの使用方法を拡張し、新たな表現の糸口を掴むために、前半に各々が完成したプロジェクション環境を使って先行作品の模倣を行いました。プロジェクターを使った独特の表現技法を確立した作品として、Yuan Goang-Ming「Fish On Dish」 (1992)、minim++「Tool’s life」 (2001)、ヤマガミユキヒロ「東京駅の眺望」(2012)、沼倉真里「Layer of Air」(2015)の4作品を参照し、グループ毎に各作品の技法を模倣しました。
作業後に行ったレビューとディスカションの中で、今日では「プロジェクション・マッピング」というワードで一括りにされるであろう映像と実体の邂逅には実はさまざまな様態があることや、先行作品で選択されている素材や形状にはそれぞれ明確な意味と意図があることを話し合いました。

2日目

作品のプランと技法のプロトタイプ

初日の模倣の経験をヒントに、それぞれのグループが独自の技法を考案し、それによって構成されるインスタレーションのプランを決めました。この作品を完成させることがこの授業のメインの課題となります。
午前中にプランを発表。午後にはその要素となる技法を実証するプロトタイプの制作と発表、レビューを行いました。プロトタイプから気づいたことや問題となる箇所をディスカッションし、翌日からの本制作の方針を固めました。金築さん、西野さんのお二人からはプロの見地から技術的・時間的に実現可能な方法などについてアドバイスをいただきました。
かなりハイピッチの進行ですが、それ故に興味関心に優先順位をつけて、思い切った取捨選択が求められる一日となりました。

課題の主旨

作品のコンセプトを決めてからそれを実現する手段を探すのではなく、技法を決めてそれに沿った内容を考えるところに今回の課題の特徴があります。作品制作や研究のあらゆる場面で、言語ベースでの綿密なリサーチやディスカッションは必須のものですが、この授業ではむしろそれ以外の部分にフォーカスしました。それは、メディア表現に於いて、手法の選択とその的確な実現を通して形態・配置・エネルギー・時間・身体の関わり方を意識し、それらが構成されてコンセプトが具現化されていく過程を理解しようとするものです。また、適切な設計と手段によって慎重にチューニングしていく中で突如意味が立ち現れるような臨界点があることを実感するものです。

3日目

作品本制作

いよいよ作品の本制作の開始です。
各班ともプロジェクターで投影する映像のロケハン・撮影・編集などとギャラリーでの設営作業をメンバーで分担して進めていきます。
金築さん・西野さんのアドバイスを受けながら、必要な条件を満たすプロジェクターを選び直したり、2台のプロジェクターを連動させたり、投影が不要な箇所のマスキングや目隠しのための造作を行ったりと、各グループさまざまな作業を進めました。作業が進み、完成度が上がるたびに他の部分の粗が見えてきます。そこでまたその粗を解決すると他の問題が見えてくる…というプロセスが始まります。
一日の最後にはレビューを行い、各グループの進捗の確認と改善点の指摘などを行いました。教員だけでなく学生同士のコメントも目立ってきました。

4日目

展覧会と講評

午後から学内で展覧会形式の発表と講評を行いました。
今回は来場者(教職員、二年生)にまず作品を鑑賞してもらい、作者による説明は相手に求められるまで行わないように取り決めました。それは、非言語的な表現がどのように他人に伝わり、どのように作者の意図とは違う形で受け取られるかを実感する絶好の機会を逃したくないからです。今回制作したのがインスタレーションということもあり、殊更に作品と環境の境目が曖昧であり、それ故に作者の意識していないあらゆる部分に人が意味を見出してしまう可能性があります。そうした体験の全てがメディア表現の要素となりうるということが、来場者との対話の中で明らかになったのではないでしょうか。

おわりに

メディア表現基礎は短い期間で作品の一部始終を体験する「エスプレッソ」な授業です。あまりの急展開に今まで作品を制作したことのない学生には戸惑う場面もあったかもしれません。もちろん本学の学生全員が今後メディア・インスタレーションを専門に研究制作していくわけではありません。しかし、今回得られた実現力と、メディア表現の可能性についての経験は各自の研究に必ず活かされていくはずです。

担当教員:赤羽亨・クワクボリョウタ